2度の交通事故。

 

 

・・・・・それも、「重要会議の当日」

 

 

相手にしてみれば、

 

 

「逃げた」

 

 

「真剣度がみえない」

 

 

色々な理由が透けて見える。

 

 

・・・・・もちろん、

 

 

ボクとしては、

 

全く、

 

純粋に「交通事故」・・・・・それも「100%被害者」という立場だった。

 

 

・・・・が、

 

 

結果として、

 

 

重要会議を「飛ばして」しまったのは紛れもない事実だった。

 

 

 

「ボクの負け」

 

 

 

趨勢は決まった。

 

 

 

・・・・・成海から電話がかかってきた。

 

 

「会いたい」と言う。

 

 

声に緊張感があった。

 

 

「意を決した」そんな響きがあった。

 

 

早い方がいい。

 

今夜と決めて電話を切った。

 

 

 

ウチの事務所は幹線道路に面していた。

 

そこは「一枚窓」で、

 

天井から床面までが、一枚のガラス面になっていた。

 

 

そこから、道路を見下ろしているのが、なんとなく好きだった。

 

 

なんとなく、

 

 

ドラマとか、映画とかに出てくる「カッコいい」シーンに思えた。・・・・それでここを選んだってのがあるくらいだ。

 

 

 

成海がやってくるのは、夜の遅い時間だった。

 

 

 

ウチの役員とふたりで成海を待った。

 

 

ふたりで待ったのは・・・・

 

役員を同席させたのは、

 

 

この後「すぐに」動かなければならない。・・・・そう直観したからだ。

 

 

良い。悪い。

 

 

どっちの話だろうが、

 

 

緊急に動く必要がある。

 

 

そのためには、役員と「情報共有」しておいたほうがいいと思った。・・・・・あらためて、また、後で説明する時間が惜しいし、

 

 

伝言ゲームが上手く伝わらない可能性がある。

 

 

 

・・・・・じっさい・・・

 

ここまでの「出資話」がこじれたのは、社内での伝言ゲームが上手くいかなかったからだ。・・・・もう今更、全てが遅い・・・・

 

 

 

眼下。

 

大きなベンツがやってきた。

 

Sクラスだ。

 

 

後部座席からふたりの男が降りた。成海・・・そして、見たことのある部下だった。

 

 

しばらくして、成海が入ってきた。

 

 

 

ワンフロアーのオフィス。

 

 

ボクの机は、皆の席から少し離れた場所にある。・・・・いわゆる「役席」という配置の仕方だ。

 

 

ボクは、成海が入って来るのを座って見ていた。

 

その横に、ウチの役員が、自分の椅子を持ってきて座っている。

 

 

成海、部下が、ボクの前に立った。

 

・・・・座る気はなさそうだ。

 

サッサと終わらせて帰りたい。そんな顔だ。

 

 

 

「すいません・・・・

 

・・・出資の話はなかったことにしてください」

 

 

 

想像していたとおりの台詞だった。

 

 

元より、ボクの1回目の交通事故以来、

 

話は全く進んでいなかった。・・・・先輩は、すでに電話にも出ない。

 

 

・・・・そして、二部上場企業の買収劇。

 

 

遅すぎるほどの意思表明だった。

 

 

 

・・・・・そして、

 

成海は、

 

ボクの机の上に「紙袋」を置いた。

 

 

老舗百貨店の紙袋。

 

 

「確認してください」

 

 

成海の眼が言っていた。

 

 

中身の上、

目隠しの紙片をとった・・・・

 

 

札束だった。

 

透明ビニールで覆われている。

 

 

1千万円だという。

 

そして、領収書のいらない金だという。

 

 

それ以上、成海は何も言わない。

 

 

座ったまま見上げる。

 

直立不動の成海。