ラストです!

「プリズンホテル 春」 浅田次郎


■登場人物表(登場順)■
木戸孝之介/偏屈な小説家。 極道小説がベストセラー。 孤独な少年時代を過ごす。 清子と美加を連れ、スイート『紅葉の間』に宿泊。
美加/清子の連れ子。けなげな性格。絵描きの才能がある。
清子(お清)/孝之介と一緒に暮らすように。一途な性格。
荻原みどり/丹青出版、<仁義の黄昏シリーズ>の担当者。今は副編集長。実は孝之介の小説の熱烈なファン。『杉の間』に宿泊。
岡林和夫/大日本雄弁社のベテラン編集者。 東大出のインテリ。キザで冷酷。『楓の間』に宿泊。
小俣弥一(おまたやいち)/五二年ぶりに刑務所を出所しシャバの空気を吸う。元・相良直吉の舎弟。齢は八十過ぎ。競馬で大当たりし一千万ほど手に入れる。『菊の間』の客。
原田の旦那/元マル暴刑事。 弥一の身元引受人になった。
楠堀留/会社を経営するものの不景気の波に煽られ、経営に苦しむ。 しかし競馬はやめられない。 『菊の間』の客。
富江/孝之介の育ての母。 最近まで孝之介と二人で暮らしていた。
花沢繁/カタギの支配人の一人息子。 現在学校に通いながらホテルの仕事の手伝いもこなす。
三浦真一/繁の学校の担任。孝之介に自分の書いた小説を読んでもらいたい。『萩の間』の客。
春野ふぶき/娘とともに『富士見の間』に宿泊。地味な舞台女優。娘をスターにするべく、ステージママに。
さくら/ふぶきの想いを一身に受ける娘。 母に似ず、美少女である。
黒田旭/若頭兼あじさいホテルの番頭。 若い頃、孝之介の母親とかけおちする。
フランケンの安吉/斬られのヤスとして長い間親分のタマヨケをしていたが、今はホテルの従業員。
花沢一馬/カタギの支配人。 フロントマンの鏡。 完璧な接客をする。
鉄砲常/かつて東映映画のモデルにもなった伝説のヒットマン。 今はあじさいホテルのバーテン。
大曽根勉/関東桜会、仲蔵の弟分に当たる。武闘派。出っ歯に反っ歯の金歯である。 亡き相良直吉総長の跡目候補?
木戸仲蔵/関東桜会、五人衆の筆頭。親分。あじさいホテルのオーナーであり孝之介の叔父。
女将/孝之介の生みの母。 仲蔵の亡き兄と結婚していたが、黒田と駆け落ちした。
今井秀太郎/「週刊時代」の『ぶっちぎりエッセイ・荒野のろくでなし』担当者。
服部正彦/クラウンホテルからやってきたシェフ。 料理の腕は超一流。
梶平太郎/あじさいホテル、先代オーナーの時代から板場を任された料理長。神の包丁を持ち、誰もが唸る料理の腕の持ち主。


31
「あの、実は・・・・・実はみなさまに、前もってお伝えしておかなければならないことがございます」
報道陣に取り囲まれたまま、女将はそう言って俯いた。

足袋の上にぽたぽたと滴り落ちる母の涙に、人々はみな心打たれた。
しかし、再び顔を上げて女将が口を開いたとき、ロビーの喧噪は沈黙した。
誰もが笑顔を凍えつかせ、フラッシュは瞬きを止めた。


「木戸孝之介は、このたびの受賞を辞退すると、そう申しております」


日本文芸大賞の受賞拒否はその長い歴史の中で未聞である。 記者たちの間にはどよめきすらも起きなかった。 とっさに動くことのできた者は、生中継を中断してコマーシャルを督促したテレビ局のディレクターだけだった。
花沢支配人は人垣をかき分けて女将の腕を掴んだ。 「ほ、ほんとうですか、それは」
女将は両手で顔を被ったまま、こっくりと肯いた。
「絶対いやだって・・・・・みんな私のせいなの。 私が・・・・・あの子をあんなにしちゃったの・・・・・」
「そうじゃない。 それはちがう」 支配人は記者たちをつきとばして駆け出した。
「どけっ、どいてくれっ! じゃまするな、バカヤロー!」
怒りの言葉が魔物のように口から出た。
階段を駆け昇りながら、支配人はタキシードの上着を脱ぎ捨て、蝶ネクタイをひきちぎった。

そうするほかはなかった。
二十年以上のホテルマンの人生の中で、何万人ものお客様に尽くしてきた。
ひとりひとりの悩みを解決して差し上げることなどできはしなかったが、少くともどんなに不幸な人にも一夜の安息と幸福とを味わっていただいたと思う。 それが自分の使命であると信じ、そういう人生に誇りを持って生きてきた。
しかしついに、真心の通じぬひとりのお客様に出会ってしまった。
もう笑顔も礼儀も、どんなサービスも受け入れられまいと思ったとき、支配人は身を鎧う奉仕の衣装さえもかなぐり捨てて走ったのだった。 荒々しく叫ぶことも、ホテルの廊下をあわただしく走ることも初めての経験だった。


「いけません、先生! 何をお考えなのですか。 あなたは、あなたは―――」
「紅葉の間」に駆け込んで、支配人は異様な光景に立ちすくんだ。
若葉が一面に溢れる窓際の籐椅子で、木戸先生は泣きながら携帯電話のボタンを押し続けていた。
虚しい呼出音に耳を寄せながら、先生は迷い子のように泣いていた。

「どうしちゃったんだよォ、富江。 どこに行っちゃったんだよォ。 ぼくを捨てて、どこへ消えちゃったんだよォ・・・・・出てくれよ、頼むから、孝ちゃんおめでと、って、言ってくれよォ・・・・・」

先生の足元には、奥様とお嬢様がなすすべもなく座っていた。 二人も泣いていた。
その周囲には、編集者の人々がみな正座をして肩を落とし、さめざめと泣いていた。
おそらく議論はしつくしたのだろう。 
いや、先生は誰の説諭にも懇願にも、耳を貸そうとはしなかったにちがいない。
丹青出版の荻原さんが、わっと畳に泣き伏した。 大日本雄弁社の岡林さんは、呆然と魂の脱けたように床柱によりかかっていた。 端正な顔に、痛恨の涙が伝っていた。

支配人はうなだれる人々を押し分けて小説家のかたわらに立った。
受話器を奪い取って、支配人は言った。
「何をなさってらっしゃるんですか。 いったい何のためにそんなに駄々をこめるのですか。 お気に召さない点があれば、何なりとおっしゃって下さい。 わたくしを殴って気が済むのなら殴って下さい。 いや、殺してお気持ちが晴れるのなら、殺してもかまいません」
「バカか、おまえ・・・・・」と、先生は冷ややかに言った。
「バカです。 二十年以上も、こんなバカなことばかりやってきました。 でも、こんなバカがいるから、お客様は幸福を手に入れることができるのです。 お願いいたします。 どうかここはわたくしに免じて、どうか―――」

板の間に土下座をした支配人の顔を、先生は力いっぱい蹴り上げた。


「おまえなんかに、何がわかるってんだよ! おまえも、おまえも、おまえも、みんなみんな、
俺のことなんか何ひとつわかっちゃいないくせに!」


支配人は怯まなかった。
「わかっております。 先生のお気持ちは、わたくしならずとも、みなさんよおっくわかっておられます。 殴りたければ殴ればいい。 わたくしも、奥様も、岡林様も、荻原様も、今井様も、先生に殴られることなんか、何とも思ってはおりません。 しかし、いくら殴っても、捨ててはいけない。 こんなにもあなたを愛している皆様を、捨ててはなりません」
「しゃらくせえっ!」
小説家は支配人の顔をもういちど蹴り上げた。
昏倒した支配人をさらに蹴ろうとする先生の足に、美加がかじりついた。
「やめて、おとうさん。 ミカはわかってます。 ミカだけはおとうさんのこと、ちゃんとわかってるから。 だから、らんぼうはやめてください」
とまどう父の足を、美加は愛おしむように抱きすくめた。

「わかるわけねえよ・・・・・おまえなんかに」
「いいえ、わかってます。 ミカはなにもかも、ちゃんとわかってます」
美加は唇を噛み締めて、きっかりと父を見上げた。
「じゃあ言ってみろ。 いったい俺の何がわかってるんだ」
「なに言っても、おこらないですか」 「怒らねえよ。 俺がおまえを叱ったこと、一度だってあるか」
「あい。 なら言います。 ミカはパパに捨てられました。 パパはミカを捨てて、チョーエキというとおいとおいところへ行っちゃいました。 でも、おとうさんはミカを拾ってくれました。 何でも買ってくれます。 とてもかわいがってくれます。 ほんとうはおとうさんの子じゃないのに、ほんとうの子供みたいにして、たいせつにしてくれます。 だからミカは、おとうさんのこと大すきです。 おとうさんがどこかへ行っちゃったら、ミカはね・・・・・ミカはね・・・・・」

父の足から手を放すと、美加はたしかな想像に耐え切れぬように、目をきつくつむり、体じゅうでしゃくり上げた。

「ミカはね・・・・・一生けんめいにさがします。 泣きながらさがします。 東京じゅうをかけ回って、三越のごふく売り場とか、順天堂のまちあい室とか、駅のかいさつとか、山の上ホテルも、三省堂も、みんなみんなさがします。 ミカのおとうさんを知りませんか、やせてて、背がたかくって、髪がながくて、お尻のほっぺにほくろがある三十六歳ぐらいの男の人、だれか知りませんか。 それで、きっと、おとうさんのけいたいの番号をね、一晩じゅう押しつづけます。 おとうさんどこ行っちゃったのって。 たぶん学校も行かなくなっちゃいます、ごはんもたべません、うんこもしません・・・・・ミカ、おとうさんのこと、ほんとにすきだから、大すきだから、ぜったい捨てられたくないから。 世界でいちばん、誰よりすきだから・・・・・」

美加は父の腰にかじりついて、小さな体が砕けてしまうほど、大声で泣きだした。
先生は芯の折れたように、がっくりと膝をついた。



一時間の後、ぼくは黒田の用意してくれた羽織袴に着替えてロビーに下りた。
釈然としない気分のまま、そんな大げさななりでカメラの前に立ちたくはなかった。
だが、晴れの舞台だからそうしてくれと、黒田に手をついて頼まれれば、いやとは言えなかった。
羽織には木戸の家紋が入っていた。 たぶん仲オジのものにちがいない。
ぼくの翻意によって、人々はみな幸福な笑顔を取り戻した。 もちろん、ぼくの心のわだかまりが消えたわけではない。 しかし、とにもかくにもぼくは、ぼくの未来を開いてくれた美加に、感謝しなければならないのだろう。

ロビーの調度類は隅に押しやられ、報道陣がぎっしりと、絨毯の柄も見えないぐらいにひしめいていた。
フラッシュが炸裂する。 熱気と興奮が、シャンデリアを揺るがすほどだった。
レンズやマイクの向こうには、いったい何百万人の人がぼくを見、ぼくの声に耳をそばだてているのだろう。
マイクの前に立って、ぼくはとっさに母の姿を探した。 すぐにはわからなかった。
母は群衆の片隅の、玄関の柱に身を寄せてじっとぼくに手を合わせていた。
いったい何を祈っているのだ。 いまさら。

「ええ、このたびは身に余る栄誉を賜り、いまだ信じられぬ気持ちでいっぱいです―――」
歯の浮くようなおしきせの言葉を、ぼくはしゃべり出した。 テレビカメラが何台も入っている。
きっとぼくの姿は全国のお茶の間に届いているのだろう。

―――突然、ぼくは重大なことに気付いた。 そうだ、全国のニュース番組に、いまぼくの姿が・・・・・。

青ざめ口ごもったぼくの懐から、時ならぬ呼び出し音が響いたのはそのときだった。
報道陣は爆笑した。 しかし、ぼくを知るホテルの人々や編集者や、清子や美加は笑わなかった。
ぼくは壇上で携帯電話を耳にあてた。 
しばらくの不穏な沈黙のあとで、真っ暗な闇の底から一条の光が差し込むように、懐かしい声が聴こえた。
ああ、とぼくは体のしぼむほどの息をついた。

<孝ちゃん?・・・・・見てるわよ。 とても立派ですよ>
「とみえ―――」 続く言葉をぼくは失った。
<あ。 ごめんなさい、テレビにそのまま映ってる>
「いいよ。 切るなよ、富江」
<おめでとう。 孝ちゃん。 それだけ。 ごめんなさい、怒らないでね>
「切るなよ! 切っちゃだめだ」
ぼくは叫んだ。 とたんに、満場の笑い声は静まり返ってしまった。
心無いフラッシュばかりが、とまどうぼくの目を眩ませた。
「富江、どこにいるんだ。 どこで何をしているんだ。 メシ、ちゃんと食ってるのか。 誰かにいじめられてやしないか。 おまえはグズでブスでノロマだから、俺はとても心配してたんだぞ。 どこにいる。 何してるんだ」
<・・・・・おかしいね。 テレビと電話と、両方から孝ちゃんの声が聴こえる>
富江の声は吹きすぎる風のように力がなかった。 ぼくは電話機を耳に押し当てたまま壇上から飛び降りた。
テレビカメラの前まで歩く。 ぼくの声をマイクに拾おうと、記者たちが殺到した。

突然、仲オジがマイクの放列の前に立ちはだかった。
白紋付の袖をグイと横に広げて、仲オジは力いっぱいの極道の声で怒鳴った。
「お控えなさんし! 他人の立ち入っちゃならねえ、親と子のことでござんす。 どうか、どうかあっしに免じて、ここはマイクをお控え下さいませい―――孝の字、続けろ」
仁王立ちに立ちはだかった仲オジの後ろで、ぼくは電話とテレビカメラに向かって言った。
「富江、おまえどこか具合が悪いんだろ。 気になってたんだ。 順天堂の薬の袋がいっぱいあった。 なんだっておまえは、あんなものまできちんと畳んでとっとくんだ」
少し言いためらってから、富江は不器用に言葉を選んだ。

<もういい。 もういいよ、孝ちゃん。 あたしはね、もうじきおとうさんのとこへ行くの。ああ、間に合ってほんとによかった・・・・・>

木戸さん、そのくらいにしておきなさい、と受話器の奥で男の声がした。 医者だろうか。
もうちょっと、と富江は小声で答えた。

ぼくはその場に膝からくずおれた。 富江が死ぬ。
どこか遠い、誰も知らぬ病院のベッドに、富江は横たわっている。 富江が死んでしまう。
ぼくは声を上げて泣いた。
「富江、ぼくをひとりにしないで。 お願いだから、ぼくを捨てないで」


<孝ちゃん・・・・・まわりを見てごらん。 孝ちゃんはもうひとりぽっちにはならない。 もう大丈夫よ>
「いやだいやだ。 そんなの、いやだ」
三十年前の夏の路上で、母に言えなかった言葉を、ぼくは富江に向かって言った。
「ぼくを捨てちゃいやだ。 どこにも行っちゃいやだ」
ぼくの心の中に、三十年の間、澱のようにわだかまっていた言葉だった。 
あのときぼくは、命とかえてでも、母をぼくの手につなぎとめておきたかった。 
すべての未来とかえてでも。 全世界とかえてでも。

<でもほんとはね、 今までだって、孝ちゃんは決してひとりじゃなかったのよ。 ほら、まわりを見てごらん。 あんたぐらい世間の人から大切にされて、可愛がられてきた子は、どこにもいないのよ>
ぼくはおそるおそる目を上げた。
岡林。 荻原。 今井。 清子。 美加。 みんながぼくのために泣いてくれていた。
仲オジ。 黒田。 支配人。 常さん。 安ッさん。 繁。 アニタ。 ゴンザレス。 服部シェフ。 梶板長。 みんなが声を上げて、ぼくのために泣いてくれていた。

<ひとつだけ、おかみさんに伝えて下さい。 孝ちゃんを預けていただいて、ありがとうございましたって。 富江は、世界で一番しあわせな女でしたって・・・・・>
「いやだ」とぼくは呟いた。 何かを言わねばならなかった。 
胸の中に凝り固まっていた最後のかたまりが、咽元をはい上がってきた。

ぼくが子供の頃から、殴り、蹴り、いじめ続けてきた富江。
父兄会のとき、用務員にまでぺこぺこと頭を下げていた富江。
奥の三畳間で、泣きながら髪を切っていた富江。
形見の浴衣をぼくに切り刻まれて、それでも叱りもせずにぼくを抱きしめてくれた富江。
いつもぼくのそばにいて、ぼくの怒りも悲しみも、黙って受け止めてくれた富江。
そして、ぼくが世界で一番、心の底から愛している富江。
見知らぬ言葉が、ぼくの口から躍り出た。


「かあさん。 死んじゃいやだ!」


遠ざかる夜汽車の汽笛のような、かすかな富江の声がした。
<ありがとう、孝ちゃん>
電話はそれなり切れた。
身を慄わせて慟哭しながら、ぼくは考えた。 ぼくが失ったもの、それは何だろう。
人間として能うかぎりの栄光と、奇蹟の再生のかわりにぼくが失ったものは、いったい何なのだろう。
思い屈してぼくは目を上げた。
仲オジはぼくに背を向けて仁王立ちに立ったまま、唸り声を上げて泣いていた。



32
別れの朝が来た。
朝食の後片付けをおえ、住み慣れた厨房を出るとき、服部シェフは俎を磨く梶板長に向かって深々と頭を下げた。 「じゃあ、行きます・・・・・」
一晩中考え続けていたお礼の言葉は何ひとつ声にならなかった。 教え示されたことが、余りにも多すぎた。
頭をたれながら服部は、ただ、この人のようになりたいと思った。

俎を拭うと、板長は思いついたように玉葱を刻み始めた。 天窓からさしこむ春の光が、老いた調理人の影を清潔な床に曳いていた。 涙を拭いながら、板長は黙々と玉葱を刻み続けた。
「板長、オレ・・・・・うまいメシ、作ります」
口にすることのできた感謝の言葉はそれだけだった。 いや、そのことだけをこの人は教えてくれたのだ。
「餞別だ、持ってけ」
神棚に伸び上がって、板長は千代鶴是秀の桐箱を下ろした。
「そんな・・・・・板長、とんでもないです。 それは・・・・・」
包丁の箱を差し出す板長の目は、兎のように赤かった。
「晩餐会の献立をこさえるのに、まさかゾーリンゲンでもねえだろうが」
託された箱の重みを、服部は胸で受け止めた。

「あなたに代わって、作らせてもらいます」

見上げる板長の姿の、何とまばゆいことだろう。 
糊のきいた白衣の腕を組んで、厨房の神は最後の訓えを口にした。
「構えるな、服部。 料理は理屈じゃねえぞ。 おめえが昔、おやじや兄弟たちにこさえてやったような料理を、天皇陛下にも大統領にもたんと食わしてやるんだ。 それができるのはおめえだけだ。 だからこそおめえは―――」
板長の頬を、信じがたい涙が伝った。
「それでこそおめえは、天下の料理人だ。 天下の・・・・・総料理長(グラン・シェフ)だ」


厨房を出ると、ロビーの大窓から、満開の春の日差しが躍りこんでいた。
絢爛たる料理のせかいに、服部正彦はたしかな一歩を踏み出した。

「おいとまの挨拶は、もうすんだのかね」 
優しい声に顔を上げると、フロントの中から花沢支配人が微笑みかけていた。
「じゃあ、そこまで送ろうか」
支配人の笑顔も眩しかった。 正視できずに振り返ると、番頭や仲居たちが昨夜の記者会見でとり散らかったロビーを掃除していた。 この人たちを残して、自分ひとりが幸せになることに、服部はやりきれぬ後ろめたさを感じずにはおられなかった。 ひとりひとりの祝福の言葉が、胸に刻みつけられていた。

「またいつでも遊びに来ればいいじゃないか。 君は天才だから、きっと神様もこのさきいろいろな試練を与える。 悩みがあったら、いつでも来ればいい。 そんなときのために、このホテルはあるんだから」
「花沢さん、あなたはもう戻らないんですか」
「戻るって、どこに?」
「クラウンホテルですよ」 支配人は肩をすぼめて笑った。
「クラウンを支える人材は、ほかにいくらでもいる。 だが、このホテルはわたくしがいなければならないんだ」

旗竿を立てたようにタキシードの背をぴんと伸ばして、支配人は誇らしげに答えた。
この人は骨の髄までホテルマンだ。
「やあ、一晩で放免桜が満開になった」
支配人は車寄せに出ると、無意識に蝶ネクタイを整えながら、そう言って春風に目を細めた。




「なあ、ふぶき―――」
窓辺のソファでコーヒーをすすりながら、三浦は言いづらそうに呟いた。

「もうスターになんかならなくたっていいから、苦労はしないでくれろ。 先生、おまえが幸せになれるんだったら、どんなことでもすっから」
「したっけ先生・・・・・」 と、春野ふぶきは言い淀んで俯いた。
「したっけ、東京さ出てくるとき、先生と約束したもね。 汽車の窓で、先生あたしの顔を抱きしめて、言ってくれたでないかい。 オフェーリアになれって」
「それはな、ふぶき。 そったら意味ではないよ。 東京は悪い男が大勢いるから、先生はおまえのことが心配で心配で、どんなことがあっても清い心のオフェーリアのようでいてくれって、そう思ったんだ」
「あたし、汚れちゃったもね」
「そったらことないよ。 おまえは、昔のまんまだべさ」
「先生の小説も、本になるといいね」
三浦はバーカウンターを振り返った。 止まり木に並んで、二人の編集者が何事か言い争っている。
自分の原稿を奪い合っているようにも見えるのだが、まさかそんなことはあるまい―――。

「返せッ、オギワラ! ちょっと見せてやるって言っただけなのに、おまえは何て欲深な女だ!」
「いいえ、いやです。 岡林さんこそ何て欲が深いの。 新人を育てるのは私たちマイナー出版社の役目です」
「冗談はよせ。 その原稿はな、そこいらの新人が持ち込んだ小説とはわけがちがう。 磨き上げられた文章、溢れ出る抒情、シェークスピアばりのドラマチックな会話、抜群のストーリーテンリング。 おまえなんかに、とられてたまるか。 返せッ!」
「岡林さんの欲張りッ! 木戸先生から<哀愁のカルボナーラ>をもらい、続篇の<郷愁のペスカトーレ>を書かせ、のみならず昨日はどさくさまぎれに、第三部<涙のペペロンチーノ>の約束をとりつけていたじゃないの。 このうえ持ち込みの新人まで取ろうなんて、あんまりです!」
「木戸先生との約束なんてアテになるか。 そんなことおまえが一番よく知ってるだろう。 あの先生はな、いつ何どき挫折して、首くくったってちっともふしぎじゃないんだぞ。 人格は生まれつき破綻している。 極道小説かと思えば歯の浮くような恋物語。 本格ミステリーの次はチャンバラ。 ハードボイルドだと言って受け取った原稿は、タダの色物だった。 まさに支離滅裂だ」
「ひどい。 私の木戸先生に向かって、何てこと言うの」
「勝手におまえのものにするな!」


言い争いながら、二人は背後に冷ややかな仙気を感じて同時に振り返った。
階段をゆっくりと、品の良い紳士が下りてきた。 美しい妻と、愛らしい子供を連れている。
紳士の姿はあくまでインテリジェンスに溢れ、いかにも高邁無比な文化人の趣である。

「・・・・・だ、だれですか、あの人」
「・・・・・見ればわかるだろう。 日本文芸大賞受賞者の、木戸孝之介先生だ」
昨日までとは全く別人に見える白皙の顔を二人に向けて、木戸先生は「やあ、おはよう」と軽く会釈した。



おとうさん、いったいどうしちゃったんだろう。
朝早く目がさめたら、顔つきも話すことも、きのうまでとはぜんぜんちがっちゃっていた。

ママにきいたら、おとうさんはゆうしょうしたから、小説の神様がおりたんだって、ほんとかなあ。
もうぶったりけったりしそうにないから、ママはちょっとホッとしたみたいだけど、ミカはなんだかさみしい気がする。 どこかへ行っちゃうと困るから、ずっと手をつないでいよう。
あ、出版社のおにいさんとおねえさんに向かって、おじぎをした。 信じられない。
フロントまできて、おばあちゃんを呼ぶ。 おかあさん、だって。 すごくやさしい声―――。

「おかあさん。 またまたお騒がせして、すみませんでした。 あの、授賞式には来てもらえますよね」
おばあちゃん、うつむいちゃった。 こたえられなくて、泣いてる。 かわいそう。
おとうさんはカウンターごしにおばあちゃんの手をひきよせた。
「泣かないでよ、おかあさん。 いやなことは忘れて下さい。 いろいろなことがあって、みんなが苦労をしたけれど、一番つらい思いをしたのはおかあさんに決まってるんですから。 ぼく、がんばるから。 一生けんめいにがんばってね、おかあさんの苦労をぼくがぜんぶ取り返しますから。 だから、もう泣かないで下さい」
おばあちゃんは泣きながら、やっと言った。 「私は、何もしてないよ。 おまえを、捨てたんだよ」
「それは、ちがいますよ。 おかあさんはぼくを捨てたんじゃなくって、ぼくを小説家にしてくれたんだ。 ぼくがこうして小説家になれたのは、みんなおかあさんのおかげなんです。 それしか方法がなかったから、おかあさんはそうして下さったんです―――じゃ、また連絡します。 体に気をつけてね。 百まで生きて、ぼくが文化勲章をもらうのを、ちゃんと見届けて下さい」
おばあちゃんは泣きながらうなずいた。


お庭はお花でいっぱい。
「おとうさん、ちょっと写生していいですか」
「ああ、してきなさい。 あんまり時間がないけど」
「あい。 デッサンだけして、色はおぼえておきます。 クレパスより水彩のほうがきれいだし」
花の下に、さくらさんとしげるさんがすわっている。 なんだか恋人同士みたいでいいかんじ。

「ねえ、おにいさん。 ピーターパンの舞台、見に来てくれる?」
「え・・・・・あ、ああ・・・・・でもー、おめーまだオーディションにもうかってねーんじゃねーの」
くすっ、とさくらさんはお膝をかかえて笑った。
「私、うかるよ」
「そんなの、どーしてわかるんだよー。 相手のあるこっちゃねーのかー?」
「わかるの。だって、誰よりも努力してきたもの。 それにね、私どうしてもピーターパンのステージに立って、映画とかテレビドラマにもいっぱい出てね、そうして、待っている人に会わなくちゃならないの」
「待ってる人って、だれだよー。 せつねーこと、言うなよなー」
「それはね・・・・・フフッ、な、い、しょ」

さくらさん、すごくきれい。 花から生まれたようせいみたいだ。
しげるさんはちらちらと、さくらさんの横顔をぬすみ見て、どきどきしているみたい。
きっと恋をしちゃったんだ。

「あの―――ひとつだけ、聞いていいかな」 「いいわよ。 何でしょう」
「あの・・・・・ゆうべチラッと聞いたんだけど、おめー、えらい役者の子供なんだって?」
さくらさん、だまっちゃった。
「せつねーよなー、泣かせるよなー。 おめー、おやじに会うために、一生けんめいがんばってきたんか。 何だか木戸先生とダブるけどよー、俺、何にもしてやれねーもんなー」
さくらさんはしゃんとしているのに、しげるさん、ぽろぽろ泣きだした。
「俺、おめーのことすっごく好きになっちまったんだ。 こんな気持ち、初めてなんだよー。 でも、俺、バカだし、高校もダブッちまったし、今んとこしがねえ部屋住みの勤労青年だからよー、いくら好きだからって、何もしてやれねーもんなー。 ダッセーよなー、情けねーよなー」
「そんなことないよ、おにいさん。 一生けんめいがんばれば、きっといいことある」
しげるさん、じっと考え込んだ。 うすい眉毛をぴくぴくさせて、どうすりゃいいんだって、なやんでる。

「そうだ―――」
風がふいて、桜の花が二人のうえにサッとふりかかった。
「そうだ、俺、がんばっておやじみたいなホテルマンになるよ。 俺、いい大学行って、英語もペラペラになって、帝国ホテルの支配人になるからよー、そしたらおめー、ディナーショーやってくれよなー」
うん、とさくらさんは力いっぱいうなずいた。
「もしそうなったらね、私、おにいさんのお嫁さんになってあげてもいいよ」
「ほんとかァー!」

しげるさんは立ち上がって、芝生のうえを走りまわった。 わあい、わあいって、すごくうれしそう。
絵をかきながら、何だかミカもうれしくなった。
あれえ―――うれしいのに、なんで胸がいっぱいになるんだろう。
ちりかかる桜の花が、おなかいっぱいにつまっちゃったみたいだ。

「おとうさん! たいへん、たいへん。 ミカ、へんになっちゃいました」
おそうさんはおどろいて玄関から走ってきた。
「へん、って、どうしたんだ。 おなか痛いのか、メンスがきたか!」
「ちがいます。 とってもうれしいのに、うれしいのに涙がでてきちゃいました。 ミカ、こわれたんですか」
ほっと胸をなでおろして、おとうさんはミカの肩ぐるまにのせてくれた。 桜の花に手がとどきます。

「ところでよー、おめーのおやじって、誰なんだよー!」
さくらさんは、にっこりと笑って立ち上がった。
国境の、まだ雪ののこる山にむかって、さくらさんはぴんと気をつけをした。
「ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ! カ・ケ・キ・ク・ケ・コ・カ・コ!」
「なあ、誰なんだよー」
まっさおなお空に両手をいっぱいにひろげて、ちりかかる花に巻かれながら、さくらさんはさけんだ。
「ああ、この思い、いったい誰に伝えましょう。 愛する人に、この身が誰の子供かと問われれば、答えぬわけにはまいりませぬ。 さらば聞こしめせ。 私は春の申し子。 咲き匂う花と大地の子―――そして、誇り高き、オフェーリアの子!」


おとうさんの肩の上で、ミカは泣きながら拍手を送った。 風の中を、おとうさんは楽しそうにぐるりと回った。


プリズンホテル。 これからも悲しいことがあったら、ここに連れてきてもらおう―――春の風を胸いっぱいに吸い込んで、ミカはそう思った。





旅の終わりに

ハイウェイの彼方に、都会の灯が見えてまいりました。
四季をめぐるプリズンホテルへの旅、いかがでございましたか。
おかげさまで、あいじさいの季節には新米のツアーコンダクターであった私も、錦繍の秋、吹雪の冬、そして今回の桜の折々にと皆様をご案内するうち、何とか一人前になったような気がいたします。
ご不満な点、至らなかったところも多々ございましたでしょうが、お客様方にとって少からず思い出に残る旅であったにちがいないと自負いたしております。
楽しい旅を企画するのは、さほど難しいことではありません。
しかし、ただ楽しいばかりの旅では、すぐに忘れてしまいます。
楽しいうえに、長く思い出に残る旅。 あるいは明日からの暮らしの、活力となるような旅。
このさきもお客様のおひとりおひとりに必ずや満足していただけるご旅行を、心をこめてお届けしたいと思っております。
どうか新聞広告等でお見かけになりましたら、ご家族お友達お誘い合わせのうえ、ふるってご参加下さいませ。
ところで、万病に効くというプリズンホテルの「極楽の湯」、いかがでしたか。
あまりの心地よさに夜づめでお入りになっていらっしゃった方もおいでになりましたね。
かくいう私もすっかり湯あたりをしてしまったようです。 たしかに、恋の悩みも金の苦労も、神経衰弱も不眠症も、嘘のように治ってしまいましたが。
季節が一巡して、つごう四度にわたったこのツアーも、これでおしまい。
はなはだお名残おしうはございますが、私もほかの旅行の案内が忙しく、このさきのアンコールにはもうお応えできません。 どうか、あしからず。
でも、さきほど出立の折に、仲蔵親分、いや木戸オーナーが言っておりました。
よかったらいつでもおいでなさいよ。 うちのホテルは年中無休、ちゃんと営業はしておりやすから、と。
そう。 プリズンホテルは奥湯元の深い木立の中に、ずっと玄関を開けております。
皆様もどこかお体の具合の悪いとき、苦しいとき悲しいとき、つらいとき切ないとき、またいつでもお越し下さい。
花沢支配人も梶板長も、黒田さんも繁さんも、アニタもゴンザレスも、安吉さんも常さんも、みんなずっと働いています。 そして木戸孝之介先生はじめ、皆様がお知り合いになった大勢のお客様たちも、みなご常連となって、しばしばお見えになります。
ああ、ハイウェイの行手に、都会の灯があんなに近くなりました。
それではまたいつか、お会いできる日を楽しみに。 ありがとうございました。

「プリズンホテル」 ツアー添乗員 浅田次郎







プリズンホテルの思い出
浅田次郎

夏が来れば思い出すのである。
遥かな尾瀬とは縁もゆかりもない、水芭蕉の造花がっみっしりと暑苦しく咲いた新宿の喫茶店で、当時徳間書店の文芸編集者であった芝田暁氏から、書き下ろし長篇小説のオーダーをいただいた。
それは私にとって初めての小説単行本である大陸書房版『きんぴか』が刊行された直後のことで、本は全然売れないにもかかわらず大手出版社の編集者が、まるで申し合わせたかのように連絡を入れてきて下さったのであった。
ころはバブルさめやらぬ1992年、稼業の婦人服販売も好景気で、いちおう社長の私はたいそう忙しかった。 従業員や取引先はみな口を揃えて、「そういう道楽はたいがいにして、商売に身を入れなさい」と言った。
はっきり言って商才はある。 博(バク)才も認める。 しかし文才があるとはとうてい思えない、というのが、私をめぐる大方の人々の共通した意見であった。 そこで私は、検品と称して日がな倉庫にこもり、冬物の在庫の山に身を隠して、ひそかに『プリズンホテル』を書き始めた。
才能の有無はともかく、積年の夢を果たせるか否かのチャンスであることに疑いようはなかった。 しかし版元は『きんぴか』に続く極道ユーモア小説を待望していた。
将来この路線に埋もれることのないよう、さまざまの可能性を臭わせ、なおかつかけがえのない習作としての価値もある小説を、私は書かねばならなかった。
「分相応」は私のモットーである。 自分の身丈に合った生活をしていれば幸福は保障される。
だが「分相応」に暮らしながらも「齢相応」の夢を見なければ人間の未来はない。 かくて、ドイツ教養文学ビルドゥングス・ロマンを背骨とした泣き笑い満載の極道小説『プリズンホテル』は誕生したのであった。
ところで、本稿を執筆するにあたって、シリーズ全四巻の奥付けに目を通し、わがことながら今更驚いた。
第一巻「夏」の刊行は1993年の2月28日である。 つまり400枚の書き下ろし原稿に4ヶ月ないし5ヶ月の期間を要したわけで、その仕事ぶりは必ずしも早いとは言えぬが、ほぼ同時進行で『日輪の遺産』の700枚を書き下ろしていたのである。
続く第二巻「秋」は、1993年8月から翌年の4月にかけて週刊誌上に連載したのだが、やはりその間に吉川英治文学新人賞を受賞した『地下鉄(メトロ)に乗って』を書き下ろしている。
第三巻の「冬」は掲載誌の刊行日程の都合で、ホテルにカンヅメのまま正味一週間で書き上げた。
1995年5月のことであるから、『蒼穹の昴』執筆の合間に書いたことになる。
第四巻「春」の連載も『蒼穹の昴』の下巻を書き下ろしている最中で、しかもこの時期は『活動寫眞の女』を月刊誌に同時連載しており、のちに『鉄道員(ぽっぽや)』や『月のしずく』『見知らぬ妻へ』に所載される短篇も、月に一篇ないし二篇の割合で発表し続けていた。 無我夢中であったせいか、苦労の記憶はない。
つまり私は、自分の身丈に合い、版元と読者のニーズに応じた「プリズンホテル」シリーズを書きながら、一方ではセッセと分不相応な夢を原稿用紙に託し続けていたのである。

根が体育会系の私は、第一巻を書き始めるにあたり、「作家としての基礎体力の充実をはかる」ことを目的に据えた。 山奥の温泉ホテルという舞台の限定。 そして二泊三日という時間の制約。 この劣悪な小説的環境の下で、どのくらいのドラマを盛り込むことができるか。
第二巻ではさらに時間を一泊二日に短縮し、なおかつ団体客を二組投宿させることで、小説的環境をいっそう難しく設定した。 しかし初挑戦の週刊誌連載である。
第三巻は「一週間で四百枚の書き下ろし」という苛酷なオーダー自体が命題であった。
そして第四巻は、毎日のようにやってくる締切をかたっぱしから片付けながら、それでも既刊三冊のクオリティを損なわず、大団円にふさわしい一冊を仕留めるという職業作家の仕事であった。
こう思えば、『プリズンホテル』は私にとってかけがえのない習作であったと言い切ることができる。
齢四十にしてようやくデビューを果たした私が、作家として生き残るためには、状況に応じた筋肉をつけるこの四巻の鍛錬がどうしても必要だった。
だから毎年夏が来ると思い出すのである。 遥かな尾瀬とは縁もゆかりもない、水芭蕉の造花がみっしりと咲く喫茶店は、四十を過ぎた老兵が初めて立った戦場であった。





ついに、最後になりました! プリズンホテルシリーズ。 名残惜しいです(>_<、)
笑いあり涙ありの人情モノ。 なかなか楽しく読めました!

やはりプリズンホテルの魅力は、生き生きとした登場人物じゃないでしょうか。
これだけたくさん登場するのに、要らない人物は一人もいない!
個性豊かな面々! 小説を読んでいると、その人物の表情まで見えてきます。

浅田次郎さんは、木戸孝之介と似た境遇で育ったみたいですね。
だからとりわけこの小説には思い入れがあるのではないでしょうか?
それもまた文章から伝わってきますね^^ 楽しんで書いておられたであろうことも、伝わってきました!

また、こちら夏・秋・冬・春と、季節感たっぷりなのもいいですね!
写すにあたり、削ってしまったところもあるのですが、特に各章、季節の言葉で始まり、季節の言葉でしめるあたりが美しいです。 印象に残ったのは冬と春かなぁ^^


シリーズ最後の「プリズンホテル春」。
読む前は最後だからシリアスなのばっかりで、笑いが少なかったらさみしいな~と思っていたら
ガッツリ笑いの要素も入れてくれていて、そこが嬉しかったですね!
むしろ他より気合を入れて、笑わせてくれた感じで。
でも最後はグッと泣ける。 その緩急具合がたまらない。

今回のメインのテーマは主人公・孝之介と富江なんですね。
正直、途中まで単にどこかに行方をくらませただけだと思ってたので、最後で「えっ!」ってなりました。
富江さん・・・・ちょっと淋しい感じもする終わり方ですね。
孝之介が最後、毒気が抜かれたように別人になったのは本当でしょうか(笑)
ちょっとあまりに嘘みたいでギャグのように思ってしまいました^^;


プリズンホテルで私、感銘を受けたので、浅田次郎さんの他の作品も読んでみようと思います。
でも時代モノは無理かな・・・現代モノでなにか読んでみます^^