抱擁(Die Umarmung)



芸大X教授の講義は無事終った。

いろいろな本と解説は印象に残ったが、学生時代の教科書参考書文献講義ノート類

試験の答案返却レポートは、一昨年九月、全て家の新築のときに捨ててしまった。

だからその内容は思い出せない。


1月最終の月曜日19:05。


最後の晩だった。


アマーリエは何か言いたそうだったが、ぼくはもう何も話したくなかったし、その必要はなかった。


まっすぐ帰る気はしなかった。

お腹はとてつもなくすいていたが。。

2,3,4,5時限と朝11時からずっと講義が続いていた為、疲労困憊。


コの字型の広い中庭に誘った。強い寒風が吹き荒れ誰もいなかった。

わずかの常緑樹以外を除き、木々は枯れ落ちている。


Ⅲ号館の入口の斜めにこんもりした中背の松がいくつかあり、中からは隠れている。

顔をこちらに向けさせると、アマーリエは黙って不安そうにしている。

大きな目は相変わらず潤んでいて魅力的だ。

いとおしくなり、おもわず強く抱きしめキスをした。


ディープキッス。


ぬるっとしたくちびるの暖かさはさいしょ不快に感じたが、すぐ快感にかわった。

アマーリエは一瞬うしろに下がろうとかるい抵抗をしたが、すぐぼくの胸に飛び込んできた。

舌をアマーリエの口に入れたら、入れかえしてきた。

とても嬉しかった。


それまでかるい抱擁とキスは毎回してきたが、ヘヴィーなのはこれが最初で最後だった。

どのくらいの時間がすぎたかはわからない。

アマーリエはすべてを受け入れる態勢にあったが、ぼくはそれ以上求めることはしなかった。


一瞬の判断だった 。