文春文庫から出版されております、東野圭吾さんの「片想い」。
この説明文を読んで、私はこの本を手に取りましたひらめき電球



「片想い」 東野圭吾


■登場人物■

西脇哲朗/主人公。大学時代はアメフトのクォーターバックのエース。現・スポーツライター。
日浦美月/元女子マネ。10年ぶりの再会で男の心を持ち、人を殺したことを告白。
西脇理沙子/哲朗の嫁。元女子マネ。職業はカメラマン。旧姓・高倉
中尾功輔/アメフト仲間で美月の大学時代の彼氏。今は逆玉で成城の家で嫁と子供と暮らす。以前に比べてひどく痩せている。
早田/同じくアメフト仲間。今は新聞の社会部の記事を書く記者。恐ろしく勘が鋭い。
須貝/アメフト仲間。いい奴なのだが、少々天然なところがある友達。

戸倉明雄/美月に殺されたというストーカー男。
佐伯香里/『猫目』のホステス。死んだ戸倉につきまとわれていた。
末永睦美/第一高校の陸上選手。女と男の生殖機能を持つ半陰陽という特殊な身体を持つ。




第5章

哲朗は中尾の自宅を訪れていた。
高級住宅地にそびえたつお洒落な洋風建築の家には『高城』と表札があった。

自宅には中尾一人だった。 
嫁と子供はでかけたのかい?  問い詰めると中尾は、別れることになりそうだ、と哲朗に告白した。
一体何があったのか深くは語らなかった・・・。
哲朗は美月の実家の連絡先を教えてもらった。
帰り際、握手をすると中尾は折れそうな手をしていた・・・。



次に哲朗は『猫目』の香里の自宅を訪れた。 住所は殺された戸倉の手帳に書いてあった。
チャイムを鳴らしても人の気配はなく、郵便ポストには新聞が押し込まれていた。
新聞は今日の朝刊だった。

次の日、再び訪れてみるがやはり不在で更に新聞が重ねられている。


おかしい・・・土曜日に美月が消え、そして日曜日に香里が消えた。
何か繋がっているのではないだろうか。


『猫目』に行くと、やはり香里は来ておらず、ママに尋ねるとしばらく休むとのことだが、
ホステスが「しばらく休む」というのは店を辞めたことを意味する。
ママに香里と連絡したいと話したがあてにならないだろう。



中尾に教えてもらった、美月の実家にやってきた。 
白髪頭の美月の父が出迎えてくれた。
父親は美月が普通の女でないということを気付いていたようだった。
ただ、その頃は仕事漬けの毎日で家庭をかえりみる暇がなかったと嘆いていた。
部屋には美月の成人式の写真が飾られていた。
その写真は心底楽しそうな笑顔であり、他の友人たちよりも美しく、女っぽかった。



理沙子に取ってきてもらった佐伯香里の住民票を見た。
本籍地は静岡県だ。 香里の実家はここに違いない。
104で住所と氏名を言うと、あっさりと電話番号がわかった。
嫌がる理沙子にその番号に電話をかけさせた。

「もしもし、佐伯さんのお宅でしょうか。須貝という者ですが、
そちらに佐伯香里さんはお帰りでしょうか」

突然、須貝という名字が出たので哲朗は笑いを噛み殺した。
電話は一方的に切られてしまった。
「香里のことなんか何も知らない。いちいち尋ねられても困る。もううちとは何も関係のない人間だ」
そう言っていたそうだ。



今度は以前、香里が住んでいたマンションを訪れた。
隣の部屋のチャイムを押した。 ひどく不健康そうな若者が出てきた。
香里のことはよく知らないが太った田舎臭いおっさんと喧嘩していたことがあったという。 父親か。
何かすっきりとせず、帰り道を歩いていたが、再び引き返しまたチャイムを押した。

「なんですかあ」 「隣に住んでいた人の名前だけど・・・」
「佐伯だよ。下の名前はカオルだったかな」 「いや、カオリでしょ。佐伯香里」


「違うよ佐伯カオルだよ。だって男なんだからさ」




香里の両親に会いに来た、哲朗と理沙子。
案の定、父親に追い返されるのだが、母親が後を追ってきてくれた。
予想通り、ここにはもう警察が取り調べに来ていた。 そして早田もかぎつけて連絡を入れていた。
母親は警察の話を聞いて変に思ったそうだ。まるで、自分の娘の話じゃないような。

「この人が香里さんですよね?」  彼女の写真を見せると母親は目を丸くした。
「いえ、違います。香里じゃありません。全然違う人です」

また、母親は今は女の格好はしていないだろうと言った。
香里は高校時代、いつも一緒にいる女の子がいた。
二人がキスをしていたという話や同性愛者だと言う妙な噂が広がっていた。
そして二人は小さな教会で睡眠薬を多量に飲み、心中騒ぎを起こした。
「自分は男になりたい。女性と結婚したい」
香里が言ったその言葉は女性として女性を愛せないなら、男性になりたい。という意味だった。


もう何年も実家に顔を見せてない香里だったが、一年半前に電話があったという。
母親が電話に出ると、その声は・・・・・・男のものになっていた。
母親は胸がつぶれそうな思いだった。



佐伯香里が今は男なんだとしたら、あの『猫目』にいる香里はいったい誰なんだ・・・・・



―――>第6章へ続く