叔母が亡くなってから、
連日連夜、
「金縛り」に苦しめられた。
毎晩、金縛りに合わされて、・・・・んで、枕元に叔母が立つ。
何か言いたげに、黙って立つ。
じーーーっと、枕元に立って顔を見つめられていた。
連日、連夜。
毎晩、毎晩。
「憑りつかれた」っていっていいような状況だった。
毎晩、毎晩だ。
睡眠妨害。
安眠妨害。
・・・・・こんなこと続けられたら「病んで」しまう。
「憑り殺されてしまう」
どうしたもんか・・・
考えた先に、
「金縛り」がくる・・・・
そう感じた時に、部屋の電気を点ける。
そんな手を思いついた。
明るいと霊は出れない。
そんな話を聞いたからだ。
以来。
・・・・・あ・・・来る・・・
「金縛り」がくる・・・・
思った時、
ボクは、蛍光灯のヒモを引っ張って、電気を点けた。
そうすっと、
金縛りは来ない・笑。
叔母が枕元に立つこともなかった。・・・・・できなかった、か?笑。
・・・・が、
叔母は、諦めない・笑。
毎晩、毎晩、
それでも、叔母はやって来た・笑。
「金縛り」がやってくる。・・・・・そのたびに、電気を点けて撃退していた・笑。
毎晩、毎晩、
ボクと叔母との、
「金縛り」攻防戦が展開されていた・笑。
深夜。
自宅、アパート。
寝ていた。
布団の中。
・・・・・あ、・・・来る・・・・
「金縛り」が来る・・・・
ボクは、いつものように、
ここんところの、日課のように、
眠気まなこで、蛍光灯のヒモを引っ張った。
瞬間!
その瞬間!!
その瞬間だった!!!
再度ヒモが引っ張られた。・・・・・「何者」かに、だ。
・・・・さらに、引っ張られる。
カシャ!カシャ!カシャ!!!
3回ヒモが引っ張られた。
3連射だった。
なんと、3回ヒモが引っ張られた。
しーーーーーーーーん・・・・・・・・
深夜だ。
物音ひとつしない。
真暗。
完全に目覚めてしまった身体。
呆然として、
目をひんむいて見えない天井を見つめていた・・・・・
・・・・微かに震えながら・・・・
脇の下、嫌な汗が流れる・・・・
3回ヒモが引っ張られた・・・・・
この意味がわかるだろうか・・・・?
「金縛り」が来る。
ボクは、それを避けるため、
電気を点けようとした。
ヒモを 1回 引っ張った。
電気が「全灯」で点く。 ・・・・・はずだった。
その瞬間、3回ヒモが引っ張られた。
1回引っ張れば、
照明が、 全灯が半灯になる。
2回引っ張れば、
小丸球になる。
3回引っ張れば、
消灯になる。
・・・・・・ボクが、電気を点けようとヒモを引っ張った。
・・・・・それを、阻止するために、
さらに、そこから、3回ヒモが引っ張られた。
強制的に「消灯」にされた。
部屋は、真っ暗なままだ。
・・・・・・叔母、恐るべし。
金縛りはこなかった。
身体が完全に覚醒してしまっていた。
それでも、
金縛りにあったように、身動きひとつせず、真暗な天井を見つめた。
・・・・・・もう一度、電気を点けようとは思わなかった。・・・・・もう一回、ヒモを引っ張られて消されたら、それこそ、立ち直れないくらいの恐怖のドン底に落とされるって感じがした。
ビビった・・・・・ビビッていた。
だってさ、
ヒモ3回引っ張るんだよ・笑。
怖いよぉ~~~~~~~笑。
こんな恐怖ないって・笑。
叔母が怒っている。
・・・・・とは、思わなかったけどさ。
叱られているような感じはした。
オマエはまったく・・・・
どうして、そんなことをするのかねぇ・・・・・
そんなふうに、溜息つかれているような感じがしていた。
まぁ、
確かに、
「失礼」って対応だったかもしれないな・・・・・・
ボクは、
そこから、一晩を費やし、机に座っていた。
自宅。アパート。
深夜。
布団の中。
眠っていた。
頭の先・・・・・隣の部屋・・・・・その突き当り。
窓の下・・・・・いつも叔母が入ってくる窓だ。
手紙を置いた。
一晩かけて書いた、長い長い手紙だ。
叔母が、毎晩枕元に立った。
叔母が言いたかったこと・・・・・死ぬ間際にボクに伝えたかったこと、
ボクに言い残したかったこと。
なんとなくはわかる。
叔母は、ボクたち兄弟を、
とても、
とても、
とても、とても、可愛がっていた。
自らに子供がなかったから、なおさらに、ボクたち兄弟を可愛がっていた。
弟は、叔母の元に養子に出された。
弟は戻されてきた。
けれど、
だからといって、叔母のボクたちへの愛情を疑ったことはない。
叔母は、
ボクたち兄弟。・・・・・そして、母を含めた、ボクたち家族の行く末をとても心配していた。
大丈夫だよ。
叔母への答えになっているかはどうかわからない。
それでも、
ボクの考え・・・・ボクなりの、今後の人生の考え。
・・・・・そして、弟の事、母の事。
それらについて、
長い長い手紙を書いた。
大丈夫だよ。
心配しなくていいよ。
ボクが、ちゃんとしていくよ。
ちゃんと、頑張って生きて行くよ。
・・・・・そして、伝えた。
生きてる時に伝えられなかった。
会って伝えられなかった、叔母への想い。
叔母への感謝を伝えた。
叔母への感謝を綴った。
ありがとうございました。
安らかにお眠りください。
ボクは、
手紙を置いて、合掌した。
以来、
「金縛り」
叔母の、深夜の家庭訪問は終結した。