少し前に予約していた本が届きました。

諸田玲子著『麻阿と豪』です。


麻阿と豪は、前田利家の娘です。(小説内では、麻阿の出生を複雑なものにしています。)
麻阿は、豊臣秀吉の側室となり加賀殿と呼ばれます。
豪は、幼少時に豊臣秀吉の養女となっています。

戦国時代を扱った小説や大河ドラマでは、登場頻度がかなり高めな二人で、豪が主人公の小説としては、宮沢りえ主演で映画化もされた富士正晴著『豪姫』があります。


姉妹としての関係をテーマに扱われることの多い「浅井三姉妹」と異なり、麻阿と豪の姉妹としての関係性に着目した作品は珍しいと思います。

麻阿が秀吉の側室になったことは、単なる好色というだけではなく、利家との関係を強化するうえでの政略的要素が大きかったのだと思われます。
豪の養女という立場も、単に子供が欲しいから、親しい友人の娘をもらったというだけでなく、実家との親密性を高める存在として、秀吉の養女であり利家の娘であるという事実が大事だったのだと思います。
婚家が没落した後も、実家の存在というものが大きな力を持って、娘達を支えます。

姉妹でありながら、秀吉という権力者の側室と愛娘という立場の違い。
一緒に過ごしたことがなかったであろう二人に、実際の接点や、ましては情があったかは不明ですが、戦国という時代に翻弄されながら生きる姉妹の物語を通して、この時代の武将の妻や娘の果たす役割の大きさが見えました。
豪の夫である秀家、麻阿の再嫁先での子の生涯にも、前田家が関わり尽力したという史実から、時の権力者といえ政治的配慮を欠かせなかったことを興味深く思いました。

麻阿は、秀吉の晩年、側室を辞して、死後に公家に再嫁するという珍しい経歴をたどっています。なぜ生前に側室を辞することを秀吉が認めたのか、なぜ再嫁先が武家でなく公家であったのか、
そこにフィクションである出生の秘密を絡めている著者の着眼点にオリジナル性を感じました。

戦国の婚姻は、哀れな人質ではなく、嫁ぐ姫達は大使としての誇りを持っていたというのは、永井路子さんの説ですが、そんなことを思い出しながら読みました。