食道閉鎖のこと ①    の続きです。



山内法で胃にものが落ちるようになるまでの間で一番問題だったのは、唾液の処理でした。


食事や薬は胃ろうから直接胃に注入できます。
でも唾液や鼻水、痰などは、口から出せないと閉鎖した食道内に溜まるか誤嚥して気管から肺に入るかしか逃げ場がありません。

食道内に溜まるといっても、体の小さい赤ちゃんは溜めておける容量がとても少なくすぐに溢れて肺に入ってしまいます。
大人のように自分の意思でそれらを鼻や口から出す力がまだ備わっていないのです。



肺や気管も強くない娘にとって、
肺にそれらが入ってしまうことは重症な肺炎を起こしたり呼吸不全の原因となる可能性が高いです。
唾液等が溢れている状態というのは常に溺れかけているのと同じ状態になります。
自分の唾液に溺れてしまうのです。


娘の閉鎖された食道は、より多く唾液を溜めておけるよう袋のように膨らんでいます。
手術などで人工的になったのではなく、自然とそうなっていきました。
そして膨らんだ食道が隣接する気管を圧迫して気管の成長を妨げ、気管軟化のある娘の更なる障害となって自力呼吸に悪影響を及ぼしています。


持続的に唾液等を吸引するため、
鼻からは食道内の唾液を吸引するチューブが、口からは口腔内の唾液を吸引するチューブが常に入っていました。


鼻には呼吸器もあったため、ほっぺと口元と鼻下には常にチューブを留めるテープが大きく貼ってあり、
何も付いていない素の娘の顔を見たのは生後2日間だけ。


沐浴時も外せないため綺麗に顔を洗ってあげられず、お肌がいつも荒れて痒そうに擦っていました。
口のチューブは2回目の手術後なくなりましたが、まるで常にストローを吸っているかのようで、娘はいつも舌で遊んでいました。



娘が活発に動くようになってからは、抜管防止のため私がそばに居る時やリハビリ時以外は、
常にガーゼを丸めたものを握らせた上から手袋をはめていました。
それでも何度かその状態の手で器用にチューブを抜いては、看護師さん達を慌てさせていました。


知覚的に成長を促すべき時に手袋をはめて過ごすことは発達面へ悪影響なのではないか…
そう考え毎日ほぼ一日中娘のそばに居てできるだけ手を自由にしていました。
その間に抜管してしまうと24時間手袋になるかもしれないと思い、全力で死守しました(^^;


持続吸引していても、チューブのちょっとした位置のずれや痰で詰まってしまうことがよくありました。
喉がブクブク胸がゴロゴロ鳴り出すと娘も苦しさから機嫌が悪くなり、鼻や口に更にもう1本チューブを差し込んで強めの吸引が必要になります。


誤嚥が起こることで痰の発生も多く、酷い時は30分に1回以上の頻度。


この吸引は喉の奥まで挿し込むので痛くてとても不快であり、当然いつも娘は泣いて嫌がります。
できるだけ早くスムーズに済むように暴れる娘を抑えて、終わったら「ごめんね、頑張ったね」と言いながら抱きしめていました。


生後5か月後半ぐらいから知恵がついてきて、
口にチューブを持ってくるとぎゅっと固く閉じて開けず、一瞬の隙に口に挿し込めても舌で器用に押し出すようになりました。
吸引は毎回看護師さんとの攻防戦で、とても時間と労力がかかるようになりました(^^;
さらには、溜まった痰を自分で吐き出して吸引を避けられるようにもなり、理由は辛いけれども我が娘ながらとても感心しました。



山内法の術後、娘は持続吸引を外しています。
単発の吸引も頻度は激減し、全くしない日の方が多いです。
ただ、狭窄がある程度激しくなってくるとやはり唾液が溜まりやすくやるようで、
自分の唾液でむせるようになりました。
ふとした時に咳込み、胸が少しゴロゴロ鳴ります。
これは嚥下の能力があまり成長していないことにも原因があると思います。
基本的には、ゴロゴロがなくなるまで自分で何度か咳をして数分で治ることが多いのですが、苦しそうな顔がとても見ていて辛いです。



また、吸引の経験から、
人に口周りを触られたり口に浅くても物を入れられると、反射的にえずくようになってしまいました。

いわゆる嘔吐反射です。

毎回ではなく入れるモノによる部分も少しあるのですが、舌の上に自分の意思以外で何かが乗ると駄目なようです。



むせることと、えずくこと。
この2つが今、取り組み始めた経口摂取の練習でとても大きな壁となっています。




食道閉鎖は命に関わりますが、それだけならば大多数の方は乳児期に手術で治ります。
術後の回復や手術の後遺症なども心配は少ない部類だと思います。

ただ、娘のように合併症があることは珍しくなく、その上根治に時間がかかると様々な部分に悪影響が出てくることを実感しています。