また借りてきた本の話です。 今回は「命」のあらすじをまとめました。


「命」 柳美里

まず、この本は作家・柳美里さん自身のことを綴った自伝です。


芥川賞作家である、柳美里にはつきあっている男性がいた。
報道関係の編集者であるその男は柳美里の住むマンションにやってきては
同じ時間を過ごす、そんな仲だった。

ここまでは普通の恋人同士だが、一つ普通の恋人と違うところが・・・・
彼には妻がいたのだ。

そんな不倫関係を続けていた柳美里。 そして彼の子供をお腹に授かってしまうのです。

初めは「産んでくれ!」と言っていた男。
しかし次に会った時には思わぬ言葉を口にする。

「やっぱり堕ろしてくれないか」 と言い出したのだ。

そんな彼を前に「私、産むから。絶対、産む!」と産んで一人で育てていくことを決めたのでした。



その頃・・・
柳美里が少しの間所属していた劇団の演出家をつとめていた、東由多加という男がいる。
柳美里とは10年間ともに生活をした仲である。

彼は病院にいた。

ガンの検査結果を聞きに来ていた。
そして医者の口から出た言葉は・・・・「末期の食道がんです。 しかも他のいくつかの臓器に転移しています。手術で取り除くのは無理でしょう。」


余命8ヶ月を宣告されたのだ。


彼は独身であったが、彼が末期のガンだと噂を聞いた女たちや様々な人達が
一緒に暮らそう!と声をかけてきた。 彼には人徳があった。
しかし東はそれを全て断った。


そんな時、柳美里は東由多加に連絡をする。
そこで柳美里が妊娠したこと、東由多加が末期ガンなことをお互い明かす。

柳美里「これからどうするの?」

とりあえず、抗がん剤と放射線治療をするよ。という東由多加に一緒に暮らさないかと提案する。

彼女は締め切りに追われる人気作家だ。
「作家をしながら一人で育てていくのは無理。 一緒に暮らして子育ても手伝って欲しい」

他の人の誘いは断ってきた東だったが、彼女と彼女のおなかの子と余生を過ごすことを決めたのだ。



またその頃、柳美里は相手の男性との間でモメていた。
「彼に子供を認知してほしい。月に一度は子供と会ってほしい。養育費を月々5万円振り込んでほしい」

その要望に彼が渋っていたからだ。

「いや、それは・・・・」ずるずると話を先延ばししようとする男に柳美里は怒りをぶつけた。
どうせ奥さんにまだ言えずにいるに違いない。 どうしようもない男だ。

ただ、柳美里には子供の認知を急ぐ理由があった。

柳美里の母親は韓国人。 彼女は在日韓国人なのだ。
彼女は自分の子を日本国籍にしたかった。
だって、日本で生まれ、日本で育つんだから。

しかしその為にはお腹に子供がいるうちに父親に認知してもらう必要があった。


何度も彼に連絡して話し合うものの、いっこうにらちがあかず精神状態がボロボロになる柳美里。
彼に「もう別れよう」と告げます。
そして、彼との話し合いを彼女の妹にたくします。




一方、柳美里と一緒に暮らすようになった、東由多加のほうはガン治療を始めていた。
入院せずに日帰りで抗がん剤の治療を受けることにした。
東由多加は出来ることは出来るだけしたかった。
その時アメリカにいる恩人から声がかかった。 こっちで治療しないか、ということだった。
抗がん剤治療はAという抗がん剤を試してみて、効果があまり得られなければBという抗がん剤を試す。
そういう風に治療を進めるのだが、日本で認可が下りている抗がん剤よりもアメリカのほうが
種類が多かった。

そこでアメリカでの治療にわずかな希望を抱き、
アメリカの病院へ一時転院することに決めた東は渡米する。



再び一人で生活するようになった柳美里はなんとか妹を介して男に認知してもらい、
役所へ届出に行くが、「外国人登録済み証明書が入ります」と窓口で言われ、
「この前来た時は、その書類がいるって言われませんでした!ここは人によって言うことが違うんですか?」と声を荒らげる。
外国人国籍でしかも未婚で相手の男性は既婚者というケースが珍しかったのか、
やたらと時間がかかった。

そして妊娠してかなり体重が増えた柳美里は妊娠中毒症の恐れがあるから、
これ以上太らないように!と医者から言われた。



アメリカでの抗がん剤投薬治療を終え、帰国する東由多加。
日本の抗がん剤治療ではさほど副作用が出なかった東だが、アメリカのは違った。
髪は束で抜け、柳美里の前でも常にニット帽をかぶっていた。
食欲もなく食事がのどを通らなかった。 

何よりショックだったのが、帰国して検査してみるとわざわざ渡米して治療したのに
癌は小さくなっていなかった。 アメリカで投薬した抗がん剤は東には効果が得られなかったのだ。
東はがっくりと肩を落とした。



―――そして出産予定日の2週間前


柳美里のお腹に激しい痛みが襲った。 それは10分おきにやってくる。

「もう生まれるんじゃないか?」
「でも予定日の2週間前よ。」
「とにかくそんなに痛いんだったら普通じゃないよ。病院に行こう!」
あぁ、そうだ原稿用紙を持って行って、それにあれも・・・・と色々用意する彼女に
東はそんなことはいいから、早く病院に!と車の用意をする。

おなかの痛みは4分おきになっていた。

病院へつくと看護師さんに「陣痛ですね。」と言われる。
それからは早かった。 2時間ほどで無事元気な男の子を出産する。

赤ちゃんが横につれてこられ、そのまま疲れて眠りについた。


病院へは東をはじめ、母もかけつけてくれ、この子の父親であるあの男も面会にやってきた。


母乳は一日9回2時間おきにあげないといけない。
それだけでも大変なのだが、
柳美里は陥没乳頭だったため、赤ちゃんが上手く乳を吸うことができなかった。
やはり母親なるもの、母乳で育てたいものだ。
何度も試みてみるがどうしても無理でこれ以上は赤ちゃんも無理だ、と判断され
やむなく粉ミルクと哺乳瓶で育てることになる。

哺乳瓶は毎回消毒しないといけない。それにミルクの温度の調整も・・・・
「今は哺乳瓶の消毒は病院がやってくれてるからいいけど退院したらこんなの無理」
弱気になる柳美里。


そして退院して”シングルマザーとがん患者と赤ちゃん”という奇妙な生活がはじまる。


相変わらず具合が悪そうな東だったが、
慣れぬ子育てでへとへとになった柳美里に、僕も手伝うよと言う。
「君が起きてる時は僕が寝るから、交代でこの子の面倒を見よう」

哺乳瓶の消毒にミルクの作り方、オムツの取り替えかたを教える柳美里。

そして初めての沐浴は悪戦苦闘。 二人がかりでなんとか終えた。



東由多加はこの子が「ヒガシサン」と自分のことを呼んでくれるまでは生きたいと言っていた。





9割がた話をまとめるとこういう内容です。
ただし、読んだ内容を思い出して書いたので微妙に違う点があるかもしれません。

タイトルの「命」 ここには2つの命が描かれていますね。
本の中身は終始重い内容です。
こちらの作品、柳美里さんに対しての批判的な意見が多いようです。

確かに既婚者とつきあい、避妊を怠ったために妊娠したことは自己責任だと思います。
しかし作家という締め切りに追われる仕事をしながら、相手の男性は認知しようとせず
喧嘩ばっかりという状況だとイライラしたり精神的に不安定になるのも仕方ないのかな、
という気がします。

彼女の尊敬できるところは仕事に対しての姿勢です。
「仕事に穴を開けるわけにはいかない!」と無理をして睡眠もあまりとらずに原稿を書いたり、
元総理の小泉純一郎さんと対談する仕事があったそうなのですが、
一度は入院するくらいに体調が悪くてやむなく延期になったのですが、
2度目の対談はまた体調がすぐれなかったにもかかわらず、意識が朦朧としながら
対談に望んでいます。 その時話した内容はほとんど覚えてないそうです。



柳美里さんといえば昔深夜ドラマで「雨と夢のあとに」というのを放送していたのをご存知でしょうか?
私、あのドラマが本当に好きでした。 隠れた名作ですね。
なので、柳美里さん=雨と夢のあとに なんです、私の中では。


この作品「命」の中で一番印象的なのが・・・
「この子は日々出来ることが増えていく。 でも東は日々出来ることが減っていくんだ。」 という言葉。


最近、がんで亡くなったというニュースをよく耳にしますが、
命の尊さについて考えさせられる一冊でした。