人間万事塞翁が馬 といいますが、これは人間万事塞翁が馬 ではなく、
「世の中は万事塞翁が馬」と読まなくてはいけません。

世の中は吉凶が常に変転していくものである、という意味なのです。
(中略)
しばらくして逃げた馬が名馬を連れて帰ってくる。
災いが転じて福になるという教えなのです。

これは中国の陰陽の思想で、世の中は災いと福がくるくると繰り返されていく、
ということです。
陰と陽がたえずうつろうのが世の中である、という考え方なのです。

ところが、日本にこの思想が入ってくると、「苦は楽の種、楽は苦の種」というふうに
因果関係で完結する形になってしまう。苦は楽の種であるけれども、楽は苦になり、
また苦は楽になり、という具合に、中国のように転々としないのです。

(「死を恐れずに生きる」より 駒田信二著 講談社)