先日、小説『国宝』を読み終わった後、「玉三郎さんの阿古屋が観たい」と書いたのですが、前日まで八千代座で阿古屋を演じていらっしゃったようです。
『壇浦兜軍記 阿古屋』
平家滅亡後、武将悪七兵衛景清の行方を問い質すため愛人の遊君阿古屋が引き出される。詮議を指揮する重忠は、言葉に嘘があれば音色が乱れるに違いないと考え、琴、三味線、胡弓を弾かせ心の内を推し量ろうとする。
劇中で実際に琴、三味線、胡弓を演奏する阿古屋は、女形の最高峰と言われています。
20年以上「阿古屋を演じられるのは玉三郎ただ一人だけ」と言われていました。
六代目中村歌右衛門さんより教えを受けて、1997年からただ一人阿古屋を勤めてきた玉三郎さんは、2018年に中村梅枝さんと中村児太郎さんが初挑戦することとなった経緯について、
「私がやらせていただくことになったとき、成駒屋さん(六代目歌右衛門)は体調を崩されていて、やっとお話が伺えたという状況だったんです。自分で演じてみせてあげられて、かつ(演技を)見てあげられるときに受け取ってもらいたいと思って、今回上演することを決めました。」
と語られていました。
数年前から若い人に手当たり次第お声かけされていたそうですが、自主的に三曲の稽古を続けていたのがこのお2人だったそうです。
芸の継承を受けるということは、同時にまた次代に継承していく使命も負うことなのですね。
玉三郎さんは、歌右衛門さんから「弾きすぎないでね」と教わったそうです。
「演奏に夢中になってしまうと、阿古屋の心がおろそかになり、演技に気を取られると演奏が乱れます。このふたつを同時に成立し続けられるようになるには時間がかかるのです」
琴では景清はいないということ、
三味線では恋人との美しい恋の姿をうたい、
胡弓では景清の子どもを身ごもっていること
を客席に何気に知らせていかなければならないそうです。
女形屈指の大役と言われている理由がよくわかりました。
そして、客席でそのメッセージを受け取ることができるかどうか、真剣勝負の観劇になりそうですね。