アクアをべンツの隣に滑り込ませた。
贅沢珈琲とデザートの袋を持ってベンツのドアを開けた。
助手席に乗り込んだ。
テレビの音が耳に入ってくる。
運転席。
華子の表情が暗い。
無言。
スマホを差し出してきた。
受け取る。
画面はメッセージ画面だった。
ホテルからの・・・・華子とSEXするためにとったホテルからのメールだった・・・・
華子が、
シガレットケースを取り出す。
「・・・・政府は、新たな緊急事態宣言を発令し・・・」
テレビ画面。
女子アナウンサーが喋っていた。
メールは、
ホテルからの、予約のキャンセルを知らせてきたものだった。
ホテルは華子がとっていたんだった。
またしても、
コロナ感染者が増えていた。
特に首都圏の増加が激しい。
華子が煙草を咥えて火を点けた。
ふぅぅぅ・・・・・・・
ことさら大きく息を吐き出した。
車内に柑橘の煙が広がっていく・・・
華子は運転席にめり込んでしまうほどに見えた。
気落ちした表情が痛々しかった。
日陰になっていることもあるだろう。
一気に年齢を重ねたように見えた。
一気に、
身体が小さくなってしまったように見えた。
「蹲る」
そんな姿だった。
・・・・ここまで落胆するのか・・・・
ボクは、少し驚いていた・・・
華子が、
ゆっくりと、
ゆっくりと、煙を吸って・・・・そして吐き出していく・・・・
記者会見。
政治家の、
まるで、「鬼の首でも取った」ような声が響く。
続いて、
専門家とやらのジジイのしたり顔。
・・・・どこか「嬉しそう」な、
そして、上から目線の、
「教えてやる」
言わんばかりの物言い。
・・・・ボクは、
こいつらの顔を見ると虫唾が走る。
唾を吐きつけたい衝動に駆られる。
何度目かの、「緊急事態宣言」・・・・いったい何度目だ・・・・・?
もう、何が何やらわからない。
営業自粛なのか、
営業禁止なのか・・・・法的拘束力は・・・・
・・・・いったい、
何が起こっているのか、
もう、さっぱりわからない・・・・
ただ、
テレビで、
えらそーな政治家と、えらそーな専門家が能書きをほざいていた。
・・・・・だから、どーしたぁ・・・・
クソ野郎どもがぁ・・・
こいつらを見ているとマジでイライラする。
「緊急事態宣言!!!」
・・・・だからなんだ??
だから。どうしろというのか?
「対策」は何もない。
国家は、
我々政府は、
我々政治家は、
我々専門家は、
こうやってあなたを助けます!!
そんな発言は一切ない。
「助ける」
その病院すらない。
街中は、
空虚に救急車のサイレンが響くだけだ。
道路端に止まった救急車がむなしくサイレンを鳴らしている・・・・
国は、
政治家は、
専門家は、
ただ、
「危険」
「危険!」
「危険!!!」
「危険だと言ってるだろう!!!!」
言い募るだけだ。
コロナは危険だ!!
言ってるだろ!!??
だから、
罹れば、
罹ったアンタが悪いんだ。
あとは、
国は、
政府は知らねーよ。
そう言ってるだけだった。
「コロナは危険!!」
で?
だから!?
・・・・だから、
どうやって生きて行けばいいんだ!!!???
「自粛しろ!!」
「休業しろ!!」
言うなら、
その答えを、
その方策を、
対策を、
支援策を出しやがれ!!
お前たちは、
ただ、
「危険!!」
言うだけで、
のうのうと大金をせしめてるだけじゃねーか。
何ら、
「本来」の仕事を成していない。
ただ、
「オオカミ少年」よろしく、
人々の不安を煽ってるだけじゃねーか。
揃いもそろって、
それで、大金貰ってるクズ野郎だもだ。
「コロナは危険!!」
その一言を、
こ難しい、専門用語を使って言い募り、
あたかも、
自分たちが、
こ難しい仕事をしてるがごとき見せかけてるだけじゃなーか。
「1+1=2」
その単純な話を、
連立方程式や、
高尚な、こ難しい、高等数学を駆使して、
わざわざ「わかりにくく」説明しているだけのことだ。
・・・・それを、
自分たちの「仕事」とし、
・・・・けっきょく、
ヤツらの事務所や、
ヤツらの病院が、儲かるって仕組みを作っているに過ぎない。
自分たちは、安全な場所で、
ただ、
「危険」を言い募っているだけだ。
本来、
「難しい話」
それを、簡単に説明するのが、ヤツらの仕事だ。役目だ。
しかし、
ヤツらは、
自分たちの存在意義と、
国民を煙に巻くために、・・・・解決策は用意できないために。
殊更に、難しい言葉や、難しい言い回しを使い、
自分たちの「優秀性」ってのを誇示しているに過ぎない。
・・・・クズの極致だ。
えらそーな政治家、
えらそーな専門家。
やつらの話を聞いていれば、
けっきょく、
極論すれば、
小学生でもわかる、
「手を洗いましょう!」
「うがいをしましょう!」
ただ、それだけを、
こ難しい「へ理屈」を重ねて連呼しているに過ぎない。
・・・・・金はなくなっていく・・・・
どんどん、どんどん金は無くなっていく・・・・
借りても借りても、
すぐに、金は底をついた。
いったい何年かかっているのか・・・・
あと、何年かかるのか・・・・
いつまで耐えればいいのか・・・・
だからといって、
ちょっと動けば・・・ちょっと働けば、
「非国民!!」
同じ国民から叩かれる。罵られる。
「不治の病」だ。
「コロナに罹ったら死にますよ」
主治医から宣告されている。
コロナから避難し、疎開すれば、
「自粛警察」から叩かれた。嫌がらせを受けた。
「コロナ渦」
「緊急事態宣言」
家賃が無くなるわけでも、
家賃を国が補助するわけでもない。
「生活」は、
誰も守ってくれない。
働くか、
借金するか、
・・・・それしか、方法はない。
・・・ボクら、
「ひとり自営業」
「建築業」には、
なんら助成金・・・・補助金???
そんな、
生活を守る、
「支援」
何もなかった。
つまりは、
「死ね!」
そういうことなんだろうと思った。
「死ね!!」
そういうことだった。
クソ野郎どもがぁ・・・・
・・・画面を見ながら、
ありったけの汚い言葉。
ありったけの憎悪。
腹の底で毒づいていた。
「やっぱりこうなる・・・・・
私の人生は、
何をやっても、
けっきょく、最後は上手くいかない・・・・」
華子の頬。
涙が一筋流れた。