※ スラッガー『2024 MLB選手名鑑』より抜粋。


アメリカン・リーグ


【東部地区】

▽メジャー最激戦区の優勝争いは今季も混沌

 昨季は実に4チームが勝ち越し、3チームがプレーオフに進出した超激戦区。101勝で覇者となったオリオールズはピタゴラス勝率より7勝も多く、やや出来過ぎの面もあった。だが、真のエースとしてコービン・バーンズを獲得し、新スター候補のジャクソン・ホリデイもデビュー間近。ホリデイ以外にも伸び盛りの若手が目白押しで、昨季以上の成果を収めても不思議ではない。
 レイズも引き続き優勝候補。今季もシェーン・マクラナハン、ワンダー・フランコら中心選手を欠いてのスタートになるが、育成力と選手層の厚さは他の追随を許さない。対照的にブルージェイズは、ケビン・ゴーズマンやブラディミール・ゲレーロJr.、ボー・ビシェットら球界有数の好選手がいるにもかかわらず、チームとしての成功になかなか結びついていない。ただ、すべてが上手く噛み合えば、一気に頂点を極めてもおかしくない力を秘めている。
 ヤンキースはフアン・ソトを獲得し、アーロン・ジャッジとの超強力スラッガーコンビが誕生。ここもブルージェイズと同じく、個々の選手が実力を発揮できれば激戦区を勝ち抜くことも決して不可能ではない。唯一、蚊帳の外になってしまいそうなのがレッドソックス。課題の投手陣の整備が進んでおらず、昨季41被弾のルーカス・ジオリトがエース格と目されているようでは上位進出は難しいだろう。


【中部地区】

▽昨季106敗で最下位のロイヤルズが台風の目?

 東地区とは打って変わって、この地区はどうも活気が乏しい。昨年の地区覇者ツインズからして総年俸削減のためFAとなった選手たちを引き留められず、戦力ダウンを余儀なくされた。王座を守るには、カルロス・コレアやバイロン・バクストンら「やってもらわなければ困る」選手が昨季の不振や故障から復活してもらうしかない。
 懐が苦しいのはガーディアンズも同様だが、こちらは投手の駒が揃っている点は救い。ただし慢性的パワー不足の打線にはこれといったてこ入れがなされず、アンドレス・ヒメネスやネイラー兄弟のより一層のレベルアップに懸けることになる。タイガースも、投手力はまずまずで打線が弱い点はガーディアンズに似ているが、ここも団子状態から抜け出せるような決め手に欠ける。
 注目したいのはロイヤルズで、106敗を喫した昨季の汚名返上とばかり、セス・ルーゴやマイケル・ワカなど実績のあるベテランを大量に獲得した。少なくともやる気という点では地区で一番。新加入選手がしっかり働いた上でボビー・ウィットJr.に次いで覚醒する選手が出現すれば、他球団をごぼう抜きにする可能性だってなくはない。
 再建期に突入したホワイトソックスは、今季の勝敗や順位より、一番の“商品”であるディラン・シースをいつ、どこへ、どれだけの交換条件で売り渡すかが最大の関心事だ。


【西部地区】

▽前年に続いて今季も三つ巴の争いか

 2022年のアストロズ、昨季のレンジャーズと、2年続けてこの地区からワールドチャンピオンが出ている。今季も、ペナントレースはこの両球団をマリナーズが追いかける形で争われるだろう。
 レンジャーズはコリー・シーガー、マーカス・セミエンを擁してリーグ最多の得点力を誇る打線は健在。だが、投手陣ではジョーダン・モンゴメリーがFAとなり、マックス・シャーザーも故障で出遅れとあって、連覇への道は平坦ではない。アストロズも同じくジャスティン・バーランダーが出遅れるが、フランバー・バルデスをはじめ投手の駒はレンジャーズより揃っている。投打のバランスも取れていて、現時点では地区優勝候補筆頭ではないか。
 防御率リーグトップの強力投手陣を誇るマリナーズは、総年俸削減のため野手陣を大幅に入れ替え。ホーヘイ・ポランコ、ミッチ・ガーバーら新加入が得点力向上に貢献できるかどうかがシーズンの成否を左右するだろう。
 大谷翔平を失ったエンジェルスは、端から勝負を捨てているアスレティックスのおかげで最下位は免れても、上位進出の目は極めて薄い。ロバート・スティーブンソンらを獲得してブルペンを強化したが、上位3球団とはまた戦力差が大きいのが現状だ。アスレティックスも、若手が出てきているのは救いで、彼らの成長を見守りたい。



ナショナル・リーグ


【東部地区】

▽史上屈指の強力打線を誇るブレーブスが大本命

 昨季、メジャー最多の104勝を挙げたブレーブスが引き続き大本命。史上最多タイの307本塁打を放った超強力打線は主要メンバーに変動がなかっただけでなく、マリナーズから未完の大器ジャレッド・ケルニックが加わって、さらに破壊力を増す可能性すらある。スペンサー・ストライダーを筆頭に投手陣もまずまずで、大きく戦力を落とす要素が見当たらない。
 そのブレーブスを2年続けてプレーオフで下したフィリーズは、ベテランのウィット・メリフィールドが加入した程度で戦力的には横ばい。ただ、ザック・ウィーラーと並ぶエース格のアーロン・ノラが残留したのは大きく、ブライス・ハーパーら正真正銘のスターが居並ぶ打線も健在だ。
 残りの3チームは苦戦が予想される。昨季はプレーオフへ進んだマーリンズは、有望な若手投手が揃っているものの、大黒柱のサンディ・アルカンタラはトミー・ジョン手術で全休。打線もパワー不足が否めない。過去数年は“爆買い”で注目を集めたメッツも、フロント刷新に伴い今季は小停止のシーズンになりそう。主砲ピート・アロンゾを途中放出する可能性も捨てきれない。再建途上にあるナショナルズは、引き続き若手に成長を促すのが主眼のシーズンになる。ジェームズ・ウッドや昨年のドラフト全体2位で入団したディラン・クルーズらの台頭に期待したい。


【中部地区】

▽大本命不在の混戦を抜け出すのはどのチームか

 明白な優勝候補が不在で、どんぐりの背比べ感も否めない半面、どこが勝つか予想がつかないという点では興味深い地区でもある。昨年の覇者ブルワーズは元サイ・ヤング賞投手のコービン・バーンズをトレードで放出。戦力ダウンは否めないが、超新星ジャクソン・チョーリオをはじめとする若手選手たちの台頭に期待できる。やり繰り上手のチームでもあり、過小評価は禁物だ。
 勢いでブルワーズに勝るのは、昨季も最終盤までプレーオフ争いを演じていたカブスとレッズか。ブルワーズから名将クレイグ・カウンセルを引き抜いたカブスは先発陣に今永昇太を加え、主砲コディ・ベリンジャーとも再契約に成功。資金力も地区内では随一で、地区優勝候補筆頭に挙げる声もある。エリー・デラクルーズを筆頭に若手野手の台頭著しいレッズは、投手陣強化のためフランキー・モンタス、ニック・マルティネスらを獲得。投打の歯車がうまく噛み合えば2012年以来の地区優勝も夢ではない。
 パイレーツも派手ではないが投打とも補強は進んでいる。昨年のドラフト全体1位指名で入団したポール・スキーンズの活躍次第では、一気に浮上するかもしれない。カーディナルスもソニー・グレイ、カイル・ギブソン、ランス・リンを加えてウィークポイントの先発投手陣を模様替え。屈辱の最下位から一転してV奪回しても不思議はない。


【西部地区】

▽大谷、山本が加入したドジャースの優位は揺るがず

 大谷翔平と山本由伸も含めた“12億補強”を敢行し、空前の盛り上がりを見せているドジャースの本命は動かしがたい。ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマン、大谷とMVP経験者が続く1~3番は間違いなくメジャー最強。投手陣は必ずしも万全とは言えないが、それでも普通に戦えば地区優勝は彼らのものだ。
 レギュラーシーズンで得失点差マイナスながらワールドシリーズに進んだダイヤモンドバックスは、足りない部分をしっかり埋めた。パワー不足の打線にはエウヘニオ・スアレスとジョク・ピーダーソンを、左腕不在の先発陣にもエデュアルド・ロドリゲスを補強。ドジャースを上回るのは難しくとも、ワイルドカードは十分狙えるだろう。
 ジャイアンツは大谷、山本と狙っていた大物をまたも次々に逃す失意のオフシーズンを送った。韓国のスーパースター、イ・ジョンフが期待通りに活躍してもなお、プレーオフ争いに加われるかどうか微妙なところだ。パドレスはフアン・ソト、ブレイク・スネルとジョシュ・ヘイダーがトレードやFAで流出。まだスター選手は複数残っているが、選手層はめっきり薄くなってしまった。
 昨季は地区4位からも20ゲーム差をつけられたロッキーズはこれといった補強もなく、よほどのことがないかぎり最下位からは抜け出せないだろう。


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また、アリゾナ・ダイヤモンドバックスについては以下のような戦力分析となっている。


▽意外な躍進でリーグ制覇 オフに投打に積極補強展開

 下馬評ではほぼ無印だった昨季だが、ルーキーでは史上初の25本塁打&50盗塁を記録した新星キャロルの大活躍に後押しされ、ワイルドカードでプレーオフに進出すると、格上のチームを次々に破って22年ぶりのリーグ優勝を果たした。
 とはいっても、レギュラーシーズンの得失点差は-15。本来なら負け越していてもおかしくなかった。ワールドシリーズ終了直後、「我々にはやらなければいけないことがたくさんある」と語っていたヘイゼンGMはその言葉通り、オフに精力的な補強を展開。打線にはスアレス、ピーダーソンと2門の大砲を獲得し、グリエルJr.の引き留めにも成功した。メジャー定着間近の超有望株ローラーも含めて、野手陣の層は間違いなく厚くなっており、リーグ7位の得点力はさらに向上する可能性も十分ある。サイ・ヤング賞投票3位のギャレンを擁する先発陣にも、FAでロドリゲスを補強。ポストシーズンで快投を演じたファートのさらなる成長も楽しみだ。ビッグネームは不在でも、多様なタイプを取り揃えたブルペンもまずまずの布陣で、投手陣全体も昨季からの底上げが期待できる。DRSリーグ3位のディフェンス陣も、投手を盛り立てることだろう。
 悪く言えば「明確な強みがない」という表現もできるかもしれないが、投打のバランスはなかなか。ドジャースの牙城を崩すのは容易ではないが、ワイルドカード争いには必ず絡んでくるだろう。




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