(「死を恐れずに生きる」 駒田信二 95年5月 講談社 のつづきです。)
無為自然というのは、老荘の思想です。金持ちになろうとか、栄達しようとか、
権力を握ろうとか、そういうことはすべきでないという思想です。
死ぬまで生を楽しむべきである、ということです。天から与えられた命だからこそ、
自然に尽きるまでは、無理をしたり背伸びしたりして磨り減らすことはない。
むしろ、生を享受しようという思想です。
そのためにはどうするか、荘子は精神の自由を説くわけです。精神を解き放てば、
どこにでも飛んで行くことができるのです。精神が自由な人は、権力にとらわれている
人よりも、地の果てまでも、遥かに遠く速く飛んで行ける、というのです。
人間の社会は、いつの世も多かれ少なかれ乱世であり、現代でもこの混乱した世の中は
乱世といえます。乱世に乗じて栄達を得た者(権力、地位、名誉)をあがめたてるのは、
われわれ自身のなかにある浅はかさ、醜さにほかなりません。
老荘の思想は理想ですが、その教えによって、精神の自由を広げることは、現実的に
不可能ではないはずです。おだやかに、おおらかに生きていけばよいのです。
(P.217-220)