メールを待つ女。
そんな悲しくてくだらない生き物にだけは絶対になりたくないと思っていた。

マネージャーからもう一週間以上連絡がない。
メールが来る度にもしかしたら!て思う自分に嫌悪感を覚える。

そんなモヤモヤで悲しくて落ち込んで…
て、ちょっと待て。これじゃまるで恋する乙女ではないか(笑)

『恋はしないよ。遊ぶつもりだし、次の彼氏ができるまで女上げてもらうだけ。』
と女友達に宣言したのに…もしかしたら自分に言い聞かせていたのかも。

一人で悶々としてたら、あっけなくメールがきた。

『ごめん、泊まるくらい忙しくて、その後熱でて寝込んでた。』

うそつけっ!

てか本当でも嘘でもそんなんどっちでもいいのだ。
連絡をしようとも思わなかった、という事実は変わらないのだ。

私の送った返信から怒りを読みとったのか、

『今度うまいもんごちそうするから機嫌直してよ』

まるでダメ男そのままなセリフだ。

ご飯なんてもんで釣ろうなんて、私は犬じゃない。

もうやめようと思った。でも悔しいから、その前に何か引き出したかった。

『それより病気だったならマネージャーはおとなしくしてた方がいいと思います』

これが私の精一杯の意地悪だ。
元がいい人だから、小悪魔になりきれない自分にがっかりする。

つづく

前の現場で一緒だった同じ会社のマネージャはかっこいい人だった


このCM のオダギリジョーの風貌にかなり近いかも。


細身のスーツが似合う、背の高い32歳の先輩。

配属中の5月GWに、私の目の前で結婚しちゃった。


その現場はたった1週間のスポット配属で、

マネージャとゆっくり飲みに行く暇もなく、リリースになった。


最後の日、エレベーターまで送ってくれたっけ。

「おちついたら、おいしいものおごってあげるね」だって。

これでもう会うこともないんだろな、


バイバイ、イケメンマネージャ。






・・・・・って思ってたのね。


8月、

マネージャからメルアド変更の事務的なメールがきた。


「おいしいものの件、まだ生きてますか?」


数週間後、私はマネージャと食事をした。

仕事で話した印象とはちがって、かなりくだけた会話をした。


食事をした後、

熱帯魚の泳ぐおしゃれなバーでカクテルを飲んだ。

マネージャは酔っていた。

話の話題も夜の内容になり、ただの上司ならまちがいなくセクハラになることも話した。

訴えないのは、私がマネージャに憧れていたから。


(ワタシ、アナタノコトガスキダッタノニ。ワカッテル?)



バーをでたとき、なるべく意識を保とうとしていた私も

さすがに酔っていて、無理してはいてきた7センチのヒールが

ふらふらしていた。


「手、つなぐか。」


マネージャの手はやわらかくてとても熱かった。

そのぬくもりが色あせていた5月の気持を蘇らせて、

まさか、あのかっこいいマネージャと私が今手をつないで歩いているなんて!!!

信じられない。


カラオケ。

実のところカラオケなんてどうでもいい。

これは終電がなくなるための口実だ。

それはマネージャも私も暗黙の了解で分かっていること。

でも口にはしない。

それが大人のルールだから。


それなりにちゃんと歌をうたいながら、

合間にしらじらしい会話をした。

お互い考えていることは同じだろうけど、

すぐにばらしたら面白くない。

だから言葉遊びをするのだ。


「32といってもね、男は単純なんだら、そんなことを言ったら勘違いするよ?」



「勘違い・・・・させてほしんですか?」



「・・・あのさ、いっこだけお願いしてもいいかな?」


「内容によりますけ・・・


たばこのにおいのする薄めの唇が触れた。


あっ、このタイミングなのね。


初めてのキスに勝るものはない。なんでこんなドキドキすんだろう。

なんでこんなせつないんだろう。

なんでこんな幸せになるんだろう。


キスをした瞬間に、我慢していた気持ちが全部伝わってきてしまうから

その瞬間から何かが始まっちゃうのだ









配属先のリーダーが人事異動になり、

先日送迎会が開かれた。


私はそのリーダーの面談で採用してもらったので、

御礼のご挨拶に行くと、


「今ありーさんがやってくれていることは、

社内の人間が気づかない部分だから

とても助かっていますよ。

これからもどうかよろしくお願いしますね。」


と・・・。



えっと・・・・泣いていいですかね?



正直最近あまりぱっとした成果が出せていなくて、

なんで私ここで働いてるんだろう・・・なんて思っていた。

自信がなかったし、自分も嫌いだったのに。



ちゃんと見てくれてたんだ。わたしのこと。


うれしかった。リーダーもがんばってね。

気が付いたら、欲しいもの全部手に入れてた。


大学生の私が描いていた将来の私は、


7cmのヒールを履き、スマートなスーツを着て


ピカピカの高層ビルで毎日英語を使いながら働いている。


毎日ロンドンとのTV会議。


洗練された知的な人たちとの会話や食事。


気が付いたら、今の生活はそうなってた。


あれ、こんなあっけないものだったのか。


すごく幸せなはず。


私は成功したはずだよね。


達成感がない・・・なぜだ!?



昨日と今日私は仕事をさぼった。


朝起きたらからっぽだったから。


本当に。からっぽ。何もなかった。


夢、希望、憧れ、欲求、何もなかった。


苦しみ、悲しみ、孤独、それさえもない。


無。


27歳を目前にして、一旦人生が完了したかんじ。


残りの60年間、どうやって生きていこう。


なんとなく働いて、お金稼いで、家賃払って、食費にあてて


その毎日のくりかえしが60年間つづく?


げげっ


想像しただけでも恐ろしい。


そんなんいっそ死んだ方がマシだ。



友達からある本をすすめられた。


ヨグマタのヒマラヤ聖者のいまを生きる知恵、という本。



マスターにしたがって修業をすることで、


本当の自分になり、人生が自由になるらしい。


修業するか!?ヒマラヤいくか!?



しかし今の私は人生をたのしく自由にいきたいという気さえない。


まるで魂の抜けた人形のようだ。


もしそれに理由があるなら、それを見つけることから