私が今回読んだ「蜜蜂と遠雷」は、文庫本の電子版なので、単行本にはなかった解説が巻末にありました。

私は、解説や作者によるあとがきを読むのが好きです。
自分が気づかなかったことや、異なる視点を教えてもらえたり、作品ができるまでの裏話を聞けたりすることが面白く感じます。
単行本で読んだ本が文庫化された時に、増補改訂があったり、短編がついたりすることもあるので、同じ小説をまた文庫本で購入したりすることもあります。
装丁は単行本の方が好きですが、文庫本のおまけが捨てがたいです。

さて、このたびの解説(ご本人曰く「思い出」)は、担当編集者の志儀保博さんによるものでした。
単行本に至るまでの道程が、編集者目線で語られていて、すごく面白かったです。

恩田陸さんは、どのくらい準備に時間を費やしたんだろう?
と、小説を読み終わった後感じましたが、その答えは想像以上でした。

2006年から2015年の3年毎に開催される浜コンを4回、1次予選から本選までの2週間、毎日7~8時間客席で聴かれていたそうです( ̄O ̄)

これだけの年数をかけての力作ですから、当然ながら編集諸経費もさぞかしかかったであろうことは想像ができます。
編集会議で示された利益はなんと「マイナス1057万円」だったそうです!

北村薫さんの『走り来るもの』の中の先輩編集者の言葉をふと思い出しました。
「損するのが分かってても、出さなきゃいけない本て多いでしょう。本屋って、たまたま損するわけじゃあないのよ。本屋が稼ぐっていうのは、売れない本のため。ね、社員のためじゃないの。一億入ったら、《ああ、これだけ損が出来る》と思うのが、本屋さんなの」
(追記: ここで語られる本屋は、出版社です。)

結果的に「蜜蜂と遠雷」は直木賞を受賞し、映画化もされ、売れる本になったわけですが、損得勘定抜きで、出版したい本に巡り会えるのは、編集者冥利に尽きるでしょうね。

そうして、編集者の大きな支援を受けて、小説家が情熱を注ぎ込んだ小説を手に出来るのは、読者の幸せです(*^^*)