大学病院。

 

定期検診が終わった。

 

 

ボクは「秘密基地」に急いだ。

 

 

入って行けば、

 

「The・宝塚」

 

彼女がスマホを触っていた。

 

ボクを見て会釈をする。・・・・スマホを触ったままだ。

 

 

誰もいない。

 

ここには、誰も来ない。

 

 

もともと、

 

大学の「喫煙場所」だったんだと思う。

 

それが、

 

 

「全面禁煙」

 

誰も来なくなったところに、

 

 

「コロナ渦」

 

 

大学の授業も、

「リモート」になってしまい、

 

学生自体がいなくなったんだろう。

 

 

・・・・確かにな、

 

入院・・・通院・・・これまでは、けっこう、学生を見た。

 

それが、

 

今は、

 

全く見なくなったもんなぁ・・・

 

 

マスクをしたまま、当たり障りのない会話をする・・・・

 

 

互いに、

 

 

話の糸口を探してるって感じか・・・

 

 

いや、

 

 

彼女には、そこまでの意識はないんだと思う。

 

 

彼女のスマホは、ひっきりなしに、「何か」の音が鳴った・・・メールとか、なんだか、そんな通知音。

 

 

いろんな音が鳴った。

 

 

 

ボクのスマホは、そんなに音の種類がない。

 

 

「通知音」

 

 

っていえば、

 

メールだろうが、なんだろうが、

 

 

全部同じ音だったりする。

 

 

買ってから、んなとこいじってないからな。

 

 

彼女のスマホは、なんだか、いろんな音がする。

 

 

そして、

 

気づいた。

 

 

一定の音の時に、彼女がスマホを確認するのがわかった。

 

 

・・・・ああ・・・・そういうことかぁ・・・

 

相手によって「音」を変えてるってことだな。

 

彼氏専用のメール音とか、そんなとこか・・・・

 

 

 

ガラス張りの建物だ。

 

この前と違って、長閑な陽の光が入ってきた。

 

「冬」

 

しかし、ガラス張りゆえに、陽射しが暖かい。

 

 

 

別に、話をしながらスマホを触られていても気にはならない。

 

 

そもそも、真剣な話をしているわけじゃない。

 

 

黙っているのも居心地が悪い。

 

 

ふたりっきりだ。

 

礼儀として、話をしている・・・コミュニケーションをとっている・・・・その程度のことだった。

 

 

別に、

 

「オジサン」としては、

 

それでも、

 

充分な、

 

 

「目の保養」だった。

 

 

 

「コロナ渦」

 

 

引きこもり生活だ。

 

たまの外出は、

 

 

「コロナ最前線」の大学病院。定期健診。

 

 

そこでも、眼にするのは、

 

やっぱり、お年寄りが多い。

 

 

その中で、

 

若い女性の姿を見られるのは、なんだか、癒される。

 

 

・・・・そもそも、

 

仕事が、

 

 

「建築業」

 

 

男社会の権化のような世界だ。

 

 

「女の人」

 

見ることがないような労働環境だった。

 

 

そんな日常から比べれば、

 

「若い女の人」とふたりっきりっていうだけで、

なんとも、和やかな時間だった。

 

 

しかも、

 

 

「The・宝塚」

 

 

美しかった。

 

 

どこかに「剣」を含んだような美しさ。

 

 

アジアで一番美しいのは「韓国女性」

 

そんなふうに言われるけれど、

 

 

韓国女性の美しさって・・・

 

 

どこか、

 

「剣」を含んだような眼差しにあるように思う。

 

 

キリリとした眼ってか・・・

 

 

「The・宝塚」には、同じ瞳があった。

 

 

ファッションも、そういう感じだ。

 

KPOPアイドルのようなファッションだった。

 

 

 

特徴的なのが、

 

「黒髪」だった。

 

 

みんなが、程度の差こそあれ、「茶髪」にする時代ってところを、

 

 

「漆黒」の髪・・・・ショートカットが印象的だった。

 

 

パン!と、

 

周り一面が明るくなるような、

 

オーラのようなものを彼女は纏っていた。

 

 

 

・・・・しかし、

 

惜しむらくは・・・・

 

 

その「声」だった。

 

 

その「声」だけが、パッと見の印象からかけ離れていた。

 

 

声帯を・・・喉を潰したような声。

 

 

悪く言えば「ダミ声」というのか・・・・

 

 

お世辞にも「ハスキー」とは表現できない声だった。

 

 

一言で言えば、

 

「残念」

 

そうとしか言いようがない。

 

 

・・・・しかし・・・なんというか・・・

 

その「声」は、

 

「違和感」だったんだ・・・・

 

 

上手くは表現できないけど、

 

 

「板に付いていない」

 

 

そう感じた。

 

 

 

当たり障りのない会話に終始する。

 

 

 

話題選びは難しい。

 

 

病院で出会った。知り合ったからと言って、「病気」の話題をしていいとはならない。

 

 

 

「何の病気なんですか??」

 

 

そんな会話はできやしない。

 

 

相手から言い出されれば別だけど・・・・

 

 

「ケガ」なら簡単なんだけどな。

 

 

 

「どうしたんですか??」

 

 

「いやぁ・・・交通事故でして・・・」

 

 

 

簡単に聞ける。

 

 

しかし、

 

内科的な病気は、なかなか聞けない。

 

 

 

「え?設計士なの?」

 

 

彼女のスマホの手が止まった。

 

 

「いや、設計士ってほどのものじゃあ・・・図面を描くってだけで・・・むしろ、現場監督ってほうがピッタリかなぁ・・・」

 

 

「凄いね・・・

理系の人って尊敬するんだ・・・・」

 

 

 

もはや、

 

かんっぜんな「タメ」言葉だった・笑。

 

 

しかし、

 

別に、

 

それが、

 

全く嫌な感じがしない。

 

 

自然というか・・・・

 

少なくとも、

 

 

「上から目線」といった感じが全くしない。

 

 

どこか・・・

 

一番近いのが、

 

 

「教室」での会話って感じか・・・

 

 

男子も女子も対等。

 

全く同じクラスメイト。

 

 

そんな話し方。

 

 

話題が、

 

あっちに飛んで、

 

こっちに転んで・・・

 

 

行きついた先が、仕事の話だった。

 

 

 

テレビ。

 

映画。

 

音楽。

 

 

いずれも、ジェネレーションギャップで、話が続かなかった。

 

 

 

「・・・・私は・・・・理系は全くダメで・・・・

 

音楽学校だったんだ・・・」

 

 

スマホの手が止まる。

 

一瞬の間。

 

逡巡か。

 

そして、続けた。

 

 

スマホを見たままだった。

 

 

 

「・・・・歌手だったんだけどねぇ・・・・」

 

 

 

・・・・・え?

 

ええーーーーーーー!!!???

 

 

歌手だった・・・???