鈴木秀美の弾くバッハ チェロソナタ全曲(04年秋の録音)は昨年末に偶然図書館で
見つけた。

出だしの一音を聴いて、そのやわらかくたおやかな音たちと演奏に魅せられた。

同じ曲でいままでに、カザルスのゴツゴツとした粗削りのバッハ、ロストロポーヴィッチの
深いそれ、フルニエの気品のあるバッハたちを聴いて来た。
フルニエがいちばん好きだった。

鈴木秀美の全曲盤を聴いていると、名前を挙げた三人とは全く異なるバッハの世界が
拡がる。彼の性格をきっと反映しているのだろうか、ふんわりとしたとらえどころのない
ーまるでなまこをつかみそこねたようなー内に強いものを潜めながら、それを感じさせぬ
優しいオブラートで包み込んだ稀な演奏かとおもう。

何度もなんども時間を見て繰り返し聴いてきた。
この演奏はわれわれを、とってもハッピーで甘味な感情に浸らせてくれる名演だ。
狭い部屋いっぱいに鈴木の太い、けどたおやかな響きが充満する。
至福の時だ。ありがとう!