芥川也寸志音楽の基礎」は、じつにお愛想のない本だった。
出版はボーイ大学二年のときだ。

通常、著書の前書きや後書きが、その両方かさもなくば片方が
載っているものである。
或は、その本を上梓するに当り、お世話になった出版社の
編集者他へ後書きに謝意を表するのが普通であろう。

ところがこの本はどちらもないのだ。
アイソが無いという所以である。

これは一般向けの音楽教科書のつもりでモノされたと思われるが、
ボーイには途中からチンプンカンプンだ

しかしながら、今回この項を書く為に図書館から借りたところ、
著者がときどきさりげなくちょっとした挿話を文中に挿入して
いることを知った。

「フェルマータ」をめぐるワインガルトナーとフルトヴェングラー
の解釈(「感じ方」)の違い、など。第五「運命」の冒頭が例に
挙げられる。

教科書と異なるのは、本書の冒頭に示された「静寂」だろう。


音楽は静寂の美に対立し、それへの対決から生まれるのであって、
音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を
目指すことのなかにある。

現代の演奏会が多分にショー化されたとはいえ、鑑賞者にとって
決定的なこの瞬間(=曲の終り)が、演奏の終了を待たない
拍手や歓声などでさえぎられることが多いのは、
まことに不幸な習慣といわざるをえない。

静寂は、これらの意味において音楽の基礎である。

(P.2-3)


芥川の作曲家、演奏家としての言葉が本書に散見されるのは、
とても嬉しい

そして、芥川也寸志の早世を悼むこと大である。


帯:人それぞれに音楽を聞き演奏して楽しむ。
しかしさらに深く音楽の世界へわけ入るには、音楽の基礎的な
規則を知る必要がある。
本書は、作曲家としての豊かな体験にもとづいて音楽の基礎を
一般向けに解説したユニークな音楽入門
静寂と音との関係から、調性・和声・対位法までを現代音楽
民族音楽を視野に入れつつ詳述する。