台湾は昔の台湾ならず 「金銭通は人間通」 邱永漢著 PHP出版 85年より。
若い人たちの間でも日本語熱は盛んである。道をたずねても、親切に日本語で
答えてくれる。そこでつい錯覚を起こして、台湾の人たちも自分たちと
同じ思想の持主であると早合点しまいがちだが、どっこい、言葉は通じても、
台湾の人たちと日本人は決して同じ生活論理を持って生きているわけではない。
日本の中年男たちが台湾へ行って女をつくり女の名前でマンションを買ったり、
家を買ったりする男たちはそれを預けていると思っているが、女たちは取引の代償
としてもらったものと思っている。
『恋の決算は難物だ、ととんだ桁違いを真顔で言い張る』と詩の文句にも出てくるが、
いざ別れ話になると、忽ち話が平行線を辿って改めてカルチャーの違いに気がつき、
カルチャー・ショックにおののく。
その有様を小説という形で書いたのが、私の「たいわん物語」であるが、ある時、
台湾へ遊びに来た友人に一冊献呈した。
その若い友人は台湾に親しくしているガール・フレンドがいて、来ている間楽しそうに
ホテル住まいをやっていたが、しばらくして再会したら、
「あの本を読んでシラケてしまいましたよ」と文句を言われた。