ワタシの肌は冷たい。
高性能の樹脂~バイオ・プラスティック~でできているから。


体温のある人のカラダにはじめて触れた時のことが忘れられない。
とても不思議な感覚だった。
彼の皮膚がひっついてまとわりついて付着して
自分の一部になるような・・・快感。
その感覚は、麻薬のように自分を虜にした。

ワタシたちアンドロイドは・・・セックスなどで生身の人間のカラダに
接触することにより、一時的に人の体温を奪い、貯蓄し、相手を
満足させることができる・・・冷たい人形。
人と人では満足できなくなった、悲しい人間の産物。


ただ、人形といえども・・・倫理的な問題もあってか、昔のプラスティック
玩具のような「使い捨て」をすることにはとても厳しい。
よって”人間の手によって捨てる”という重罪にかわって、ふたつの方法
が生み出された。
どちらも”人間に生まれ変われる”という方法なのだが・・・

一つの方法とは、一人の人間と10年以上、セックスをすること。
その間に相手の体温を奪い、貯蓄し、それが温存しているうちに
更にまたセックスを行う・・・ただDNAの違う人間だとリセット
されてしまう。

そしてもう一つの方法。
これは誰も知らない。
しかし確かに存在するらしかった。


「絶望的だわ・・・。」
生身の人間が、冷たい義体の自分と10年もセックスを続ける。
アンドロイド仲間でも、そんな稀な幸運の持ち主はいなかった。
みないつの間にかいなくなって、二度と会えなかった。


ワタシは彼を待っていた。
ワタシに触れ、ワタシの冷え切ったバッテリーに、彼のぬくもりを
吹き込んでもらうのを・・・もう数日待っていた。

月が綺麗な夜に、突然彼は帰ってきた。
彼はいきなりワタシをつかんでベランダにある倉庫に押し込もうとした。
ドアのそばで何かが動く気配がした。
女だった。


その後のことは、よく覚えていない。
気がついたら足元に生暖かく、赤い液体が流れていた。
そして自分の手にも。

「暖かい・・・体温・・・。」

目の前の彼がくず折れた。
女の悲鳴が聞こえた。


ワタシは月明かりの下を、自分でも信じられないほどのスピードで
走りながら、自分の中にどくどくと鼓動や温度が湧き出すのを感じた。


その日からワタシは人間になった。





by aki