ぎゃるが近づいて来て、おもわず身を引いたのにはわけがある。
ふだん、ぎゃるはボーイのことを ブー と呼ぶ。なぜか知らぬが、そう呼ぶ。
豚あつかいなのだ! 
たぶんよく喰って出すからかもしれねえ。
屁もでっけえ音で家中処かまわず捻り出したりする所為もあるんだろう。
あとはそのときの気分で、ぶー太郎ぶー介などと呼び放題、機嫌のイイときはブーパパ
などといいやがる。そんなんでいつも粗大塵扱いだ。
ちっきしょう

いきなり、ぱぱ などとにじり寄って来るのは、よからぬ魂胆があるにちげえねえと察知したのだ。
ゲンキンということばはぎゃるの為にあるようなもんだ。

宝石は買わねえぞっと先制攻撃。
ちがうのよ。ねえ、聞いてよ、とぎゃる。
その内容はとんでもねえハナシだった。

坊主の塾代が4月から一年で百万!かかるというのだ。来年中学受験を控え、冬休みまでに
そんだけ払う必要ありという。
そんなかかるのかっ!とおれっちはコウフン是極まれり。いまでも月四五万かかり
家計を圧迫し台所は火の車だ。それに夏冬春の休みにエクストラの払込みがある。

ぎゃるが言うには、その百万をすぐ捻出しろという。
あほ抜かせ。そんなすぐ稼げるわけねえじゃねえか!
いい案があるの、という。
ある株を集中して一本(!)買ってくれと。
タネ銭はどうすんだときいたら、アレを崩して頂戴と。

それは、おれっちが死んだ父親から相続したもので、土地の一部とともに多額の相続税を支払っている。
おまけにそれは、ボーイの老後に備えて万一途中で成人病癌などで倒れた場合の準備金に充当している。
(ボーイはチョウ晩婚だったんで、いつひっくりかえっても全然不思議ではないのだ。現に同級生の
何人かは既に軽い脳梗塞を患っている。)
絶対に崩せないモノなのだ。タブーな金なのだ!余計、頭に血が上って来た。
ちっきしょう。。

それに。。その株が上がるという保証は何もない。
下がったらどうすんだ?と聞いたら、
そのときはその時よ、などと無責任なことを言う
ねえ、わかる、ブー(と本音が出た)! ただ置いておいてもしょうがないの。
お金に働いて貰うのよっ、ときた。
(つづく)