おそらくは彼らが一番僕の顔の輪郭を知っている。骨格を知っている。肌の質感を。髪の硬さを。生え際の隠せない産毛を。無意識に繰り返す癖を。僕を構成す
るあらゆる要素を。それだけ知っていれば挨拶以外にもっと気の利いた言葉があっても良さそうなものだが、そつのない時間が過ぎてそつのない結果が与えられ
てそつのない彼らに見送られて振り返ってみれば最低限の言葉しか発してないなんて当たり前で、ちくりとも痛みを感じない僕がいても心が麻痺したように何も
感じなかった。伸び過ぎてぼさぼさになった髪の毛を切り揃えてこれからの太陽に焼かれて余分な皮脂と汗で汚れがちになる季節に備えるくらいに金を掛けたく
ない心理があったのは事実で、安価でも満足できる程度のこだわりしか最初から持ちあわせてはいないのだし、お客が特に望まないものを押し付けられることが
ないのはある意味、気楽だ。指示されるまま椅子に括られて進行に任せてこちらは悠然としていればよくて、難しい要求をするのもエネルギーがいるんだから、
ひたすら黙ってされるがままの人形に徹してあげる。剃刀を寝かせすぎて肌を削いでしまうとか片方だけ眉が短くなったなんて期待してもまず無理で、それどこ
ろかちょっとした世間話すら飲み込んでしまう断絶の前には黙りこくるしかなくて、確かに彼らは僕の髪に触れて顔の輪郭に刃を押し当てるけど店を出てしまえ
ば誰がどう僕を料理したかなんて覚えていなかったり。希薄だ。彼らの知りうる僕という人形の表向きだけが歓迎されてベルトコンベアに乗せられてひと通り
巡って帰ってくれば終わりで、本当の僕なんか椅子に括りつけたまま忘れ去られている。いや、車さえも降りていない。そこにあるのにそこにいないという、狐
につままれたような感覚のうちに頭だけが仕上がって、安いだけの満足にも文句なんかない。見ればやっぱりの繁盛ぶりで、一見違和感のあるその空気は隣の客
もそのまた隣も皆同じ、絡まない、潜らない、交わらない、放置されて動かない人形が幾つも並べられた店内にくすりの笑いもなく、人の密集する鼻息だけが耳
の奥にざらついておかしな感覚。でも哀しいかなそういう希薄な空気に慣れた自分がいて酸素マスクをして財布片手に地上で生きていても何も感じないし、何も
不思議に思わない。すっかりベルトコンベア式の居心地の悪さが心と身体に馴染んできたようだ。