「・・・・いつもそう・・・

 

    わたしのやることは・・・

 

・・・・いつも最後は上手くいかない・・・・」

 

 

 

柑橘の紫煙を吐きながら、

 

涙を零して華子が口を開く・・・・

 

 

 

音楽家の父の下に産まれた。

 

 

早くからヴァイオリンの道に進んだ。

 

 

幼い時は、

 

 

「天才少女」

 

 

もてはやされた。

 

 

事実、

 

コンクールを「総なめ」としてきた。

 

 

日本では、

 

向かうところ敵なしだった。

 

 

 

すぐに、

 

タレント活動が始まった。

 

マスコミから持ち上げられ、

 

一躍、時代の寵児となった。

 

 

 

 

・・・しかし、

 

 

「天才少女」

 

 

長くは続かなかった。

 

 

すぐに、

 

「次の天才少女」が現れた。

 

・・・・しかも、海外コンクールの「優勝者」としてのタイトルを持っていた。

 

 

潮が引くように世間から忘れられていった・・・・

 

 

 

しかし、

 

落胆はなかった。

 

 

 

タレントになりたいわけじゃない。

 

あくまでも、

 

目指すは、

 

「一流ヴァイオリニスト」

 

 

 

本気の修行を始める。

 

 

意気揚々と海外に渡った。

 

 

「アメリカ留学」

 

 

・・・・そして、ヨーロッパのコンクールに出場していく。

 

 

しかし、結果は出なかった。

 

 

 

「井の中の蛙」でしかなかった。

 

 

日本では、それなりの成績が出せた。・・・・しかし・・・「本場」・・・・クラッシックの本場。ヨーロッパでは結果は出せなかった。

 

 

「優勝」

 

 

そうでなくては意味はない。

 

 

本場、ヨーロッパ、

 

クラッシックの裾野は広い。

 

 

2位や3位・・・・ましてや、「入賞」程度では、

 

とてもプロにはなれない。

 

 

 

・・・・進路が定まらない。

 

将来が見えなかった。

 

 

このまま、ヨーロッパ、アメリカ・・・・あくまで「本場」で、さらなる修練の日々を努めるのか・・・・

 

はたまた、日本に帰って、

 

子供向け、ヴァイオリン教室でも始めるのか・・・・それでも、苦しい道になるのは目に見えていた。

 

 

・・・・そんな時に、「KPOP」から声がかかる。

 

 

「エレガント」

 

 

ポップスではなく、

 

クラッシックを背景とした女子グループの構想があった。

 

 

「渡りに船」

 

 

しかし、

両親は反対した。

 

父の考えは、

 

あくまで、

 

「クラッシック」の道を全うすべきという意見だった。

 

・・・・プロが無理なら、「音楽教師」への道。

 

 

あくまで、

正統派の音楽家としての道を進むべし。

 

 

そんな「胡散臭い」芸能の道など・・・・まして「KPOP」など論外だ。

 

消費されて、

 

人間として終わってしまうのは目にみえている。

 

父と娘。

 

「大喧嘩」となった。

 

 

 

「ダメだったら、韓国で野垂れ死んでやるわよ!

 

 二度と日本には・・・・家には戻らない!!」

 

 

啖呵を切って、

 

半場、

 

「絶縁」「家出」として韓国に渡った。

 

 

オーディションには勝ち進んでいった。

 

 

「デビュー」

 

 

もう、すぐそこだった。

 

 

 

・・・・・病に倒れた。

 

 

 

・・・・・え・・・・え・・?・・・・なんで・・・・?

 

 

なんでわたし・・・・・?

 

 

わたしは・・・

 

わたしは・・・

 

どこかで・・・

 

なにかわるいことをしたの・・・・・・?

 

 

どうして・・・・

 

 

どうして、

 

いつも、

 

さいごはうまくいかないの・・・・

 

 

 

薄れる意識・・・・闘病・・・・

 

 

その最中・・・

 

 

ただ、

 

 

自分を責めた・・・・責め続けた・・・・・

 

 

 

 

・・・・・同じだった。

 

 

華子の「哀しみ」「悲しみ」は・・・

 

 

ボクと同じものだった。

 

 

・・・・どうして自分だけ・・・・・???

 

 

 

ボクは・・・・何か、わるいことをしたんだろうか・・・・

 

 

 

ボクも、

 

 

幼いころから、

 

 

常に、

 

 

自分を責め続けて生きてきていた・・・・・

 

 

 

人間は、

 

あまりに不幸が続けば、

 

 

「他責」とはしないようだ。

 

 

 

何か・・・

 

どこか、

 

 

 

「自分が悪い」

 

 

 

そう、自分を責めてしまうものらしい・・・・

 

 

 

上手くいかなかった。

 

 

最後は、

 

 

上手くいかなかった。

 

 

虐められてきた。

 

 

小学生・・・中学生・・・・

 

それが、「止む」ときがきた。

 

人生は好転するかと思えた・・・・

 

 

・・・しかし、

 

 

呆気なく転校させられ、・・・・「夜逃げ」となって、

 

再び、虐め生活へと戻っていった。

 

 

 

大人になって、

 

仕事も・・・

 

 

上手くいきそうだった・・・

 

 

最後は、

 

 

自ら設立した会社で「上場」を視野までに入れた・・・

 

 

・・・しかし、

 

見事に、

 

 

「2階で梯子を外される」

 

 

・・・・見事にひっくり返り、

 

 

人生は詰んだ。

 

 

全て、

 

最後の最後、

 

上手くはいかなかった。

 

 

 

・・・・そして、

 

 

ボクも、

 

華子と同じく

 

 

「不治の病」

 

倒れた。

 

 

 

黙って珈琲を啜った。

 

 

華子の吐露を聞いた。

 

 

 

心が激しく「同期」していた。

 

 

運転席と助手席。

 

 

ふたつの身体。

 

 

互いの身体を中心に、

 

 

「渦」が巻いてるようだった。・・・・そして、それぞれの身体に滲み込んでいくようだった。

 

 

「音叉」だ・・・・

 

互いの身体が音叉となって共鳴していた。

 

互いの憑依体質が溶け合っている・・・

 

 

身体内。

 

同じ「何か」で満たされていった。

 

 

華子の悲しみはボクの悲しみだった。

 

ボクの哀しみは華子の哀しみだった。

 

 

身体の中。

 

 

華子の悲しみが満ちてきた・・・・ボクの哀しみと混ざり合っていった・・・・ひとつに混ざり合っていった・・・・