短編小説:芸術はいつもそこに(前編) | "Second Line Entertainment"代表 DancerHassy's Blog

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自分達にしかできない、新たなエンターテイメントへの挑戦。




『芸術』





それは高い技術によって造られる感動の所産。





しかし、ありふれた日常の中にもその芸術があることを、





その芸術に出会っていることを僕らは知らない。














僕にとってのありふれた日常・・・





毎朝、朝早くからジムへと仕事へ向かい、夜はダンスの練習、またはレッスン。





日々自分の変化をダンスの中に求めているだけあって、





同じ毎日の繰り返し、といった感覚を持たないのが全く同じ内容の仕事を





淡々と続けられる秘訣か。








そんな同じことの繰り返しな仕事だが、





たった一人の老人の、、、それは『奇跡』とも言える芸術に





僕は胸を打たれることとなる。














ジムのフロントでいつものようにお客様を待っていた。





そこに、一人の老人が現れた。





名は”針本さん”(仮名)、年齢は、、、70代間近といったとこだろう。








ここのジムは平均的に年配の方が多く、特に僕が働く午前中は





ほとんどが歳のいった方ばかりだから、それもまた不思議ではないことだった。








しかし彼には秘密があった。





見た目は本当に優しそうなおじいちゃん、つい『今日もお元気で』





と声をかけたくなるような人物だ。





だが、そんな見た目からは想像もつかない彼の秘密・・・

















それは、彼はとんでもない”芸術家”だということ。














その秘密を知ってしまったのは数ヶ月前の8月、真夏のことだった。











彼はいつもバッチリ似合った麦わら帽子をかぶり、





優しい笑顔で僕らのもとへと足を運んでいた。











ある日、僕が男子ロッカーへと向かったとき





ちょうどロッカーから帰るところの針本さんに出くわした。








『あっ針本さん、お疲れ様です。』








僕は声をかけた。すると彼は








『下駄箱の鍵、、、どこにやったかな、、、』







とつぶやいた。





僕は




『ないですかー?ロッカーの中に忘れてるかもしれないし見てきましょうか?』





と尋ねたが、彼はそんなハズはないとポケットの中や鞄の中を必死に探し始めた。








だが見つからない。








彼は焦りと、必死に探したことからか少し汗をかき始めた。





そして彼は








『必死に探してたら汗かいてきたわ!』








と一言口にし、








頭にかぶっていた麦わら帽子を脱いだ。











ふと、僕と針本さんの視線が麦わら帽子へといった。








― そんなバカな ―








探していた鍵が麦わら帽子の中に入っていた。








ロッカーの鍵は大きく、折りたたみ携帯の半分ほどの大きさはある。








しかもその鍵が入った状態で帽子をかぶっていたのだから、





確実にかぶった瞬間に『コツッ!』と鍵が頭に当たるはずだ。








もし運良く衝撃なく帽子をかぶれたとしても、それを脱いだときに、





何故頭の上に残らず帽子に入っていたのか?








頭の上に乗っていればそれは笑える話だが、





帽子の中に入っているというその演出に、僕は一つの感動を覚えた。











少し前置きが長くなったが、そんな芸術家な老人・針本さんが現れたこの日、





誰も経験したことのない彼の芸術に、





僕も含めジムのスタッフは驚きを隠せないこととなる。





彼に近づくことも、食事をとることもできないほどの驚きは





数日間ジム内で話題となった。



そして誰よりも近くでその奇跡を目にした僕は、



涙がこぼれそうな感覚さえも覚えたのであった。




続く。