中国語の書き言葉に“了”を使うことが少ない。その“了”はどこに行ってしまったのか?ここで自分が翻訳をするときにあった例をあげながら説明してみよう。
1 連動式の場合
他独自研习满文,写了《满文考》一文。
/彼は独自に満州語を学習・研究し、「満文考」を著した。
“独自研习满文”と“写《满文考》一文”は連動式で、“独自研习了满文”と言っても正しいのである。“了”を入れると、学習・研究した「後に」が強調され、“了”を入れないとテンポよく感じる。これは、日本語の「~を学習・研究して、~を書いた」と「~を学習・研究し、~を書いた」の違いと似ている。結論としては、連動式の前項の“了”は悩ましい。
2 修飾語となる場合
他们就是1644年遭遇海难,被送回日本的商人们。
/彼は1644年に海難に遭遇し、日本に送還された商人たちである。
“遭遇海难,被送回日本”は“商人们”の修飾語。“遭遇海难”と“被送回日本”は連動式となる。修飾語となる場合、テンポ良く話を進むことが望ましいので、“了”を付けないことが多い。もちろん、「した後」を強調したいなら、“了”を入れよう。また、修飾語が長すぎると、気休めのために“了”を入れる手もある。つまり、下記の言い方もあり。
他们就是1644年遭遇了海难,被送回日本的商人们。
3 完了の意味をもつ結果補語
至1717年为止的信息被编为《华夷变态》。
/1717年までの情報は、『華夷変態』として編纂されている。
“完、到、掉、成、为”などが結果補語となる場合(方向補語も同じだが)、“了”が省略される傾向がある。たとえば、
你找到几个?/何個を見つけた?
他昨天拿来三本书。/彼は昨日三冊の本を持ってきた。
以上の例では、“~被编成了《华夷变态》”とも言う。これは悩むところだ。“被编为”は“被编成”より古い表現で書き言葉によく使われる。そのため、“了”と一緒に使うのが少ない。“被编成”を使う場合、“~被编成了”と書くと読みやすい。どっちを取るか、これも悩ましいことだ。
以上の3つの例を通して、書き言葉になぜ“了”が少ないかを説明した。
じつは、訳文を校正する場合、私はいつも“了”を入れたり、消したりする。「書き言葉らしい」と「朗読しやすい」の間で迷うためだ。これを聞いて「ネイティブも悩むなら、外国人の私たちは絶望だ」と思うか、それとも「ネイティブも悩むなら、外国人の私たちは間違っても許される」と理解するかは皆さんのご自由だが、私なら後者を選ぶ。