恩田陸著『spring』を読んでいます。
『蜜蜂と遠雷』の後、今度はバレエをテーマとした小説を執筆する予定と聞いて以来、ずっと心待ちにしていました。
これまでバレエ小説は、努力や苦悩や人間関係を書いたものがほとんどでした。
現実社会でも、天才と呼ばれる人達は、その偉業の裏の努力や人格について取り上げられることが多いかと思います。
本作は、そういう風潮とは一線を画しています。
バレエ界を舞台としたミステリーなどでは、作者はバレエを全く知らないのだと興醒めすることがよくあるので、バレエのテクニック面について無理に書き込んでいないのも良いと思います。
クラシック作品についてはあまり書かれていませんが、アルブレヒトの解釈は独特で面白いと感じました。
第1章、第2章と語り手を変えて、HALがいかに浮世離れした天才であるかが語られますが、何となくぼんやりした感じでした。
「Ⅲ 湧き出す」の章で、作曲家である七瀬が音楽の面からHALを語るのを読んで、ようやくHALがどのようなダンサーであるのかイメージが掴めて来ました。
七瀬が、いろいろな文学作品からバレエの創作を妄想するところも面白くて、恩田陸さんの小説家としての自由な想像力を感じました。
この小説の構想・執筆の間、何を見ても聞いても、バレエ作品にしたらどうだろうということが常に頭にあったのかと思いました。
コンテンポラリーを観る時、強く惹きつけられる作品と退屈だと感じる作品があります。
その差についての七瀬の考えも興味深いものでした。
ストーリーが佳境に入って、いよいよ面白くなって来ました。
読み終わるのがもったいないので、ゆっくり読み進めます。