「死海のほとり」(遠藤周作)が上梓されたのは、おいらが
大学四年生の時と記憶する。

たしか刊行は初夏だった。

同じ年に入学した一年落ちの男ーそいつはキザな野郎で大嫌いだった。
但し、一緒のクラスではなかったーが、これみよがしに出たばかりの
この新潮社の書き下ろし作品を裸で持って、キャムパスを歩いていた。


死海のほとり」は、発売当時、明るいブルーの上質の箱に入っていた。


発売時の価格は、七百五十円ダウン!!もした。

おれはこの男をその本の価格とそいつの長身の故に、いっそう不快だった。
なぜなれば、噂ではナンパ遊びが趣味だったといふ。
何人ものうちの女子学生と寝たと聞いた。

恰好付けて、話題の遠藤の新刊本を女どもに見せびらかしているに
違いなかった。


何度も記すが、普通の文庫本が当時だいたい百二十円だった。
また単行本は、大学四年の頃、四百五十円か五百円だったから、
七百五十円は破格の値段だったのだ!。

(学食のランチは入学した頃より二十円三十円値上がりしており、
ミートソースも六十円から八十円になっていた)


残暑が厳しい頃、うちの駅下の図書館で新潮文庫本
「死海のほとり」が目に入った。

すぐその場で借りた。

(つづく)