僕は、ベッドに身を投げ出した。
仰向けになって天井を見上げる。
イラついて、何もする気が起きなかった。

4時間半・・・・


僕の携帯は、用心深い草食動物のように
充電器の上にうずくまって沈黙していた。

やれやれ、メールひとつ返ってこないだけで
何も手につかないだなんて、ちょっと人には言えない。

「はぁ、試験前だってのに・・」

いつからこんな性格になってしまったのだろうか。
彼女にしても、まさか自分がメールを返さないだけで
僕の休日が丸ごと台無しになっているとは、思うまい。
理屈では、何か事情があるのだろうと分かるが
こればかりは気持ちの問題だから、どうしようもないのだ。

力なく腕を上げて、右腕につけた時計を見る。
1時35分

ブルーチタンでめっきされた文字盤に、
窓から差し込んだ攻撃的な直射日光が反射する。
SWISS MILITARYのアナログクォーツ
3年ほど前に、東急ハンズの時計売り場で買った。

中年の男性店員と、「時計はアナログに限る」
という話で盛り上がって
そのまま、衝動買いしてしまったのだ。

僕はデジタルの時計が好きではない
デジタルでは、時刻を知ることは出来ても、
時間を知ることは出来ないからだ。
僕にとって時間というのは時刻を表す数字ではなく、
文字盤と3本の針から得られる空間的な情報のことだ。
デジタル時計から時間を知るには、いったん頭の中に
文字盤と針を思いうかべなければならない。
だから面倒くさくて嫌いだ。

人の良さそうなあの男の顔は、今ではもう思い出せない。
今でもあそこにいるんだろうか。


あれから一体、この秒針は何回時を刻んだのだろう。
3年として1095日。閏年は・・・まあ無しでいいや。
60×60×24×1095=94,608,000秒

そして、さっきメールを送信してから16,200秒

僕は、もう一度右腕の時計を見た。
1時42分
訂正、16,620秒

僕は起き上がって、
机の脇に置いた携帯のデジタル時計を見た。
1:43

しかしその携帯は時を刻んではいない。
そしてメールはやはり届いていない。

そこにあるのは、いつもいつも
うすく引き延ばされた可能性だけなのだ。



by tak