前回は圭介のワガママに皆が振り回され、そして翔が喋れるようになりました。
圭介は実は望のことを・・・・・でも、その望は夏木に惹かれていきます。
今回がラストです、最後までどうぞ。
「海の底」 有川浩
■最終日。―――――そして、
4月12日。
ついに自衛隊がレガリスの駆除に動き出した。
「圧倒的です」―――と、中継していた各報道機関はTVカメラに述べた。
一方的な殲滅であり、駆除であった。
横一線に配置された60式106mm無波動砲四門が一斉に火を吹くとレガリスの一群が消し飛んだ。
代わって73式装甲車が重機関銃で一帯を掃射。 撃ちこぼした個体を歩兵の携行火器で掃討。
被害区域内は吹き飛んだレガリスの破片とその体液で溢れた。
9時すぎには市街全体に凄まじい異臭が立ちこめていた。
これほど圧倒的なのに――――
「何故、最初から出さないッ!」
激しく机を叩いたのは県警第一機動隊、住之江小隊長である。
同じ部屋で見守る各隊長も、わかりすぎるほど、憤る住之江と同じ気持ちであった。
機動隊はあれほどレガリスに苦戦し、重傷者を出し指揮官たちも負傷していない者はいない。
それでも結局レガリスを退けることはできなかったのだ。
そのレガリスの群れを自衛隊はまるで紙人形を破くように引き裂いて進んでいる。
警察がここまで損害を強いられる意味はなんだったのか。
自衛隊さえすぐにでていればこんなことには。
誰もが思うそんな仮定には意味がないのだ。 それが叶わないのがこの国の形だ。
自衛隊の様子が報道されると、玲一は朝からテレビの前から剥がれようとしなかった。
ぶつぶつ言いながら食い入るように見る姿が異様なのか、
年下の子供たちは遠まきに近寄ろうとしなかった。
「玲一くんてオタクだったんだねぇ」 翔の言葉に望は苦笑した。
玲一は日頃から無口で冷めた感じの子供だったのであれほど熱中することが意外だったのだ。
子供たちは帰る支度をした。 望は布団をたたみ、部屋を軽く掃除した。
食堂でしばらくテレビを見ていた望はふと思いついた。
男子部屋を訪れると案の定使いっぱなしである。
望は男子部屋も全てのシーツとマットを片付け、掃除した。
上へ戻ろうとするとものすごい爆発音がして悲鳴を上げてしゃがみこんだ。
「どうした、誰だ!?」 見回り中であろう、夏木が現れた。
差し出された手に甘える。
「音が・・・急に大きかったからちょっと驚いて」
「ドンパチが近くまできたからな。 そろそろ米軍と合流して基地内の戦闘が始まるからうるさくなるけど大丈夫だ。・・・っつっても恐いもんは恐いわな」
望も照れ笑いを返す。 ―――ああ、今ちょっとチャンスかもしれない。
「昨日、翔の言ってた・・・・」 声がしぼんだ。
「ああ、あれな。 わかってる」
心臓が跳ねた。 分かってるって―――分かってるって何を。
「ガキの言うこと真に受けやしねえから安心しろ」
拍子抜けして、それからガッカリした。 食堂へ向かう足どりは重たくなった。
自衛隊は米軍と合流して基地内のレガリス掃討を開始した。
ほぼ駆除され、レガリス掃討における負傷者は自衛隊・米軍ともに0。 軽傷者すら出なかった。
レガリスの死骸は海洋放棄されることになり、市街の洗浄と消毒は一週間ほどが見込まれている。
午後3時、『ふゆしお』が米軍横須賀基地の沖に到着し、最初のピンを打つと
レガリスが一斉に沖へと向かった。
米軍にたてこもったシェルターの民間人の移送が再開され、
『きりしお』の子供たちの救助も開始された。
『きりしお』の子供たちは救難ヘリで救助されることになった。 小さい子供から順番だ。
甲板で補助するのが夏木で、子供たちが上がるのを下で補助するのが冬原だ。
最年少の光が上がってくると、 「くさーい!」 レガリスの腐臭はかなりのものだった。
「まあ、そう言うな、勝った証拠だ」 光は吊り上げられるのが怖くてぐずった。
夏木に抱きつく光に「ずいぶん懐かれましたね」と隊員は声をかけた。
冬原も上がってきて説得してやっと夏木から剥がれる。
「夏木さん冬原さんバイバイ、またね」 光が手を振った。
しかしホイストが上がるとやっぱり怖いのか、ものすごい泣き声が上がり、夏木と冬原は吹き出した。
一機目の最後に収容されたのが翔だ。
「夏木さん、いろいろありがとう」
姉の望とよく似た顔を見て、夏木はしばらく言葉に迷った。
こうして翔の声を聞くようになるとは思ってもみなかった。
「元気でな、仲良くしろよ」
迷った挙句、結局は陳腐な言葉しか出てこなかった。
二機目の救難ヘリがやってきた。
一番手になる木下玲一に、冬原はデジカメとメモリを渡した。
「くれぐれも今後はこういうオイタはしないようにね。 見逃してくれる人ばっかじゃないよ」
玲一は無言で頷いた。
「ありがとう。お世話になりました」
愛想は少なめだが基本的に人は悪くない。
茂久はラッタルを上る前にメモを一枚冬原に押し付けた。
「うちの食堂。 夏木さんが住所置いてけって。 あんたたち来たら奢ってやるって言ったんだ」
「へえ。じゃあありがたく」 冬原はメモをポケットにしまい、
「食事、手伝ってくれてありがとね。 助かったよ。 旨かったしね」
茂久は嬉しそうに笑い、照れ隠しのように言った。
「うちの父ちゃんはもっと旨いぜ。 期待しとけよ」
雅之は気まずそうに謝ったが、
圭介は冬原と目を合わせることさえしなかった。
最後に望を呼ぶと大きく頭を下げた。 「六日間お世話になりました。ありがとうございました」
「よく頑張ったね。 みんなの面倒も見てくれて助かったよ」 望が首を横に振って笑う。
「さ、行きな。 忘れ物のないようにね」
望が驚いたように冬原に向き直る。 うかがう表情を冬原は笑って流した。
望は勇気づけられたように頷く。
上のバカはどうする気やら。 冬原はラッタルを上っていく望を見ながら肩をすくめた。
圭介は結局夏木とも目を合わさなかった。 急に謝られても気持ち悪いので構わなかった。
あとは望か。
手を貸し引っ張りあげようとすると、望は中に踏みとどまった。
「夏木さん、あの」 思いつめたような真摯な眼差しが痛い。
「私、」
「やめとけ」 機先を制したのは聞くと揺らぐからだ。
「気のせいだ。 危機的状況で自分よりちょっと器用な大人が近くにいたら五割増しでよく見える。 早まるな」
ざっくり傷ついた顔を見るのは何度目だろう。
「こんな状況に付け込んで女誑かすほど落ちぶれてないし、俺は高校生をそういう対象に認識しない。 それに」
望の手を引くと、力なく甲板に上がった。
「やっぱり俺は、お前らが来なければよかったって最初に思ったんだ。 お前らが来なかったら艦長は死なずに済んだのにって。 そんなふうに思われたのが始まりなんて嫌だろ。 どうせなら幸せに出会って幸せに始まったほうがいいだろ」
ごめんなさい、と望が小さく呟いた。
違うんだ、謝るな、俺はもっとひどいことを思ったんだから。と思った。
「私たちがいなくなったら、もう我慢しないで泣いてくださいね」 「ああ、ありがとう」
「一つだけお願いしていいですか」 決意したようにまっすぐ夏木を見た。
「私のことは忘れてください」―――そう言った。
夏木はややあって無言で頷いた。
「ありがとうございました。 さよなら」
最後の一言だけ子供たちのテンプレから外れていた。 望はその後一度も夏木を振り返らなかった。
「バッカだねえ、夏木くんは!」 救難ヘリが遠ざかる中、どうせ聞いていたのだろう。
「高校生って言ってもあと二年も待てば成人じゃんよ。 五、六歳しか離れてないのに」
「うるせえな」
「メインの理由はもっとバカ」 冬原はあっさり切った。
「せっかく夏木の美徳を認めてくれる稀有な女の子だったのにさぁ。 艦長も嘆いてるよきっと。 一番あんたのこと気にしてたのに、艦長使って断るなんて嘆くよー」
「お前の人生はさぞや生きやすかろうな、そんだけ能天気だったら」
「とかカッコつけてる夏木にむかついたから、リリースした魚がさらに惜しくなることを指摘してやる」
冬原がハッチから甲板に肘をついて意地悪そうに笑った。
「お前、望ちゃんだけ絶対名前で呼ばなかったこと、自分で気づいてた? 森生姉森生姉って不自然極まりなかったね」
「うるせえよ。 子供が一時血迷ったのに付け込むような真似が出来るか」
「血迷ったわけではないと思うけどね。 順当に言ったら俺じゃないの?」 冬原はしれっと言ってのける。
―――畜生。 逃げした魚が初めて惜しくなった。
着陸したヘリから子供たちが降りると、マスコミが殺到した。
乗員のかたたちが優しくしてくれたと言うと、レポーター達は失望したような顔をした。
その顔に望は苛立った。 虐待話が真実だったほうが ”おいしい” とでも?
「何か変なことされなかった?」 一際下世話な質問に望は・・・・・
「ふざけないでっ!」 下世話な記者に平手が炸裂した。 会心の一撃だった。
圭介にマイクを突きつけたのはNBCだ。 子供たちが圭介に注目した。
「そうだよ、虐待だぜ!」 圭介が大声で言い放った。 子供たちが息を飲む。
「あいつらオレが外に出ようとしたら襟首掴んで引きずり戻したんだぜ!すごい乱暴に!引きずり戻してから小突かれたし!何様だよあいつら!」
周囲の記者やレポーターが呆気にとられた。
嘲笑に近い失笑がいくつか弾け、NBCのレポーターが屈辱の表情で唇を噛む。
子供の戯言に乗せられて、と周囲の報道陣は明らかに嘲っていた。
とともに虐待疑惑もなくなった。
ryu:やっと解放されました! 今厚木です 横須賀はすごいことになってました
イージス:ryuさん帰ってきたな
トム猫☆:今晩さっそくチャットに来るんじゃない?
イージス:『きりしお』も子供が救出されたな
トム猫☆:見た見た。 あれはすごかったね、NBC大恥かかされたね
イージス:両者の言い分聞けるまで待てば良かったのにな。 自分勝手な今時のガキだな
トム猫☆:あれを六日間面倒見たなんて同情しちゃうね。
イージス:俺的には記者引っぱたいてた女の子萌え。 よくやった!
トム猫☆:あの記者サイテーだよね。 何かされなかったかって何考えてんだか。
『ふゆしお』は相模湾に向けてレガリスを誘導し続けた。
魚雷を放つと海底を這う動きしか出来ないレガリスへ照準を合わせるのは簡単だった。
『きりしお』も夏木・冬原に戻ってきたクルーが加わり、群れからこぼれたレガリスの掃討を終え、海面に浮上すると艦隊に合流した。
そしてレガリスが群れている海底に向けて、一発のデコイが投下された。
海底にまっすぐ沈んだデコイには潜水艦の探信音を録音した音響機材が仕込まれている。
その女王の呼び声に答え、レガリスは小高い山になろうとしていた。 そこに集中攻撃をする。
圧倒的な爆音とともに海面が視界を溢れるほどの範囲で球形に白く盛り上がった。
そして終わった。
自衛隊が出動してわずか半日あまりの終息であった。
『きりしお』が陸に上がると艦長の遺族が待っていた。
夏木と冬原は艦長の腕を渡し、遺族は隊員に連れられて立ち去った。
もういいよな?
ようやく静かに涙が流れた。 号泣する激しさはもう乗り越えてしまった。しかし、涙は止まらなかった。
防衛大の学舎の一室。
六日ぶりの親との対面であちこちで涙の再会となった。
ただ、圭介だけは顔を合わすや母親に引っぱたかれた。
「あんたって子は―――あんたって子は、」
ヒステリックに同じ言葉を繰り返し、何度も引っぱたく。
感動の再会シーンが一気に異様な雰囲気になった。
母親はついに父親に外に連れて行かれて、泣き喚く声が響いていた。
圭介が椅子に腰掛けると、しばらくして雅之がやってきた。
「オレたちは分かってるから。 あの人たちもきっと分かるよ」
泣くつもりなんてなかったのに、それが合図のように涙がこぼれた。 嗚咽が漏れる。
3ヶ月も経つと街は以前の様子を取り戻した。
「レガリスまんじゅう」なるものが発売され、不謹慎だと叩かれた。
茂久のおじさんが食堂でレガリス丼を出そうとしておばさんにこっぴどく怒られた。
店を継ぐから、と早々と進路を決めた茂久が何だか大人に見えた。
今まで茂久をバカにしてきたことを謝らないといけないと思いつつ、切り出すのが気まずい。
圭介と母親の断絶は3ヶ月経った今でも回復していない。 むしろ諍いは増えるばかりだ。
圭介と母親の関係が崩れたことで団地内の勢力図も微妙に書き換わった。
母親が誰かを弾こうとしたときに、圭介がそれを批判するようになったからである。
「昨日、夏木さんと冬原さんがうちの食堂に来たぜ!」
茂久が圭介に報告したのはもう秋口になったある月曜日だった。
若い子が見慣れない茂久の母ははしゃいでいたそうだ。
茂久が圭介に向き直った。 「あの後、別に処分とかなかったって」 「・・・・そうか」
何気なく答えたが、気持ちの上では肩の荷がごっそり下りていた。
「よかったな」 雅之が屈託なく言って、圭介も頷いた。
ふと望はどうしているんだろう、と思った。
ちょうど外から翔の声が聞こえてきて、慌てて部屋を飛び出し階段を駆け降りた。
「おい!」 翔は警戒するような表情になった。
「夏木と冬原のことだけど、何も処分されなかったってよ。 それだけだ、じゃあな」
これで望にも伝わるはずだ。
次の春、圭介と雅之は同じ高校に進んだが、茂久とは学校が別れた。
翔や亮太が中学の制服を着るようになり、望は大学に進学したそうだ。
大学の寮に入ったらしい。 長い休みで帰ってきている。
髪が伸び、薄く化粧するようになり、すっかり女子大生だ。 圭介とは完全に違う世界の住人である。
まだ夏木のこと好きなのかな、ちらりとそう思った。
関西の大学に進学を決めた年、来年卒業する望がこちらに帰ってくると聞いた。
「久しぶり」 道で通りすがったとき、お互いそう言った。
横須賀の事件から4年、これだけ経てば普通に声を交わせる。
「関西行くんだってね」 「うん」
「望さんは就職したら家から通うの?」 「うん、狙ってるとこに受かれば通える距離だし」
「それもそうだね」 それじゃ、と望が立ち去ろうとしたとき、圭介はとっさに呼び止めた。
「望さん」 望が振り向く。 少し驚いた顔で。
今度は何を言えばいいのか分かっている。
「子供の頃、いろいろごめん」 今更でも言ってしまわないと圭介にとっては終わらない。
越えないければいけないハードルなのだ。 望は少し瞬きしてから、笑った。
「もう気にしてないよ」
ああ。やっと終わった。―――圭介はほっと息をついた。 これで母親にも立ち向かえる。
「学校、頑張ってね」
「望さんも。就職、頑張れよ。 絶対受かれよ」
圭介が返した励ましに、望は初めて全開の笑顔で力強く頷いた。 その笑顔で許されたと実感できた。
横須賀の事件から5年目の夏がきた。
夏木と冬原は相変わらず腐れ縁で同じ艦に勤めている。
新造艦が就役して幹部職が足りずにまとめて放り込まれた形だ。
バラ売りすると別々のところで騒ぎを起こすので、まとめて管理しようという腹もあるらしい。
冬原は潜水艦記章を取った翌年に意外と早く結婚した。
腰が軽いように見えて本命はしっかりと捕まえてあったらしい。
昨年子どもが生まれてからは意外なほどの親バカっぷりだ。
夏木は今でも独り身だ。
「だからあの時カッコつけてリリースしなきゃよかったのに」
冬原はいつまでもしつこく五年前の事件を蒸し返す。 よほど異議があったらしい。
「あれはそういうんじゃねえよ、向こうだって気の迷いだ」 「迷いじゃなかったらどうする?」
「そもそも今更確かめようもねえだろが」 夏木は一蹴して昼飯をかきこんだ。
今日は午後から見学者の案内だ。 技官関係の見学が多い。
「夏木二尉、見学の方いらっしゃいました」
見学者はもう埠頭で待っていた。
黒いパンツスーツの女性だ。 今年入省した技官だと聞いている。
お待たせしました、と言いながらタラップを降りたところで夏木の足は一瞬止まった。
相手の女性が顔を上げる。 ――――覚えているより綺麗になった。
「『はじめまして』。 今年入省の 森生望 です」
お忙しい時にすいません、と言葉を続ける彼女を夏木は手で制止した。
「ちょっと待て。お前、」 「初めまして、ですよね?」 望はねじこむように言った。
「初対面なのに口悪いですよ。 だからまだ彼女の一人もできないんじゃないですか」
「余計なお世話だ! つーか何でそんなこと知ってんだ、そもそも!」
「冬原さんは連絡先教えてくれたんです、どなたかは教えてくれなかったけど」
思わずハッチを見上げると、上がってきた冬原が意地悪そうに笑った。
「初めてになりましたよね?」 5年前の記憶が巻き戻る。
やっぱり俺は、お前らが来なければよかったって最初に思ったんだ。
そんなふうに思われたのが始まりなんて嫌だろ。
どうせなら幸せに出会って幸せに始まったほうが―――
そんな風に誤魔化した夏木に望は最後に頼んだのだ。
”私のことは忘れてください”
忘れろというのがこういうことだったのなら、夏木は望に敬礼を返した。
「『初めまして』、本日ご案内を致します夏木大和二尉です。 よろしくお願いします」
望がほっとしたように笑った。
頼むからそんなふうに笑うな。 言い訳が全部引っペがされてもう逃げ場がない。
普通に綺麗だとか思っちまうだろうが。
「足元気をつけて」
タラップの段差で手を貸すと、望は昔のように遠慮がちに手を預けてきた。
華奢な手の感触はやはり昔と変わらない。
昔はどうして無造作に接することができたのか、今となってはもう思い出せなかった。
この物語を読み始めて、はじめの方は潜水艦の専門用語と、
難しい言葉のオンパレードだったので、最後までこの調子だったらどうしようかと思いましたが、
後半は人間模様を描いた描写が多かったので安心しました(笑)
まとめでは重要な項目を除いて、極力難しい言葉は省きました。
初めは「塩の街」のほうがいいかな~と思ったんですけど、どちらにもそれぞれの良さがありますね!
こっちの「海の底」のほうが男性向けの小説だと言えるでしょうか。
登場人物が個性がはっきりとしていて、わかりやすく、そして魅力的ですね。
これは有川浩さんの小説全てに言えるのかも?
夏木と冬原のコンビが対照的でいいですよね~。 うん、どちらもいい♪
巨大なエビの襲来という、またスケールの大きな話なんですけど、
政治的な話も絡んできます。 本来、人間を相手に活動する機動隊が頑張りますが、
法律により自衛隊は武器による攻撃が出来ないのです。
そして、やっと政府の許可が下りると、あっという間に自衛隊が巨大エビを殲滅。
機動隊の努力は・・・・死傷者は・・・・なんだったんだ、っていうやつです。
この「海の底」で一番好きなのが、ラストの終わりかたかな。
こういう終わりかた、大好きです! 素敵~~~♪ ときめいてしまいました♡
やっぱり有川浩さんの描く恋愛描写は好きです。 女子の心をわかってます(笑)
登場人物に感情移入出来たし、最後が良すぎたので私的には後半評価が上がった作品でした。
圭介は実は望のことを・・・・・でも、その望は夏木に惹かれていきます。
今回がラストです、最後までどうぞ。
「海の底」 有川浩
■最終日。―――――そして、
4月12日。
ついに自衛隊がレガリスの駆除に動き出した。
「圧倒的です」―――と、中継していた各報道機関はTVカメラに述べた。
一方的な殲滅であり、駆除であった。
横一線に配置された60式106mm無波動砲四門が一斉に火を吹くとレガリスの一群が消し飛んだ。
代わって73式装甲車が重機関銃で一帯を掃射。 撃ちこぼした個体を歩兵の携行火器で掃討。
被害区域内は吹き飛んだレガリスの破片とその体液で溢れた。
9時すぎには市街全体に凄まじい異臭が立ちこめていた。
これほど圧倒的なのに――――
「何故、最初から出さないッ!」
激しく机を叩いたのは県警第一機動隊、住之江小隊長である。
同じ部屋で見守る各隊長も、わかりすぎるほど、憤る住之江と同じ気持ちであった。
機動隊はあれほどレガリスに苦戦し、重傷者を出し指揮官たちも負傷していない者はいない。
それでも結局レガリスを退けることはできなかったのだ。
そのレガリスの群れを自衛隊はまるで紙人形を破くように引き裂いて進んでいる。
警察がここまで損害を強いられる意味はなんだったのか。
自衛隊さえすぐにでていればこんなことには。
誰もが思うそんな仮定には意味がないのだ。 それが叶わないのがこの国の形だ。
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自衛隊の様子が報道されると、玲一は朝からテレビの前から剥がれようとしなかった。
ぶつぶつ言いながら食い入るように見る姿が異様なのか、
年下の子供たちは遠まきに近寄ろうとしなかった。
「玲一くんてオタクだったんだねぇ」 翔の言葉に望は苦笑した。
玲一は日頃から無口で冷めた感じの子供だったのであれほど熱中することが意外だったのだ。
子供たちは帰る支度をした。 望は布団をたたみ、部屋を軽く掃除した。
食堂でしばらくテレビを見ていた望はふと思いついた。
男子部屋を訪れると案の定使いっぱなしである。
望は男子部屋も全てのシーツとマットを片付け、掃除した。
上へ戻ろうとするとものすごい爆発音がして悲鳴を上げてしゃがみこんだ。
「どうした、誰だ!?」 見回り中であろう、夏木が現れた。
差し出された手に甘える。
「音が・・・急に大きかったからちょっと驚いて」
「ドンパチが近くまできたからな。 そろそろ米軍と合流して基地内の戦闘が始まるからうるさくなるけど大丈夫だ。・・・っつっても恐いもんは恐いわな」
望も照れ笑いを返す。 ―――ああ、今ちょっとチャンスかもしれない。
「昨日、翔の言ってた・・・・」 声がしぼんだ。
「ああ、あれな。 わかってる」
心臓が跳ねた。 分かってるって―――分かってるって何を。
「ガキの言うこと真に受けやしねえから安心しろ」
拍子抜けして、それからガッカリした。 食堂へ向かう足どりは重たくなった。
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自衛隊は米軍と合流して基地内のレガリス掃討を開始した。
ほぼ駆除され、レガリス掃討における負傷者は自衛隊・米軍ともに0。 軽傷者すら出なかった。
レガリスの死骸は海洋放棄されることになり、市街の洗浄と消毒は一週間ほどが見込まれている。
午後3時、『ふゆしお』が米軍横須賀基地の沖に到着し、最初のピンを打つと
レガリスが一斉に沖へと向かった。
米軍にたてこもったシェルターの民間人の移送が再開され、
『きりしお』の子供たちの救助も開始された。
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『きりしお』の子供たちは救難ヘリで救助されることになった。 小さい子供から順番だ。
甲板で補助するのが夏木で、子供たちが上がるのを下で補助するのが冬原だ。
最年少の光が上がってくると、 「くさーい!」 レガリスの腐臭はかなりのものだった。
「まあ、そう言うな、勝った証拠だ」 光は吊り上げられるのが怖くてぐずった。
夏木に抱きつく光に「ずいぶん懐かれましたね」と隊員は声をかけた。
冬原も上がってきて説得してやっと夏木から剥がれる。
「夏木さん冬原さんバイバイ、またね」 光が手を振った。
しかしホイストが上がるとやっぱり怖いのか、ものすごい泣き声が上がり、夏木と冬原は吹き出した。
一機目の最後に収容されたのが翔だ。
「夏木さん、いろいろありがとう」
姉の望とよく似た顔を見て、夏木はしばらく言葉に迷った。
こうして翔の声を聞くようになるとは思ってもみなかった。
「元気でな、仲良くしろよ」
迷った挙句、結局は陳腐な言葉しか出てこなかった。
二機目の救難ヘリがやってきた。
一番手になる木下玲一に、冬原はデジカメとメモリを渡した。
「くれぐれも今後はこういうオイタはしないようにね。 見逃してくれる人ばっかじゃないよ」
玲一は無言で頷いた。
「ありがとう。お世話になりました」
愛想は少なめだが基本的に人は悪くない。
茂久はラッタルを上る前にメモを一枚冬原に押し付けた。
「うちの食堂。 夏木さんが住所置いてけって。 あんたたち来たら奢ってやるって言ったんだ」
「へえ。じゃあありがたく」 冬原はメモをポケットにしまい、
「食事、手伝ってくれてありがとね。 助かったよ。 旨かったしね」
茂久は嬉しそうに笑い、照れ隠しのように言った。
「うちの父ちゃんはもっと旨いぜ。 期待しとけよ」
雅之は気まずそうに謝ったが、
圭介は冬原と目を合わせることさえしなかった。
最後に望を呼ぶと大きく頭を下げた。 「六日間お世話になりました。ありがとうございました」
「よく頑張ったね。 みんなの面倒も見てくれて助かったよ」 望が首を横に振って笑う。
「さ、行きな。 忘れ物のないようにね」
望が驚いたように冬原に向き直る。 うかがう表情を冬原は笑って流した。
望は勇気づけられたように頷く。
上のバカはどうする気やら。 冬原はラッタルを上っていく望を見ながら肩をすくめた。
圭介は結局夏木とも目を合わさなかった。 急に謝られても気持ち悪いので構わなかった。
あとは望か。
手を貸し引っ張りあげようとすると、望は中に踏みとどまった。
「夏木さん、あの」 思いつめたような真摯な眼差しが痛い。
「私、」
「やめとけ」 機先を制したのは聞くと揺らぐからだ。
「気のせいだ。 危機的状況で自分よりちょっと器用な大人が近くにいたら五割増しでよく見える。 早まるな」
ざっくり傷ついた顔を見るのは何度目だろう。
「こんな状況に付け込んで女誑かすほど落ちぶれてないし、俺は高校生をそういう対象に認識しない。 それに」
望の手を引くと、力なく甲板に上がった。
「やっぱり俺は、お前らが来なければよかったって最初に思ったんだ。 お前らが来なかったら艦長は死なずに済んだのにって。 そんなふうに思われたのが始まりなんて嫌だろ。 どうせなら幸せに出会って幸せに始まったほうがいいだろ」
ごめんなさい、と望が小さく呟いた。
違うんだ、謝るな、俺はもっとひどいことを思ったんだから。と思った。
「私たちがいなくなったら、もう我慢しないで泣いてくださいね」 「ああ、ありがとう」
「一つだけお願いしていいですか」 決意したようにまっすぐ夏木を見た。
「私のことは忘れてください」―――そう言った。
夏木はややあって無言で頷いた。
「ありがとうございました。 さよなら」
最後の一言だけ子供たちのテンプレから外れていた。 望はその後一度も夏木を振り返らなかった。
「バッカだねえ、夏木くんは!」 救難ヘリが遠ざかる中、どうせ聞いていたのだろう。
「高校生って言ってもあと二年も待てば成人じゃんよ。 五、六歳しか離れてないのに」
「うるせえな」
「メインの理由はもっとバカ」 冬原はあっさり切った。
「せっかく夏木の美徳を認めてくれる稀有な女の子だったのにさぁ。 艦長も嘆いてるよきっと。 一番あんたのこと気にしてたのに、艦長使って断るなんて嘆くよー」
「お前の人生はさぞや生きやすかろうな、そんだけ能天気だったら」
「とかカッコつけてる夏木にむかついたから、リリースした魚がさらに惜しくなることを指摘してやる」
冬原がハッチから甲板に肘をついて意地悪そうに笑った。
「お前、望ちゃんだけ絶対名前で呼ばなかったこと、自分で気づいてた? 森生姉森生姉って不自然極まりなかったね」
「うるせえよ。 子供が一時血迷ったのに付け込むような真似が出来るか」
「血迷ったわけではないと思うけどね。 順当に言ったら俺じゃないの?」 冬原はしれっと言ってのける。
―――畜生。 逃げした魚が初めて惜しくなった。
* * *
着陸したヘリから子供たちが降りると、マスコミが殺到した。
乗員のかたたちが優しくしてくれたと言うと、レポーター達は失望したような顔をした。
その顔に望は苛立った。 虐待話が真実だったほうが ”おいしい” とでも?
「何か変なことされなかった?」 一際下世話な質問に望は・・・・・
「ふざけないでっ!」 下世話な記者に平手が炸裂した。 会心の一撃だった。
圭介にマイクを突きつけたのはNBCだ。 子供たちが圭介に注目した。
「そうだよ、虐待だぜ!」 圭介が大声で言い放った。 子供たちが息を飲む。
「あいつらオレが外に出ようとしたら襟首掴んで引きずり戻したんだぜ!すごい乱暴に!引きずり戻してから小突かれたし!何様だよあいつら!」
周囲の記者やレポーターが呆気にとられた。
嘲笑に近い失笑がいくつか弾け、NBCのレポーターが屈辱の表情で唇を噛む。
子供の戯言に乗せられて、と周囲の報道陣は明らかに嘲っていた。
とともに虐待疑惑もなくなった。
* * *
ryu:やっと解放されました! 今厚木です 横須賀はすごいことになってました
イージス:ryuさん帰ってきたな
トム猫☆:今晩さっそくチャットに来るんじゃない?
イージス:『きりしお』も子供が救出されたな
トム猫☆:見た見た。 あれはすごかったね、NBC大恥かかされたね
イージス:両者の言い分聞けるまで待てば良かったのにな。 自分勝手な今時のガキだな
トム猫☆:あれを六日間面倒見たなんて同情しちゃうね。
イージス:俺的には記者引っぱたいてた女の子萌え。 よくやった!
トム猫☆:あの記者サイテーだよね。 何かされなかったかって何考えてんだか。
* * *
『ふゆしお』は相模湾に向けてレガリスを誘導し続けた。
魚雷を放つと海底を這う動きしか出来ないレガリスへ照準を合わせるのは簡単だった。
『きりしお』も夏木・冬原に戻ってきたクルーが加わり、群れからこぼれたレガリスの掃討を終え、海面に浮上すると艦隊に合流した。
そしてレガリスが群れている海底に向けて、一発のデコイが投下された。
海底にまっすぐ沈んだデコイには潜水艦の探信音を録音した音響機材が仕込まれている。
その女王の呼び声に答え、レガリスは小高い山になろうとしていた。 そこに集中攻撃をする。
圧倒的な爆音とともに海面が視界を溢れるほどの範囲で球形に白く盛り上がった。
そして終わった。
自衛隊が出動してわずか半日あまりの終息であった。
『きりしお』が陸に上がると艦長の遺族が待っていた。
夏木と冬原は艦長の腕を渡し、遺族は隊員に連れられて立ち去った。
もういいよな?
ようやく静かに涙が流れた。 号泣する激しさはもう乗り越えてしまった。しかし、涙は止まらなかった。
* * *
防衛大の学舎の一室。
六日ぶりの親との対面であちこちで涙の再会となった。
ただ、圭介だけは顔を合わすや母親に引っぱたかれた。
「あんたって子は―――あんたって子は、」
ヒステリックに同じ言葉を繰り返し、何度も引っぱたく。
感動の再会シーンが一気に異様な雰囲気になった。
母親はついに父親に外に連れて行かれて、泣き喚く声が響いていた。
圭介が椅子に腰掛けると、しばらくして雅之がやってきた。
「オレたちは分かってるから。 あの人たちもきっと分かるよ」
泣くつもりなんてなかったのに、それが合図のように涙がこぼれた。 嗚咽が漏れる。
3ヶ月も経つと街は以前の様子を取り戻した。
「レガリスまんじゅう」なるものが発売され、不謹慎だと叩かれた。
茂久のおじさんが食堂でレガリス丼を出そうとしておばさんにこっぴどく怒られた。
店を継ぐから、と早々と進路を決めた茂久が何だか大人に見えた。
今まで茂久をバカにしてきたことを謝らないといけないと思いつつ、切り出すのが気まずい。
圭介と母親の断絶は3ヶ月経った今でも回復していない。 むしろ諍いは増えるばかりだ。
圭介と母親の関係が崩れたことで団地内の勢力図も微妙に書き換わった。
母親が誰かを弾こうとしたときに、圭介がそれを批判するようになったからである。
「昨日、夏木さんと冬原さんがうちの食堂に来たぜ!」
茂久が圭介に報告したのはもう秋口になったある月曜日だった。
若い子が見慣れない茂久の母ははしゃいでいたそうだ。
茂久が圭介に向き直った。 「あの後、別に処分とかなかったって」 「・・・・そうか」
何気なく答えたが、気持ちの上では肩の荷がごっそり下りていた。
「よかったな」 雅之が屈託なく言って、圭介も頷いた。
ふと望はどうしているんだろう、と思った。
ちょうど外から翔の声が聞こえてきて、慌てて部屋を飛び出し階段を駆け降りた。
「おい!」 翔は警戒するような表情になった。
「夏木と冬原のことだけど、何も処分されなかったってよ。 それだけだ、じゃあな」
これで望にも伝わるはずだ。
次の春、圭介と雅之は同じ高校に進んだが、茂久とは学校が別れた。
翔や亮太が中学の制服を着るようになり、望は大学に進学したそうだ。
大学の寮に入ったらしい。 長い休みで帰ってきている。
髪が伸び、薄く化粧するようになり、すっかり女子大生だ。 圭介とは完全に違う世界の住人である。
まだ夏木のこと好きなのかな、ちらりとそう思った。
関西の大学に進学を決めた年、来年卒業する望がこちらに帰ってくると聞いた。
「久しぶり」 道で通りすがったとき、お互いそう言った。
横須賀の事件から4年、これだけ経てば普通に声を交わせる。
「関西行くんだってね」 「うん」
「望さんは就職したら家から通うの?」 「うん、狙ってるとこに受かれば通える距離だし」
「それもそうだね」 それじゃ、と望が立ち去ろうとしたとき、圭介はとっさに呼び止めた。
「望さん」 望が振り向く。 少し驚いた顔で。
今度は何を言えばいいのか分かっている。
「子供の頃、いろいろごめん」 今更でも言ってしまわないと圭介にとっては終わらない。
越えないければいけないハードルなのだ。 望は少し瞬きしてから、笑った。
「もう気にしてないよ」
ああ。やっと終わった。―――圭介はほっと息をついた。 これで母親にも立ち向かえる。
「学校、頑張ってね」
「望さんも。就職、頑張れよ。 絶対受かれよ」
圭介が返した励ましに、望は初めて全開の笑顔で力強く頷いた。 その笑顔で許されたと実感できた。
* * *
横須賀の事件から5年目の夏がきた。
夏木と冬原は相変わらず腐れ縁で同じ艦に勤めている。
新造艦が就役して幹部職が足りずにまとめて放り込まれた形だ。
バラ売りすると別々のところで騒ぎを起こすので、まとめて管理しようという腹もあるらしい。
冬原は潜水艦記章を取った翌年に意外と早く結婚した。
腰が軽いように見えて本命はしっかりと捕まえてあったらしい。
昨年子どもが生まれてからは意外なほどの親バカっぷりだ。
夏木は今でも独り身だ。
「だからあの時カッコつけてリリースしなきゃよかったのに」
冬原はいつまでもしつこく五年前の事件を蒸し返す。 よほど異議があったらしい。
「あれはそういうんじゃねえよ、向こうだって気の迷いだ」 「迷いじゃなかったらどうする?」
「そもそも今更確かめようもねえだろが」 夏木は一蹴して昼飯をかきこんだ。
今日は午後から見学者の案内だ。 技官関係の見学が多い。
「夏木二尉、見学の方いらっしゃいました」
見学者はもう埠頭で待っていた。
黒いパンツスーツの女性だ。 今年入省した技官だと聞いている。
お待たせしました、と言いながらタラップを降りたところで夏木の足は一瞬止まった。
相手の女性が顔を上げる。 ――――覚えているより綺麗になった。
「『はじめまして』。 今年入省の 森生望 です」
お忙しい時にすいません、と言葉を続ける彼女を夏木は手で制止した。
「ちょっと待て。お前、」 「初めまして、ですよね?」 望はねじこむように言った。
「初対面なのに口悪いですよ。 だからまだ彼女の一人もできないんじゃないですか」
「余計なお世話だ! つーか何でそんなこと知ってんだ、そもそも!」
「冬原さんは連絡先教えてくれたんです、どなたかは教えてくれなかったけど」
思わずハッチを見上げると、上がってきた冬原が意地悪そうに笑った。
「初めてになりましたよね?」 5年前の記憶が巻き戻る。
やっぱり俺は、お前らが来なければよかったって最初に思ったんだ。
そんなふうに思われたのが始まりなんて嫌だろ。
どうせなら幸せに出会って幸せに始まったほうが―――
そんな風に誤魔化した夏木に望は最後に頼んだのだ。
”私のことは忘れてください”
忘れろというのがこういうことだったのなら、夏木は望に敬礼を返した。
「『初めまして』、本日ご案内を致します夏木大和二尉です。 よろしくお願いします」
望がほっとしたように笑った。
頼むからそんなふうに笑うな。 言い訳が全部引っペがされてもう逃げ場がない。
普通に綺麗だとか思っちまうだろうが。
「足元気をつけて」
タラップの段差で手を貸すと、望は昔のように遠慮がちに手を預けてきた。
華奢な手の感触はやはり昔と変わらない。
昔はどうして無造作に接することができたのか、今となってはもう思い出せなかった。
この物語を読み始めて、はじめの方は潜水艦の専門用語と、
難しい言葉のオンパレードだったので、最後までこの調子だったらどうしようかと思いましたが、
後半は人間模様を描いた描写が多かったので安心しました(笑)
まとめでは重要な項目を除いて、極力難しい言葉は省きました。
初めは「塩の街」のほうがいいかな~と思ったんですけど、どちらにもそれぞれの良さがありますね!
こっちの「海の底」のほうが男性向けの小説だと言えるでしょうか。
登場人物が個性がはっきりとしていて、わかりやすく、そして魅力的ですね。
これは有川浩さんの小説全てに言えるのかも?
夏木と冬原のコンビが対照的でいいですよね~。 うん、どちらもいい♪
巨大なエビの襲来という、またスケールの大きな話なんですけど、
政治的な話も絡んできます。 本来、人間を相手に活動する機動隊が頑張りますが、
法律により自衛隊は武器による攻撃が出来ないのです。
そして、やっと政府の許可が下りると、あっという間に自衛隊が巨大エビを殲滅。
機動隊の努力は・・・・死傷者は・・・・なんだったんだ、っていうやつです。
この「海の底」で一番好きなのが、ラストの終わりかたかな。
こういう終わりかた、大好きです! 素敵~~~♪ ときめいてしまいました♡
やっぱり有川浩さんの描く恋愛描写は好きです。 女子の心をわかってます(笑)
登場人物に感情移入出来たし、最後が良すぎたので私的には後半評価が上がった作品でした。