「ウイグル騒動の根本的な原因」 | 日経新聞の攻め方教えます

「ウイグル騒動の根本的な原因」

訪れたばかりのウルムチで大惨事





中国でまたも民族紛争が火を噴きました。

新疆ウイグル自治区の中心・ウルムチで、ウイグル人がデモをおこなったのに対し、警官隊が発
砲、すでに100人以上の死者が出たと報じられています。最悪の犠牲者数になってしまいました。



ちょうど5月の連休に、ウルムチやトルファンなど自治区内のシルクロード各地を訪問、砂漠のオ
アシス都市に歴史をたずね、ウイグル人の友人もできたばかりだったので、とても驚いています。



現代の日本人にはなじみのない地域ではありますが、かつては仏教伝来のルートであり、三蔵法師
やマルコポーロもとおり、ペルシャやローマからの珍しい品々がラクダの背中に乗ってここを通
過、はるばる奈良や平安の都に届いた、日本の歴史に深く関わってきた土地なのです。



今回の発端は広東省のおもちゃ工場で、出稼ぎウイグル人グループが漢人とトラブルになったこ
と、といわれていますが、どうして遠い広東省の問題がウルムチで暴動になるのか、私なりに考え
てみました。



みせかけの繁栄と裏に潜むモノ



 

 天山山脈を目の前にするウルムチは、砂漠とラクダのシルクロードのイメージと違って、大都会
でした。空港は羽田空港なみの大型で、近代化されており、街には超高層ビルが立ち並び、私が泊
まったホテルは、すべての部屋がネット接続無料、洋風レストラン、朝食バイキングブッフェがあ
り、NHK衛星放送もテレビでみれました。東京のホテルとまったく遜色ありません。



ハイウエイはきれいに舗装され、ドイツ車、日本車がわんさか走り、商業ビルではなんでも売って
いました。



こちらは旅行で出かけたので、「なんだかなあ・・・」と勝手な期待を裏切られた(?)ような気
がしましたが、今回の事件を聞いて、もしかすると、ウイグルの人たちもずっと「この見せかけの
豊かさは違うんじゃないか?」と心の奥で思っていたのではないか、と感じました。



新疆ウイグル自治区は歴史上、さまざまな国の支配を受けてきました。吐番(チベットの前身)、
西夏、そして清(中国の前身)。しかし民族はトルコ系のウイグル人であり、中央アジアを遊牧し
て暮していた人たちです。学校では北京語を習いますが、ウイグル人同士はウイグル語(アラブ語
の親戚で、ミミズののたくったような文字)で話します。



東トルキスタン共和国という国を20世紀初めに築いたことがありますが、すぐにロシアと中国につ
ぶされました。(西トルキスタンは現在のガザフスタンなど)漢民族中心の中国に入りたかったわ
けでもなく、チベット同様、仕方なく中国に組み込まれたといえます。



最近のウルムチへの漢人の流入はすさまじく、それは高速道路や飛行機によって、大量の物資と一
緒に北京や上海からやってきて、ウイグル人はどんどん民族固有の習性・独自の文化を失っている
ようでした。



中国の1人っ子政策は有名ですが、少数民族のウイグル人も「子供は2人まで」と決められていま
す。人口爆発は漢人の問題だと思うのですが。



豊富な資源が問題を複雑化





ウイグル人はまたイスラム教徒です。見た目は日本人と変わらない人も多いですが、金髪であった
り、目が青かったり、ヨーロッパとの混血を思わせる人も大勢います。



馬で羊を追って暮していただけに、ナイフは魂(日本でも刀が侍の魂で、いくさがなくあっても帯
刀していたように)であり、男はいまでも必ず立派なものを身につけています。今回死傷者が多数
出ているのも、ナイフを常に所持していることもあるかもしれません。



私もガイドから「ぜひナイフを土産に買っていけ」と強く勧められ、商店街の専門店に連れて行か
れました。(ウルムチ空港で没収された。笑)



日本人の感覚では、「そんな面倒があるなら好きに独立させればいいじゃないか」といいたくなり
ますが、ここで困ったことに、新疆ウイグル自治区は中国の石油の一大生産地なのです。



砂漠のあちこちで、油田が発見され、それを採掘するために漢人の労働者がたくさん増え、その人
たちを客にしようとまたさまざまな商品・サービスをもって、漢人がやってくる、という図式なの
です。いまや石油の輸入国になっている中国にとって、そうやすやすと手放せるわけがありませ
ん。おまけに中華思想というプライドの高い国民ですから。



本来なら自分のたちの財産のはずが、漢人が掘って、持って行ってしまう、反対に自分達は出稼ぎ
に行かねばならない。矛盾を感じるのは当然でしょう。



そういえば、ウルムチ空港で、エレベーターにうまく乗れないオジサン・オバサン、集団で1人を
見送りに来て大騒ぎしているウイグル人をみかけました。おそらく遠くの田舎からでてきた人たち
なのでしょう。この人たちにとって、豊かさとは、誰のため?誰のものか?といいたくなるでしょ
う。



沿海部ばかりが急速に経済発展するひずみ、中国政府(漢人主導)の強引な同化(少数民族を漢人
に合わせさせる)政策は、とても大きな危険をはらんでいるようです。中国政府は、相変わらず即
座に報道規制をしいて、ユーチューブの画像を片端から削除したり、新華社通信の<大本営発表>
でなんとか小さな騒ぎと印象付けたいようですが、なかなか収まらないかもしれません。



PS 興味のある方は、「流砂の塔」(船戸与一著)を読んでみてください。
  ウイグル問題を小説に仕立て上げ、読みやすく面白いです。