「瞳」茨木のり子

ぼくらの仕事は
視ている
ただじっと
視ていることでしょう?

晩年の金子光晴が
ぽつりと言った
まだわかかったわたしの胸に
それはしっくり落ちなかった

視ている
ただ視ているだけ?
なにひとつ動かないで?
ひそかに呟いた

今頃になって沁みてくる
その深い意味が
視ている人は必要だ
ただじっと視ている人

数はすくなくとも
そんな瞳が
あちらこちらで
キラッと光っていなかったら
この世は漆黒の闇

でもなんて難しいのだろう
自分の眼で
ただじっと視ているということでさえ


ガードレールに座りながら-110314_1214~01.jpg