「回転体には手を出すな」 | " 木の住まい " に出会って、杉の家

「回転体には手を出すな」

以前、全国各地に工場を持つ大企業の一番大きな工場で化学分析をやっていたことがある。
化学分析といったって、専門知識がいるわけではなく、
料理と同じように...料理よりはかなり慎重に...
ときには0.0000gの計量をしてレシピ通りに事を運べばこなせる内容。
みんな、大して考える事もなく働いていたが、危険がいっぱいあった。

例えば、濃硫酸を使った検査。
目に入ると大変な事になるので保護眼鏡をかけるが、この検査を素手で行っていた。
直接触れるわけではないが、
慎重に(というほど誰も気を遣っていなかったが)作業しても
ちょっと飛び散ったりしたりする。
これを拭く雑巾は、数日でボロボロに朽ちる。

手作り石けんを作る時に使う薬品としてなじみ深い、
水酸化ナトリウム、またの名を苛性ソーダ。これも危険な劇薬。
石けん作りに精を出していた母が、
眼鏡もかけず手袋もせずに扱っていたので注意したことがある。
知らないというものは恐ろしい。
この薬品を薬局で購入する時には署名と捺印が必要。
それが何故なのか考えれば?と思ったものだが。

私たちが検査でこの水溶液を使うときには、
大きな保護眼鏡はかけるものの、やはり硫酸同様に素手で作業をしていた。
ある日、なんかチクチクするなぁと思って指を見ると、
器具の不具合で少しずつ漏れていた溶液が私の指に落ち、
爪の端とそのご近所がじわじわと溶け始めようとするところだった。
タンパク質を溶かす証明が私の指の上でなされていた|||||/( ̄ロ ̄;)\|||||||

エタノールを使えば、爪に塗ったマニキュアは真っ白に変色し、
アンモニアを使えば、うっ、くさっ!と鼻を刺激し...
ほかにもまあ、いろいろあったが、あたりまえの毎日だった。

小さな検査室では意識が低かったように思うが、
工場内には大きな装置がいっぱいあって、大きな危険が潜んでいるので
様々な事故防止の教育がなされていた。
その中で、はっとしたのが「回転体には手を出すな」という教え。

回転している大きな装置に巻き込まれては、
体の一部分がなくなってしまったり、命を落とすこともある。
この教えを化学検査室であてはめると、
手を出すような回転体といえば、遠心分離機、洗濯機、ミキサーくらい。

むむっ?遠心分離機はともかく、洗濯機やミキサーは家庭にある物。
自転車やら、ハンドミキサーやら、こどもの遊びでさえ、
ベイブレードだの、竹とんぼだの、なわとびだって...
”回転体 ”は家庭の方がいっぱいあるではないか。
家で「回転体に手を出すな」などと唱える人は誰もいなかったが、
家庭の回転体を意識してから、この言葉がいつも頭に残っている。

手を出さないのが当たり前のようだが、
こどもが自転車の回転通のタイヤに手をつっこんだり、
古い二層式洗濯機の回転の余韻がある脱水機の中身を取ろうとしたり、
回転中のミキサーに箸をつっこんでしまったり
(蓋をせずに回すこと自体間違っているが、数年前に娘が学校でやってしまった)、
飛んで来た竹とんぼで顔に傷が残ったり(これも娘だ)、
小さな危険はどこにでもある。

幼かったわが子にも、機会あるごとに「回転体には手を出すな。」と言い聞かせたものだ。
(最近言ってないなぁ・・・一緒にいる時間が短くなったせいかも?)

教えてくれた工場は、今はもうその歴史に幕を閉じてしまった。
結婚で遠方移動のために7年ほどで辞めてしまったけれど、
15年たった今も、工場で学んだことを時々思い出す。