①仕事内容について

舞台音響は、コンサートや演劇といった舞台芸術や、講演会などを陰から支える音全般の専門職の一つです。その仕事内容は、大まかにいえば音のバランス(音量等)を調節することによってより良い音を聞いてるお客さんに届けることです。

 

音響業界では一般的にPA(パブリックアドレス=公衆に大音量で演説を伝える)とも呼ばれ、音響拡声装置のオペレーターとして非常に重要な役割を担っています。また近年では音響機器の質の向上に伴ってSR(サウンド リインフォースメント=音を増強・補強する)とも呼ばれています。舞台音響はミュージシャンや舞台役者を影から支える仕事であり、現場の音の総指揮官と言っても過言ではないでしょう。

 

音響と一言で言ってもその方面に詳しい人でなければなかなか想像しづらいかもしれません。ミュージシャンのコンサートやライブハウスに行ったことがある人ならば開演前のリハーサル(本番前の最終チェック)などでマイクチェックしている姿を見たことがある人も多いのではないでしょうか。そのマイクチェックを行なっている人が一般的に音響関係で働いている人です。

 

音響の現場はコンサートやライブ会場、舞台だけにとどまらず、必要であれば結婚式や宴会場、野外まで幅広い場所で活躍します。またテレビや映画製作、インターネット配信、ミュージシャンの楽曲製作などの編集作業では必ず音のチェックや調整が必要になるため、そういった現場で活躍する人もいたりと、音響職の中にも様々な種類があります。

 

その中でも今回は舞台音響についての仕事内容を見ていきます。舞台音響はコンサートや演劇に携わる仕事なので、一般的なサラリーマンのように「定時で仕事が終わる」というわけではありません。一つのイベント・公演に対してまずは事前の打ち合わせをして、当日の現場ではスピーカーなど音響機材の設置に始まり、リハーサルを経てから本番を行い、終了後には機材撤収と丸一日拘束されることもあります。さらに1日では終わらないイベント・公演もあるので数日間は拘束されてしまうことも多々あります。しかし舞台音響はその仕事の性質上、仕事の出来不出来によって成果が大きく関わってくる仕事ですので、とてもやりがいを感じやすく、一つの作品を作り上げる達成感はとても感慨深いものがあり、非常にやりがいのある職業です。

 

②「舞台音響」の歴史

電気など無かった時代の演し物は、声による役者の台詞、あるいは音楽家の歌や演奏がマイクを使わずに生で演じられ演奏されてきました。日本では歌舞伎や能楽・狂言、西洋ではクラシックコンサートやオペラなどが代表的です。また演劇などの効果音も生で出され、小道具係などが担当していたようです。

 

20世紀に入り、マイクやアンプ・スピーカーなど電気音響の基礎が作られ発達するにつれて、劇場にも放送設備として持ち込まれるようになりました。「音という空気の振動をマイクと呼ばれる音響機器を通して電気信号に変換し、何らかの信号処理をして増幅した後、スピーカーと呼ばれる音響機器を通して再び空気の振動に変える。」というのが電気音響の基礎です。ちなみに電気音響の基礎はエジソンやベルの発明に基づいています。音を増幅するアンプと言われる機材は1906年の3極真空管と言われる電子増幅器の発明によって作られました。

 

その後、生の音より大きな音を多くの大衆に届けること(PA)が可能になった電気音響機材は1920年代から軍事目的の演説会で使用されることから始まります。世界で初めてPAを使用したのは1928年のナチスのヒトラーによる演説であると言われています。音楽演奏会などにおいても歌や楽器にマイクが使用されるようになりました。またラジオ放送やレコードなどの収音技術の発達によってマイクやアンプの技術が向上し、映像と音声が同期したトーキーと言われる発声映画の始まりによって劇場のスピーカーも飛躍的に音質が向上しました。代表的な発声映画初作品はディズニーのミッキーマウスのデビュー作として知られる「蒸気船ウィリー」などです。また演劇の効果音にも電気音響機器が使われるようになったり、音の再生機器もレコードプレーヤーからテープレコーダーに代わりさらに音響の仕事は進化して行きます。

 

それからエレキギターなどの電気楽器が普及しだすと、劇場内の音の大きさが増大するにつれて急速にシステムの質が向上して行きました。1960年代になるとビートルズに代表されるポピュラー音楽の大規模なコンサートが始まり、多チャンネルで多機能な音響コントロール機材(ミキシングコンソール)が使用されるようになります。現在ではミュージカルのような電気音響システムをフルに使う演し物が増え、また観客の音の良さへの要求も高まってきて、良質で多彩な音響演出に対応できるシステムの構築が舞台音響を考える上での基本となっています。

 

 1980年代になるとデジタル技術を用いた電気音響機器が普及して行きます。身近なデジタル音響機器ではCDプレーヤーやスマホを使ったデジタルオーディオプレーヤー(ipod)などがわかりやすいでしょう。そして現在音響に関わるほとんどのところがデジタル化に向かっています。デジタル化することで音質の改善はもとより、配線時の伝送トラブルの軽減、記録メディアの質の向上だけでなく、複雑な操作をシンプルにしたり、「記録」を駆使して操作を的確に行うと言ったことも可能になってきてました。今後もデジタル化による電気音響機器の急速な進化に伴って、舞台音響の仕事の利便性や効率化も急速に変化し進んでいくことが予想されます。

 

 

③「舞台音響」実際の流れや仕組み

先ほども少し触れましたが、我々の扱う電気音響機器とは「音という空気の振動をマイクと呼ばれる音響機器を通して電気信号に変換し、何らかの信号処理をして増幅した後、スピーカーと呼ばれる音響機器を通して再び空気の振動に変える。」というのが基礎です。その大まかな流れを二つの図に表しています。

 

まず最初の下の図はPAの仕組みの最小構成です。簡単に説明すると、

 

人間の声(空気の振動)をマイクで拾って電気信号に変換する

アンプを通り電気信号を増幅する

スピーカーを通してアンプにより増幅された電気信号を空気の振動に再変換する

お客さんに声が届く

このようにPAの最小構成は「マイク・アンプ・スピーカー」となります。これが基本です。

 

 

では次に複数の音をそれぞれ調整する場合を下の図で見て見ましょう。

この場合ミキサー(ミキシングコンソール)と呼ばれる音響機器を使用します。これを調整することで「複数の音をまとめてアンプに送る」ことができるようになります。このミキサーを使い調整する事で、例えば声の大きい人と小さい人もある程度同じ音量でお客さんに届けることが可能になります。

 

これらの基本を踏まえた上で次回は仕込みの手順とサウンドチューニング〜サウンドチェックまでの流れを見て行きます。