終盤になりました、あらすじまとめ。 長すぎてこれってあらすじって言うのかしら・・・・
でも、これでも600ページ以上あるのをまとめてるんですよ。

予想以上に時間がかかったので返却期間延長しました笑
今はネットで色々出来て便利ですね。本の予約や貸出状況なんかも見れます。
又吉さんの「火花」を検索してみたら500人以上待ちでしたよビックリマークいつ借りれるのサ、それあせる



「片想い」 東野圭吾


■登場人物■

西脇哲朗/主人公。大学時代はアメフトのクォーターバックのエース。現・スポーツライター。
日浦美月/元女子マネ。10年ぶりの再会で男の心を持ち、人を殺したことを告白。
西脇理沙子/哲朗の嫁。元女子マネ。職業はカメラマン。旧姓・高倉
中尾功輔/アメフト仲間で美月の大学時代の彼氏。今は逆玉で成城の家で嫁と子供と暮らす。以前に比べてひどく痩せている。
早田/同じくアメフト仲間。今は新聞の社会部の記事を書く記者。恐ろしく勘が鋭い。
須貝/アメフト仲間。いい奴なのだが、少々天然なところがある友達。

戸倉明雄/美月に殺されたというストーカー男。
戸倉佳枝/死んだ明雄の母。 明雄と同じ家に住んでいた。
戸倉泰子/死んだ明雄の嫁。 今は息子と別のアパートに住む。
佐伯香里/『猫目』のホステス。死んだ戸倉につきまとわれていた。本当は立石卓という男である。
立石卓/佐伯香里と戸籍交換をした。もとは女。
嵯峨正道/劇団金童の主宰者





第8章


運送会社の事務所で待っていた哲朗。  大型トラックが2台入ってきた。
事務員が嵯峨に駆け寄り、哲朗のほうを指差すと、嵯峨は困惑した表情を見せた。

「勘弁してくれ」
「大体のことは聞きました日浦から。 劇団の存在理由・・・戸籍交換のこと。中尾のことをもっと知りたいんです」
だが嵯峨は中尾が今どこでなにをしてるのか、なにをしようとしてるのか知らなかった。

俺と中尾とで築き上げてきたもので、あんたらには関係ないという嵯峨。
「築き上げた挙句にこのザマじゃないですか」 「なに?」
「こそこそと逃げ出して、隠れまわってる。エース・ランニングバックの面影もない」

嵯峨は哲朗の襟首を掴んだ。 強い力だったがラインバッカーたちの腕力には負ける。
哲朗は易易と手を引き離すと嵯峨は傷ついたような顔を見せた。


「ちょっと休憩してくると事務所の連中に言ってくる」
嵯峨はそういうと哲朗と近くの喫茶店へ行った。

「中尾は・・・あいつは男の心を持った女、女の心を持った男、
完璧に女性に化けた男・・・そういうものを見抜く力を持っていた。
何しろあの香里を見て、一発で男と見抜いたんだぜ」

「なぜそんなことができるのかな。勘がいいのか」
そう呟くと、嵯峨は中尾の秘密を教えてくれた。

「奴のお袋さんは男だったんだ」  「えっ・・・・」

彼の母親は性同一性障害だった。
哲朗にとっては、なにもかも初めて聞く話だった。

「そして俺と中尾は気があって劇団を作ろうと思っていた俺に力を貸してくれた。
戸籍交換するのは簡単なことじゃない。 中尾はそのシステムを作ろうとしていた」

中尾とは嵯峨も現在連絡が取れないそうだ。

「奴がよくこんなことを言っていた。自分たちのやっていることは間違ってるんじゃないかってね。
自分たちのやっていることは単に物事を鏡に映して逆さまにしているだけで、
内容は少しもよくなってないんじゃないかって、ね」



家に帰ると、理沙子が神妙な顔つきで話しかけてきた。

「明日、不動産屋に行ってこようと思う。部屋を探しに」
「部屋・・・ああ、仕事部屋か」
「仕事部屋でもあるけど、住むところでもある・・・・かな」
「どういうことだ」
「今すぐ別れるとかそういうことじゃないから。 でもあたしたちは今のままじゃだめだと思う」

驚いたが彼女の提案には賛成だった。哲朗は二人の生活に息苦しさを感じていた。

理沙子は中尾のことを聞いてきた。
「中尾君のことはそっとしておこうって言ったけど、あたし間違ってた。
中尾君はあなたの親友だし、ほっとけるはずないよね、ごめんなさい」


なんだかいつもと雰囲気が違う理沙子を不思議に思いながら翌朝を迎えた。

リビングで荷物をまとめる理沙子。 しばらくは友達にところに居るらしい。
ありがとう、と言い残して彼女は部屋を出た。

キッチンで水を飲むと、洗った食器の中にロイヤルコペンハーゲンのカップ&ソーサーが2客あった。
余程の客が来ない限り使わないものである。


一体、誰が来たんだ―――。


その時、冷蔵庫に貼り付けられたメモに気付いた。

『中尾君を見つけてください 早田君には負けないで』と書いてあった。



哲朗は急に思い立ったことがあり、デパートに寄ると手土産用に煎餅と饅頭を買った。
煎餅のほうは戸倉泰子(死んだ戸倉の妻)に、饅頭は戸倉佳枝(戸倉の母)に。

戸倉明雄の家はせせこましい住宅地にひっそりと佇む。
ブザーを押すと戸倉佳枝が顔を覗かせたが、扉を閉められそうになった。
「もうお話することはありませんので」
「未確認の情報をいろいろ持ってるんです。それを聞いていただきたいんです」

早田は何かを掴んでいると言った。
あの時点で調べられたことと言えば戸倉明雄の周辺を調べることくらいじゃないか。
そうして哲朗はあらためて戸倉佳枝と戸倉泰子をあたることにした。
しかし早田はあれ以来一度もここを訪れていないという。

哲朗は言葉を選びながら戸倉佳枝に事件の話をした。
『猫目』で働くホステスの愛人のバーテンが犯人の可能性が高い、と。
「名前はなんという人ですか」
「神崎ミツルです」
と言うと、ごくわずかだが老女の表情に変化が生じた。

「戸倉さんの奥さんはこの近くにお住まいですか? 時々話をされたりするんですか」
「話なんか全く。年が明けてから一度も会ってません。 ええと電話番号は・・・・
電話なんかかけないからメモした髪もどかいっちゃって」
そう言いながらも彼女は一枚のメモを出してきた。 戸倉泰子の連絡先だ。



古いアパートの2階が戸倉泰子と息子が住む部屋だった。  哲朗は部屋に通された。
泰子の息子がテレビゲームで遊んでいる。 前に遊んでいたゲーム機とは違うものだった。
「お仕事は何を?」
「居酒屋で働いてたんですけど、辞めさせられました。不景気でお客さんいないし。
今、次の仕事を探してるところなんです」

ゲーム機に飽きたのか、息子は電話機をいじっていた。
少年が押しているのはリダイヤルボタンだろう。いくつもの数字が並ぶのが面白いのか。

「旦那さんのお母さんとはもう付き合いがないんですか」
「ええ、あの人とはもう赤の他人だと思ってますから」

哲朗は帰り際、手土産のことを思い出して差し出した。
「すみません、将太も甘いものが好きなので喜ぶと思います」
「いや、あのぅ、中身は煎餅なんです。すみません」
「あ、そうなんですか。ごめんなさい。でもお煎餅も好きだから」


帰り道、哲朗は思った。 なぜ彼女は箱の中身が「甘いもの」だと思い込んだんだろう。
それに泰子は哲朗の顔を見てもさほど驚かなかった。
家の住所を知っていたことについても疑問を抱いた様子ではなかった。

戸倉佳枝から泰子に連絡が入ったのか。

そうなると佳枝と泰子の関係に対する認識を改めねばならない。

思いついたことがあり、彼は踵を返した。 泰子のアパートだ。
「まだ何か?」
事件のことについて2,3質問した後、

「それより、電話をお借りできないでしょうか。携帯電話を家に忘れてきちゃいまして」
「あ、どうぞ」

哲朗は数字ボタンを押すふりをしてリダイヤルを押した。
その番号は戸倉佳枝の自宅ではなかった。
・・・・・が、この番号に見覚えがあることに気付いた。

佳枝のものではない。もっと意外な人物の番号だった。



午後11時を過ぎたところだった。
哲朗は黒ビールのおかわりを注文した。 2杯目を飲みかけたとき、扉が開き早田が現れた。
「ずいぶん待ったか」 「いや、少しだけだ」
早田はジンビターを注文した。 「理沙子が好きな酒だ」
「だから頼んだんだよ」 にやりとしながら早田が言った。

「高倉はどうだい、相変わらず飛び回ってるのか」 「まあね」
「じつは、別居することになった」

哲朗はあの話をした最終戦のインターセプト・・・

「あの時、どうしてお前にパスを投げなかったかってことだけど」
「見えなかったんだろ」 早田はあっさりと言った。
「知ってたのか」 「そうだと思ってた」

「これは誰も指摘しないことだけどさ、左側コーナーに関しては敵は全くノーマークだった。
あの協力ディフェンスを誇るチームがさ。変だと思うだろ」
「まさか・・・・・」
「そう、やつらは気づいてた。帝都大のクォーターバックは左コーナーには投げない。
なぜだかはわからないけど」
「それで俺はそれを利用することにした。左コーナーに走る。
あとはお前が気づいて投げてくれるかだ。それは俺の運を試すことでもあった」
「運?」
「俺が高倉に気があったことは勘づいてただろ?」 「・・・・・ああ」
「ずっと迷ってた告白するべきか。高倉とお前の仲は知っていた。 そこで俺は決めたんだ。
タッチダウンを決めれれば告白する。だめだった場合はあきらめる」
「そしてタッチダウンはできずか・・・・・」


話変わって、哲朗は本題を話し始めた。 板橋の殺人事件に関してだ。
早田は戸倉泰子と息子が佳枝の家を訪れて2時間ほどいるのを目撃した。
そして一人で泰子はATMへ行った。 彼女のしていることは”通帳記入”だった。
ほかの日も見張っていると、しばしば通帳記入だけする泰子がいた。

一方、婆さん・・・佳枝のほうは、とあるウィークリーマンションを訪れていた。
「借主の名前は神崎ミツルだった」

一体なんのために・・・復讐か?


「ずばり、脅迫だ」 早田は人差し指を立てた。


生活する金に困っている佳枝と泰子は犯人を脅して金をゆすった。これが早田のとっておきの情報だった。


「さあ、今度はお前が話す番だぜ。 戸倉泰子宅で見た電話番号は一体誰のものだったんだ?」

「その前に・・・・・頼みがある。 どうか、この件から手を引いてくれ」
「おまえ舐めてるのか、手を引けというのはこっちの台詞だぜ」

哲朗は深呼吸すると、唇を舐めた。


「その神崎ミツルというバーデンは日浦だ。日浦美月だ」


「何言ってるんだ、神崎は男だぞ」
哲朗は今までの経緯を全て早田に話した。

「戸倉泰子の家で見た電話番号は・・・・中尾功輔だったんだろ」
「どうしてそれを・・・」 さすが早田、するどかった。
「中尾は自首するつもりだと思う」
「おそらくその前に戸籍交換のシステムに関する証拠を全て消すつもりだ。今もその作業中なんだろう」

早田は佳枝と泰子を告発するつもりだった。
しかし、そうなると美月たちのことを話すかもしれない。哲朗は告発して欲しくなかった。
早田にやめてくれ、と頼んだ。
だが「友情」よりも仕事。と言わんばかりに哲朗の説得も虚しく、裏が取れれば告発するとのことだった。

帰り際・・・・
「例の11月の集まり。今年の幹事は須貝だったな」  「ああ・・・」
「奴に連絡しておいてくれ。俺への案内状は不要だ。今年だけじゃなくてこれからもずっと」
「早田・・・・」



気が進まないが、哲朗は立石卓のアパートに再び来ていた。
立石卓―――本名・佐伯香里だが。

もう哲朗とは関わりたくない様子の立石卓とその彼女だった。
「中尾の連絡先を教えてくれ。知らないはずはない」
「本当に知りません、俺たちから直接中尾さんに連絡とることはできません」
じゃあ、一体誰と・・・・
「香里さん・・・です」

そうだ、彼は佐伯香里と入れ替わっている。
もしもの時に連絡先を知っていないと健康保険証の交換が出来ない。
ちょっとした風邪程度なら問題ないが、内臓に関わる疾病の場合本当の健康保険証がいるだろう。

立石卓の彼女に「健康保険証を貸してほしい。彼が盲腸になって・・・」と香里の番号にかけさせると、
新宿駅の改札で待ち合わせの約束をすることに成功した。


最後に彼の母親から頼まれていたことを言った。

「君のお母さんからいわれたんだ。元気なのか、何をしてるのか。教えてもいいのかな」
「立石卓って名前とか居場所は言わないでください。みんなに迷惑かかるから」

「一生懸命に生きてる―――そう伝えておいてください」
「了解した。 家に帰る予定は?」


「俺は立石卓だから。 佐伯香里の家になんか帰れませんよ」



―――>第9章へ続く