翌、日曜日。

 

夜。

 

 

ファミレスでご飯を食べながら、おむすび君の話を聞く。

 

 

国道沿い。

 

一面窓からは道路を行き来する車が見えた。

 

店内は、日曜日の家族連れで賑わってる。

 

 

 

おむすび君。

 

 

元々は、幼い時から柔道を習っていた。

 

中学校の時には、すでに黒帯に昇段。

 

地元では「向かうとこ敵ナシ」ってな状態だった。

 

 

で、

 

どーゆわけか、

 

部活は「バスケット部」に入る・・・・なんだか、夢中になってた漫画の影響が大きかったらしい・笑。

 

 

んなとき、

 

近くの大きな駅に「空手道場」ができた。

 

 

当時、「最強」と謳われ、

 

 

生きた伝説の「大山倍達」が館長の道場。

 

 

日本中に、一大旋風を巻き起こしていた。

 

 

「極真空手」

 

 

 

「どんなもんかいな・・・・」

 

 

興味をもった、おむすび少年は、「極真空手」に入門する。

 

 

・・・・・そして、

 

今では、「黒帯」となっていた。

 

 

 

・・・・そうだったのか・・・・

 

 

おむすび君は、

 

 

「柔道」

 

「空手」

 

 

双方の黒帯って「猛者」だったんだ・・・

 

 

 

そりゃ、

 

あの飲み屋での一件。

 

 

ニコニコしながらヤンキーたちを捌いたのは、

 

朝メシ前って所業だったんだ。

 

 

「組めば柔道」

 

「離れては空手」

 

 

双方の黒帯。

 

 

・・・・しかも、「極真空手」の黒帯。

 

 

 

「極真空手」なら、

 

茶帯でも、他の道場の黒帯より強いと言われていた。

 

 

他の空手道場が、

 

 

「競技空手」であるのに対して、

 

「極真空手」は実戦空手だ。

 

 

「競技空手」であれば、

 

先に「突き」が入った方が、

 

先に「蹴り」が入った方の勝ちとなる。

 

 

しかし、

 

「極真空手」は、

 

あくまで、

 

「相手を倒した方の勝ち」だ。

 

 

武道の神髄。

 

 

「肉を切らせて骨を断つ」

 

 

その精神そのまま。

 

あくまで、

 

「相手を倒す」ことを至上命題とした空手だ。

 

 

よって、

 

他の道場、

 

ポイント制の「競技空手」の選手とは、

 

「強さのレベル」が違うと言われていた。

 

 

 

・・・・さらに、おむすび君の場合は、

 

そこに、

 

「柔道黒帯」って実力も乗っかってくる。

 

 

朴訥とした見た目とは裏腹に、

 

 

実は、

 

まったくの、

 

 

「人間凶器」ってヤツだったんだ。

 

 

 

窓の外。

 

車のヘッドライトが流れていく。

 

長閑な、日曜日の夜が流れていた。

 

 

 

ボクは、アメリカンハンバーグのセットを注文していた。

 

おむすび君は、ステーキに大盛りライス・・・・さらには、ピザまで頼んでいた。

 

・・・・いつもながら、よく食う・笑。

 

 

なんだか、「ジブリ映画」に出てきそうな豪快な食べっぷりだ。

 

 

 

で、

 

おむすび君。

 

 

東京にやって来て、

 

 

やっと「道場」を見つけた・・・・いや、

 

見つけたじゃない。

 

 

「極真空手」にとって、

 

 

大山館長がいらっしゃる、総本部は、東京池袋にある。

 

 

おむすび君にとっては、

 

 

東京こそが、

 

極真空手の「聖地」だ。

 

 

 

東京にやって来て、

 

生活も落ち着いてきた。

 

 

ようやく、道場に通えるようになったんだそうだ。

 

 

 

おむすび君。

 

満面の笑みだ。

 

いつもにもまして、

 

よく食べ、

 

よく笑った。

 

 

「豪快」・・・・とは違う、

 

「温かみ」のある、

 

大らかさ。

 

 

人間としての「大きさ」が滲み出ていた。

 

 

 

関係としては、

 

 

ボクが「兄」のような感じだった。

 

 

どういうわけか、

 

慕われてる感じだった・・・・・・フェアレディ Z の存在が大きいんじゃなかろーか・笑。

 

 

でも、

 

あきらかに、

 

人間としての器の大きさ。

 

包容力。・・・・諸々。

 

 

おむすび君の方が、圧倒的に上だった。

 

 

 

 

・・・・・そうか・・・

 

 

おむすび君の・・・

 

 

なんというか、

 

 

なんだか包み込むような感じと言うのか、

 

 

「動じない」といった部分。

 

 

人間としての大きさ。

 

 

どっしりと「芯」の・・・・「幹」っていっていい、

 

そういうものが通った感じ。

 

 

それは、

 

 

「極真空手」

 

 

「強さ」に裏打ちされたものだったんだな・・・

 

 

 

 

「ぜんぜん、言葉がわからんくてさ・・・・」

 

 

 

おむすび君はニコニコしながら、この前の出張の話をしている。

 

ついこないだ、東南アジアへの海外出張に行っていた。・・・・・もちろん、「高卒」社員としては異例のことだった。

 

 

・・・・そんなことがあるのか??

 

本当に驚いたし、

 

尊敬したし、

 

羨望の思いも抱いた・・・・

 

 

 

「いちおう、英語で会話するんだけど・・・・」

 

 

 

現地の言葉はわからない。

 

共通の言葉は英語しかなかった。

 

・・・・とはいえ、おむすび君も高校で習っただけ。

 

 

あとは、身振り手振りで、なんとかしのいでいったそうだ。

 

 

・・・・・で、

 

現地社員に、

接待されてるのか、レストランに案内された。

 

 

 

・・・・大きな「鍋」が出てきた。

 

 

 

「・・・・それで、

 

蓋とってみたらさぁ・・・・」

 

 

 

そこには、「豚」の頭が・・・・「豚」の顏が、こっちを見つめる容で入っていたらしい。

 

 

 

ぎっぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~

 

 

ホラーじゃん・笑。

 

 

 

 

「でも、

 

食べたら、・・・これが美味しくてな・笑」

 

 

 

おむすび君、満面の笑み。

 

 

同席していた、上司、先輩が逡巡していたところ、

 

おむすび君は、ひとりでパクパクと食べたそうだ。

 

 

 

・・・・おむすび君が、本社に呼ばれた理由がわかった気がした。

 

この「胆力」だ。

 

入社して、いきなりの東北勤務。・・・・ここも、「鉄火場」といっていい現場だった。

 

 

どこへ行っても、仕事をするんだって「腹の座り」が、おむすび君にはある。

 

 

・・・・そして、

 

それは、「強さ」が根底にあるものだった。

 

 

 

自分を通す強さがなければ、

 

どれだけ正しかろうが、

 

 

踏みにじられて生きることになる。

 

 

 

・・・・そうなんだ・・・

 

 

 

力のない正義に意味はない。

 

 

どれだけ正しくとも、力がなければ悪に屈するしかない。

 

 

世の中は、正しいから勝つんじゃない。・・・・勝つから正しいんだ。

 

 

 

「力のない正義」

 

 

 

・・・・それは、

 

得てして、

 

 

「負け犬の遠吠え」と成り下がる。

 

 

 

おむすび君の強さ。

 

 

 

・・・・ボクには、全くないものだった。

 

 

ボクは・・・

常に余裕がないというか・・・・

 

常に追い詰められてるような感じ。

 

 

いつも、「拗ねた」ような顔をして生きていた。

 

 

・・・・それは、育ちから・・・

 

 

「家の没落」

 

 

・・・・そこから端を発した、

 

 

小学校。

 

中学校。

 

そして、高校。

 

 

 

常に「虐め」にあってきた・・・・

 

 

それ以降、

 

・・・・ボクは、世の中を斜に構えた眼で見ていた・・・妬んだような顏をしながら生きていた。

 

 

・・・・どこかで、

 

人生を諦めてしまっていた。

 

 

 

・・・・最後には、自殺未遂すらやらかしてしまった。・・・・いや、けっきょく、「未遂」にもなっていない。

 

風呂場で、

 

手首を切れもせず、

 

ただ、泣いて終わったってだけのことだった。

 

 

 

・・・・・ツマラン男だ・・・・

 

 

 

そんな自分が嫌で嫌でしょうがなかった。

 

 

・・・・そんな自分を変えたかった・・・・

 

 

・・・そして、

 

この先、生きていくためには、

 

 

自分を変えなければならなかった・・・

 

 

 

ご飯が終わって、デザートが運ばれてきた。

 

 

苺のショートケーキ。

 

 

好きなんだよな。

 

 

ブラックのコーヒーに、甘いケーキが好きだった。

 

ファミレスでも、喫茶店でも、ケーキを頼んだ。

 

 

おむすび君は、

 

「和風」ってことか、

 

「おしるこ」を食べている・笑。

 

 

 

目の前に、

 

ボクが「理想とする男」が座っていた。

 

 

 

 

「頼みがある・・・・」

 

 

おむすび君の眼を、真っすぐ見て言った。

 

 

 

なに?

 

 

 

おむすび君が、餅をモグモグ食べながら無言の眼を向ける。

 

優しい顏だ。

 

 

 

「道場に連れてってくれ」

 

 

 

クマが、

 

豆鉄砲をくらった顔をした。