むせ返るほどに暖房の効いた教室を抜け出して
僕は、講義塔から飛び出した。
貫くような冷たい空気を、胸いっぱいに吸い込む。

「はぁ、生き返った」

思わず声に出して言ってしまう。

だいたい、冬は寒いと昔から決まっているのだ。
寒ければ厚着をすればいいだけの話なのに、
何だってあんなにキチガイじみた暖房をしなければ
ならないのか、全く理解に苦しむ。
昔から暖房は嫌いなのだ。

おまけにあの救いようのない講議。
我慢しろという方がどうかしているのだ。
もうこの学期もそろそろ終盤だが、
いまだに90分間耐え切ったことはない。

「おとといきやがれってんだ・・・」

一息つくと僕は、PC室の入った建物に向かって歩き出した。
次の講義まで時間を潰さなければならない。

もう昼も近いというのに、キャンパスのほぼ中央に
位置する池には、まだ薄氷が残っている。
本当に寒い日だ。

僕は、ふと高く晴れ渡った空の青を見上げた。

青・・・というのは本当に不思議な色だ。
純粋で、知的で、冷静で、なおかつ情熱的で、優しい。
ほとんど全ての好ましい想いを、この色はもたらしてくれる。
だから、僕の身の回りのものは、青色が多い。
たとえば傘だ。傘は絶対に青に限る。

冬の朝の空は、まるで宇宙の闇を透かしたような深い深い青だ。
ある意味、満天の星空を見るよりも、この地球が宇宙の真っただ中に
ぽっかりと浮いているのだという事実を思い知らせてくれる。

「・・・そういえば、あいつが着てるコートも青だな」

彼女のことを考えた。
強くて、毅然としていて、そのくせ震えている。
・・・青がぴったりだ。
ここしばらく、彼女を見かけていない。


そのコートのくすんだ青を透かして見た彼女の姿は、
いつも僕を混乱させる。自分の居場所を見失ってしまうのだ。

いや結局のところ、そこに僕の居場所はないのだろう。

少しだけ、胸がヒリヒリする。

僕は、冷たい空気をおおきく吸い込むと
余計な想いといっしょに吐き出し、
その勢いで、目的の建物へと飛び込んだ。



by Tak