「愛しのメリル」

――ピンクのふわふわ髪がふたつ。綿あめみたいで可愛いね。

ほら、ママにもその愛おしいお顔をみせてね、メリル。――

 

 

わたしのママは、わたしが眠る前にいつもこの歌を歌う。わたしがよく眠れるママの子守歌。

 

ママ、わたしのだいすきで世界一かわいいママ。

ママからは、溶けかけた氷が透明なグラスをからん、と鳴らす音がする。

 

あぁ、きっと、さみしいのね。

 

平凡な家庭、特に不自由もなく、それでも心がぽっかりと空いて、向こう側から風がぴゅうぴゅう吹いている。風になびく心のひだは、ちいさな不安をより駆り立てるんだ。

 

ふかふかのベッドに横たわるわたしに温かいお布団をかけてくれるママ。

今日は惚れ惚れするほどに太陽がさんさんと大地に光を落としていた。太陽の祝福の唄と、大地の喜びの唄が聞こえてくるようだった。

 

眠りに就く前のうっとりするほどの微睡みの時間……それは来ない。

 

わたしにも、ママのさみしい病が移ったみたいだ。

 

ママはわたしのすやすやと眠る吐息を確認するまでは、わたしの子ども部屋を去ることはない。

 

(眠っているフリをしよう……。)

 

数分して、ママの微かな音がした。部屋を出ていく音だ。その証拠に、嫌でも絡みつくような視線を感じないし、人のぬくもりも薄れた。これはもう手慣れたものだった。するとガチャリという音と共に、気配がまったく無くなった。

 

わたし、このさみしさを、どこに追いやったらいいのだろう。

どうにもならなくって寝返りを打って、うつ伏せになった。頭を支配するグルグルの考えも、寝返りの拍子にどこかに飛んでいったらいいのに。

 

すると、心に音の響きのような声が聞こえた気がした。

なんだか分からなくって、耳を布団にくっつけてみた。

 

『そこではないけど、まぁいいよ。必ずしも間違いでもないし。

 

ちょっと、そのへその緒を、こちらの方に向かって下ろしてごらん。』

 

(なんだか変だわ……、わたし、さみしさに全部侵されて、とうとう頭をやってしまったんだわ……。)

 

『……全部、聞こえていますけれどねぇ。……あぁ、申し遅れました。わたしは地球。

 

きみのさみしさを、すくうから、へその緒を、わたしの中心に向かって繋げてみてごらんなさい。』

 

(まぁ、なんて甘美な響き……、さみしさを、すくう……。わたしの心の声は筒抜けのようだけれど。ちょっとやってみようかしら。でも本当にいいのかしら……すくってくれたさみしさはどこへ行くのだろう。)

 

『 いいよ おいで 』

 

地球といった謎の声に、へその緒を伸ばす……イメージをしてみた。ベットを越えて、大地にぐぐぐっと根を張るみたいに。次第に土をかき分けて、中心へ届いたみたいだった。

ふわわっと全身からちいさなイソギンチャクのようなものがたくさん飛び出て、それすらも地球にしがみついている気がしてくる。

とても安心して、不思議な心地がする。

(こんなこと思ったらいけないかしら……ママより、ママみたいなの。)

ママよりママみたいな地球に、情が湧いてしまって、わたしは急に不安になってきた。

 

『地球さん、あなたはお辛くないですか?わたしのさみしさを吸収してくれるなんて。』

 

『あぁ、そんなことだね。それはね、廻り廻っていくから、大丈夫だよ。

 

きみが、ずぅっと、ぎゅうっと持っていることなんてないんだ。

もちろん持ちたかったら持っていてもいいんだけれど。

 

ただ、今さみしさが必要な人もいるのさ。

 

それを本来感じたい人に循環させてあげようね。

 

さみしさとよろこびは同じだけ存在しているから、どちらともなく感じられるんだ。

だからよろこびも循環させようね。

 

きみだけが、ずぅっと持ち込む必要はないんだ。

 

そうやっていのちのサイクルが廻っていくよ

生命である限りはね

 

全部、ぜんぶね、ながれるようにするんだ

 

いつだってきみは自由なんだからね

 

きみって、よろこびにもさみしさにも、支配はできないさ。』

 

(思ったら、言葉にしたら、無くならなくて、自分自身に刻み付けるみたいで嫌だったけれど、地球さんになら、打ち明けてもいいかな……。)

 

『わたしは、さみしさを感じているママがさみしいの

わたしはこんなに嬉しいのに、ママはわたしと居ても嬉しくないのかしら?って……

わたし、それでもママといつも一緒にいられることが嬉しくもあるの』

 

あぁ、なんだか、すべてがここに在ることを感じたら、とっても眠くなってきたわ……

それに少し身体が軽いみたい。

 

 

 

 

「愛しのメリル」

――ピンクのふわふわ髪がふたつ。綿あめみたいで可愛いね。

ほら、ママにもその愛おしいお顔をみせてね、メリル。――

 

 

 

わたしのママは、わたしが眠る前にいつもこの歌を歌う。ママは言うの、わたしへの子守歌だって。

 

……本当はママが安心するためのおまじない。

 

わたしはさみしさもよろこびも、分け与えてくれたこの世界にお返しするね。

なんでかって、はじめから、わたしの持ち物じゃないみたいなの。

 

それでも、この世界が分け与えてくれたものは、めいっぱい受け取って感じていきたいの。受け取って感じてからでも遅くないから。

 

それがこの世界からのわたしへの祝福。そして、この地球へのわたしの祝福。

 

 

 

 

 

 

 

 

地球に来る前と、宇宙の狭間の、あなたのお話

 

 

 

 

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