凪良ゆう著『流浪の月』を読みました。


2020年本屋大賞受賞作です。


これまでは、恩田陸さんや辻村深月さん、佐藤多佳子さんなど、受賞作品も既に読んでいることが多かったので、発表された時は、全く知らない作家名に驚きました。
それもそのはず、凪良ゆうさんは、これまでBL作家で、一般小説を発刊したのは本作が初めてだったそうです。

この単行本の表紙が、アイスクリームなのに暗いトーンで、あらすじの重さもあって、今まで手を出せずにいました。
若い頃は何でも読んでいたけど、最近は読後感の重い小説は苦手になりました。

実際に読み始めて、伝わらない気持ちのもどかしさに辛くなりました。
誘拐された(ということになってしまった)幼い少女更紗を思いやる善意の人達には、私は被害者でないという更紗の言葉は届きません。
彼女が成長していく過程において、出会う人達も心の傷をもった存在として更紗に接します。
言葉に出して傷つけることを恐れつつ、そのことを決して忘れない周囲、更紗の本当の気持ちが理解されることはありません。

人の言葉を聞くとき、その人の言葉をそのまま聞くことをせず、自分自身の考え方、感じ方で受け取ってしまってことがあるではないかと思います。

話している時、「伝わらない」と感じる人に出会うことがあります。
「あなたはこういう人」という決めつけや、「私はこう思う」という主張が強すぎて、相手の言葉は素通りしてしまっている人。
悪意の相手なら離れることができるけど、善意の相手には難しい。

そんなことを考えさせられる小説でした。