rebirth01




今日、私は30歳になった。


一緒に祝う友人も恋人もいない夜、ひとり海まで車を走らせた。

一緒に祝う友人も恋人も・・・


少なくとも、今から約40時間前は・・・いた。

大好きなヒトだった。

とても澄んだ瞳を持ったヒトだった。

彼以上に私という人間を理解し、また受け入れてくれたヒトは

今までいなかった。

もしかしたら・・・実の親よりも私に近いヒトだった。



「もう、会えないわ・・・」


私から切り出した別れだった。




「・・・仕方、ないわね。」


自嘲交じりのため息をつくと、アクセルを踏む右足に力を込めた。

左手でギアを4速から5速に入れた。


「・・・今夜、帰らなくちゃいけないんですもの・・・」


ギアを5速からトップへ。

開け放した窓から強い風が髪を後ろへ流し、すぐに前に吹き返した。

乱れた髪も、今夜は気にならなかった。


しばらくすると、右手に松林が見えてきた。

信号が黄色に変わる瞬間、ハンドルを軽く切った青い車のテールランプが

美しい赤い弧を描いた。


誰もいなかった。

いつもは2、3台ほど停まっている車たちが、今日は1台もいなかった。


風が強い夜だった。



ぼんやりと、月の出ていない夜の曇り空を眺めた。


「せめて月夜ならよかったのに・・・」



だけど私は知っていた。


なぜ今夜はこんなに風が強いのか。

なぜ今夜は月が出ていないのか。



靴を脱いだ。

裸足で砂を蹴って走った。

蹴って、蹴って、蹴って、蹴って・・・砂の波打ち際をどこまでも走った。


冷たい波が足に触れた。


涙が頬を伝った。



服を脱ぎ、私は海に入っていった。



足がくすぐったい。

震える手でそっ・・・と撫でた。



そこにはもう・・・二本の細い人間の足は無かった。



パシッ。



私は堅く平たい”ひとつの足”で勢いよく波を蹴り、腰をくねらせ、深い青の世界へ

溶けていった。



その先で、見覚えのある、澄んだ瞳の白いイルカが私を待っていることも知らずに。






by aki