中島みゆきの楽曲を原案とした映画「糸」(2020年)や、宇多田ヒカルの「初恋」から生まれたドラマ「First Love 初恋」(2022年)など、近年では名曲にインスパイアされた数々のドラマや映画が制作されている。琴線に触れる楽曲が、ドラマチックなストーリーとして目の前に広がる瞬間はまた格別な高揚感があるもの。


 
中島美嘉のウィンターラブソングをモチーフにした映画「雪の華」(2019年)は、冷たい風や舞い落ちる雪、その中で温かな愛が溢れ出す"冬の世界"を描いた楽曲を、美しい映画として表現した1作。登坂広臣&中条あゆみが誰もが恋に落ちるようなカップルを熱演し、見る者を切なくも温かな世界へと誘ってくれる。
 


余命1年を宣告された美雪(中条)の夢は、約束の地・フィンランドでオーロラを見ること。ある日、ひったくりにあった美雪は、ガラス工芸家を目指す青年・悠輔(登坂)に助けられる。
 


悠輔が男手一つで妹弟を育てていること、彼の働くカフェが危機に陥っていることを知った美雪は、一生分の勇気を振り絞り、100万円を出す代わりに1ヶ月間だけ恋人になるという無謀な契約を持ちかける。そして"期限限定"の恋は、東京とフィンランドを舞台に切なく加速していく...。



2003年に大ヒットした楽曲「雪の華」は、中島のエモーショナルな歌声、恋の切なさを綴った歌詞の普遍的な世界観が日本のみならず人気を博し、あらゆる人々にカバーされて歌い継がれてきた名曲だ。時を経て一層輝きを増す同曲にインスパイアされて生まれたのが本作で、初共演を果たした登坂と中条が恋人同士を演じたことも話題となり、劇場公開当時は興行収入10億円を突破。幅広い世代から支持を集めた。




美雪と悠輔の恋は東京とフィンランドを舞台に繰り広げられるが、真っ白な雪に覆われた大地や美しい街並みなど、フィンランドの豊かな風景を堪能できるのも本作の大きな魅力。そして何より、登坂&中条の演じたカップルが応援したくなる2人であることが、大きな見どころだ。
 


余命宣告をされたヒロインというとどうしてもか弱く、悲壮感の漂う女性を想像しがちだが、中条が演じた美雪は悠輔と出会ってから前向きになり、その笑顔もどんどん輝きを放ち始める。"期限限定"の恋人となった悠輔に、別れ際には自分が振り返るまで見送っていてほしいとおねだりしたり、メガネをとった素顔を褒められてニヤニヤしてしまったり、ちょっとした会話にも「幸せすぎる!」と悶絶したり、健気で一途な姿がなんともキュート。



一方の悠輔は、美雪との初対面で厳しい言葉をかけたりと一見ぶっきらぼうに見えるが、実は心根の優しい青年だ。最初は美雪との"期限限定"の恋に戸惑っていたものの、次第に美雪に対して本当の笑顔を見せるようになったり、愛おしさがにじみでる眼差しで見つめたり、悠輔が彼女にどうしようもなく惹かれていく過程を登坂がナチュラルに演じている。




本作では駆け出すシーンが多い悠輔だが、その全力疾走ぶりや、ガラス工芸に傾ける愛情からも、彼のまっすぐさがひしひしと伝わってくる。美雪が一生分の想いをかけた恋の行方を、ぜひ見届けてほしい。
 



文=成田おり枝