【With ensemble】Who-ya Extendedがギターとフルートと繊細な心の動きを歌う




■ロック×EDMでヘヴィーなサウンドを築くWho-ya Extendedとは?


 アコースティックとエレクトロサウンドが緻密に混ざり合った重層的でヘヴィーなロックサウンド、

複数ジャンルを横断するミクスチャー的なスタイル、

そしてストレートに突き刺さる熱量ある歌声。


 ボーカルのWho-yaを中心に結成されたWho-ya Extended(フーヤエクステンディッド)は、




2019年に突如現れたクリエイターズユニットだ。


Who-ya Extended –




 A Shout Of Triumph | With ensemble テレビアニメ『PSYCHO-PASS 3』のオープニングテーマに起用された「Q-vism」で鮮烈なインパクトを残し、


2020年には「Synthetic Sympathy」で同アニメ劇場版の主題歌を飾った。


 「楽曲そのものを純粋に受け取ってほしい」という意図から、

当初は姿を表しておらず、

その音楽性とあいまってどこかミステリアスな印象だった彼ら。

しかし、2021年1月開催のオンラインフェス


『Sony Music AnimeSongs ONLINE 日本武道館』で初めてのライブパフォーマンスを行った際、

緻密な音像はそのままに、

エモーショナルな姿を見せつけ、


まだまだWho-ya Extendedのほんのいち部分にしか触れられていないのだと思い知らされた。


 他にもWho-yaの多面性を感じた出来事といえば、


『THE FIRST TAKE』だろう。


バンドとEDMを融合させたオルタナティブなサウンドと歌声が持ち味の彼らが、


『THE FIRST TAKE』出演時にはシンプルなアコースティックサウンドに生身の歌声でしっかりと曲の世界を描き出し、


その繊細さとこれまでとはまた違ったアプローチそのに、

いちリスナーとして筆者もハッとさせられたものだ。 


■『With ensemble』歌唱曲「A Shout Of Triumph」 そして、

今回の『With ensemble』である。 


Who-ya Extendedと『With ensemble』の共演は、

まさに“アンサンブル”そのもの。

Who-yaひとりが主役になって歌い上げるわけではない。


技巧的な楽器の音色と微細な音のコミュニケーションを交わしながら、

時に絡み合うように戯れたり、

自らの声色を美しく浮かび上がらせたりする。

 

そんなライブレコーディング独特の緊張感が、


Who-yaのあらたな一面を引き出していた。 


『With ensemble』で取り上げられた「A Shout Of Triumph」は、


カードゲームによって社会のあらゆる仕組みの優劣が決まる世界を描いたテレビアニメ『ビルディバイド -#FFFFFF-(コードホワイト)』のエンディングテーマ。 

Who-yaは同曲について、


「自分でどうすることもできないことへの抗いや、

何かを目指しているものがある人の孤独や葛藤をテーマとして広げたいと思った」と語っている。


その言葉通り、


楽曲はアニメの世界観に寄り添い、


人間の心の深淵にある苦悩と、

そんな中でも希望を見出そうとする感情が重なるコアな部分が絶妙に表現されている。 


オリジナルの曲調は、


推進力溢れる強いビートと、


耳に残るEDMメロディが印象的な、


ハイテンポなダンスチューン。


MVでは、音楽に対してノリよく歌うWho-yaの姿と、

ダンサーの丹波南美によるダイナミックな舞に目を奪われる。

 いっぽう、『With ensemble』の照井順政と武嶋聡によるアレンジバージョンの編成は、


ビートと低音のリズム隊による確かな骨格があったオリジナルとはうって変わり、

2本のギターと2本のフルート。

 テンポを少し落とし、

高音部で細かな音を紡ぎ出す4つの楽器が、

デリケートなアンサンブルを展開。

濃淡なものから透き通ったものへと、

身にまとう衣装を一新させたような新鮮な印象を受ける。

 アコースティックギターの技巧的なプレイに誘われ、

Who-yaは“目を閉じたって消えない刻まれた苦悩誓い 繰り返さぬようにと 奮い立っている”と歌い出す。


強い決意を確かな声色で決然と歌うのかと思いきや、

オリジナルとは違ったある種の“ささやき”のような声が発せられ、思わず耳を引く。 


続いて“命からがら崖から這い上がって”とアクティブなオリジナルバージョンにはなかったような澄んだ裏声に近い声が美しく響き、


“走っても叫んでも同じだけ遠ざかる”という歌詞の内容に切実さを伴わせている。 

ここで気づく。

ただただ前進していくビートの中で、


軸のブレない強さが感じられたオリジナル版とは違い、

アレンジ版では同じく希望や勝利を渇望しながらも、

アンサンブル独特の揺らぎに誘われ、

“決意”を目前にした人間の脆さや危うさを露呈しているようだと。 

人間の内側にある強さと弱さは表裏一体であることを、

両バージョンのWho-yaの歌声を通して再認識させられるのだ。 



■ただ前に進むだけではない。

繊細な感情の動きを表現する それは、

音楽の持つエネルギーの方向性にも表れている。 


エネルギーが前へ前へと集中しているオリジナルバージョンとは違い、

アレンジバージョンでは一つひとつの楽器の動きひとつでエネルギーバランスはいとも簡単に変わる。 

例えば、ギターがリズミカルに音楽を支えているかと思えば、

突如Who-yaの歌声から距離を置いたり、


対抗するように裏拍を打ったりし始める。


フルートはWho-yaの歌声に呼応するようにテクニカルで慧敏な相槌を打ったかと思えば、


突如音楽にベールをかぶせるかのようなオブリガードで歌い上げて意表を突くことも。 


4つの楽器とWho-yaの歌声がソリスティックになればなるほど、

脆さを兼ね備えた繊細で精緻なアンサンブルが仕立て上げられる。

これは、アコースティックによるライブレコーディングならではの醍醐味でもあるだろう。

 楽曲中、何度も歌われる“A shout of triumph”。 


光や勝利を掴む道のりに迷いはあれど、


自分の“憧憬”に挑み続ける――この『With ensemble』との共演によって、


楽曲の持つメッセージが一層立体的に聴こえてくることだろう。 

ぜひ聴き比べてその世界観を深めていただきたい

TEXT BY Moe Kuwada