双極性Ⅱ型障害は、『軽躁』と『うつ』を繰り返す病です。
軽躁はひとつ前の記事で紹介しました。では『うつ』とはどんなものでしょう?
軽躁と同じように、DSM-5の診断基準を、簡単な日本語に変換して(笑)、書いてみましょうか。
A
以下の症状が5つ以上、ここ2週間の状態にあてはまる。それは元気だった時にはなかった症状だ。
- 一日中、うつな気分が続いている。または周囲の人が違いに気づく。
- 何に対しても、やる気が起きず、どうでもいい。
- 体重が5%以上減った。または増えた。食欲不振、または過食。
- 不眠、または過眠。
- 周囲の人も気づくほど、ソワソワしている、または全く動かない。
- 体がだるく、やる気がおきない。
- 生きている価値がない。または生きていて申し訳ないなどと思ってしまう。
- 何も考えられない、何も決められない。
- 死にたい。または実際に自殺しようとする。
(あてはまる5つのうち1つは、1.か2.のいずれかだ。)
B
その症状は、社会生活を送れない程で、治療が必要だ。
C
薬物や、他の病気の影響ではない。
これにすべてあてはまると『うつ』だそうです。
この基準では、うつ病の『うつ』と、双極性障害の『うつ』は同じ症状になっています。そしてそれが問題でもあります。
うつ病と、双極性障害のうつ状態は、すぐには見分けがつきません。しかし、このふたつは別の疾患なので、治療が異なります。
うつ病には抗うつ薬が処方されます。これは気分を持ち上げる効果を持った薬です。
双極性障害には、気分安定薬が処方されます。これは気分の波を抑える効果を持った薬です。
双極性障害に抗うつ薬を投与すると、悪い結果になることが多いです。直ぐに反応を示す人では、ビョーンと気分が持ち上がり、軽躁状態になってしまいます。ここで、もう一度過去に軽躁がなかったかを見つめ直し「あなたは双極性障害ですね」と診断名が変わる方も多くいらっしゃいます。
また、そこまでわかりやすい躁転を起こさず、抗うつ薬を飲み続ける方もいます。そうすると『混合状態』と呼ばれる、躁とうつが同時に存在する病態になったり、『ラピッドサイクラー』と呼ばれる躁とうつが短期間で入れ替わる病態になったりと、抗うつ薬で治療する前よりも、ややこしい病態になってしまうのです。
しかも、混合状態やラピッドサイクラーになってしまうと、元の双極性の波だけの時よりも、 治療が難しくなってしまいます。
私がもっと怖いと思うことは、双極性や、混合状態、ラピッドサイクラーの波が小さく、自分では気づかないことはもちろん、主治医も気づかず、難治性や反復性のうつ病として、または軽度のうつ病や抑うつ神経症として、長年うつ病の治療を受け続ける人が居ることです。
これほど勿体ないことはありません。良くならない治療で、人生の長い時間を苦痛に満ちた状態で過ごすことになってしまうのですから。正しい治療を受けていれば、多少の制限はあれど、社会生活を送れるにもかかわらず、ですよ。
私がこの【双極性Ⅱ型って?】というシリーズを書き始めようと思ったのは、まさにこういった方のためです。
長年うつ病で治療を続けている方に「もしかして、私って双極性障害なのかな?」という気づきのきっかけになれればいいと思っています。
双極性障害と疑っても、双極性障害でない場合もあると思います。それはそれでいいんです。健康診断で、病気ではないかと検査をたくさんしますよね。そして病気がみつかれば、その治療をします。もし何もみつからなければ、安心して生活が出来ます。
双極性障害と疑ってみるのも同じです。双極性障害とわかれば、双極性障害の治療をすればいいし、そうでなければ今までとおりうつ病の治療を続けていけばいい。(いや、全然良くなっていないのなら、更に別の治療を探した方がいいかもしれません…。)
とにかく長引く『うつ』の影には双極性障害、特に軽躁状態がわかりづらい『双極性Ⅱ型障害』が隠れている可能性があります。これからもっと掘り下げて、双極性II型障害について語っていきます。
もし、思い当たる節があれば、是非、主治医に相談してみてください。