「私の一部を送るからね」

彼女はそう言っていた。

数日後、長い長い手紙と共に、僕の元に届けられたのは
手のひらサイズの四角い小瓶。

ふたを外すと、甘さの無いさっぱりとした
さわやかな香りが広がる。香水だ・・・

フレグランスは、つけた人の体臭と混じって
その人のオリジナルの香りになるの
だからこれは私の一部


なるほど、ね。
3分の1ほど使ってから送ってきたのは
彼女の一部であることを示すためか・・・

彼女の指示にしたがって、ほんの微量を
手首に降りかける。

「これでいいのかな・・・」

コートを羽織って、街に出た。
貫くように鋭い1月の空気を胸いっぱいに吸い込む
僕は寒い季節が大好きだ

僕はいつもの公園に行き
いつものベンチに腰を下ろした

手首を体に引き寄せると
香りが体温に溶けてトロトロと流れ出す
さっきは感じなかった心地よい甘さがある
なるほど、人の体の上で香りが完成するんだね。

こうして彼女の一部は僕のものになった

僕は満足して、たばこを一本くわえて火をつけた
煙を肺いっぱいに吸いこみ
細くゆっくりと吐き出す。

3分の1だけ吸って残りは携帯灰皿に押し込んだ。

マルボロライトのメンソール
高校生のときから慣れ親しんだ香りだ。
ニコチン依存のない僕にとっては、
この香りでなければ煙草を吸う意味などない。

「でも・・・吸がら送りつけたら怒るだろうなぁ」

僕はクスクスと笑いながら立ち上がり、
歩き出した。





by tak