・風邪っ子症候群
恒として勤労に勤しむ健康な青壮年男性が珍しくも風邪等で寝込み、妻若しくは恋人といった親しい間柄の女性からの介抱を受けることなどをきっかけにしあたかも自身の母親に優しく介抱されていた嘗ての年少期に戻ったかの様な強い甘え願望を再燃させ一時的にある種の身体的、精神的幼児退行を引き起こす症例の通称である。
介抱する女性側からすれば一見煩わしい様なものにも思えるが、これは普段は母性愛なぞといった言葉からは程遠いという性質の女性においても又、事例の彼女の深層に眠れる母性を覚醒(※一時的なものではあるが)させるきっかけとなり得ることも少なくはない。
尚、風邪の症状が緩和されていくにつれて男性側の幼児退行、女性側の母性は為りを潜めてゆき、完治によって男性はこれといってそれを特に(個人差はあれど)引き摺ることもなく再びネックタイをきゅっと締め、女性の方もまた男性の母親といった立場から平常のパートナーとしての立場へと戻り、双方何事も無かったように普段通りの日常に戻っていくといった所も面白い点の一つではあるのだが、この疾患の最も面白く興味深い点は、男性側、女性側双方においてこれら一連の成り行きがあたかも至極当前の様且つ微塵の不自然さを見出すこと無く遂行されている、という点に他ならない。詰まる所、男女双方共々互いのその不可解且つ奇怪ともいえる変化に一切気付ぬが如く平然としてそれをやってのけているのだ。これはまさに人類学の神秘とでも言い得るべきものではなかろうか。
※注:上記は勝手に作った実在しない架空の疾患です(たぶん)。