その日の天気は生憎の曇り空だった。

彼女はその日、傘を持っていなかったので、頭上のどんよりとした
グレーのカタマリを睨みつつ、いざとなったらコンビニに駆け込もう
・・・などと考えていた。

車のヘッドライトが灯り始めた。
雨粒は落ちてこない。

ほっとして彼女は足早に交差点を駆け抜けた。
いつもの場所に停めていた愛車のドアを開け、エンジンをかける。
ライトをつけて走り始めたところで、小さな雫がフロントガラスに
ぽつぽつと転がり始めた。

信号待ちでふと窓の外を見ると、色とりどりの傘の花が咲いていた。
赤や柄物の鮮やかな色はきっと女性の傘。
小さくて黄色の飛び跳ねてる傘は・・・子供ね。

信号が変わる瞬間、彼女の目に綺麗なブルーの傘が飛び込んできた。
それはまるで雨雲の切れ間にひょっこり顔を出した青空のようだった。
彼女はその青さに見とれ、クラクションを鳴らされていることにも
しばらく気がつかなかった。

「空の青さは彼の傘に吸い込まれてしまったんだわ」
現実的な彼女でさえ、そう思わざるを得ないほどの絶妙なブルー。
そしていつかまた必ず彼に会えるという不思議な感覚に苦笑しながら
左カーブを滑る様に曲がった。
テールランプのオレンジの光が綺麗な弧を描いたのを、青い傘もまた
見つめていた。



by aki