僕は、ハンドルを握りながら
今さっき彼女が言ったことを反芻していた。
・・・分からない。なぜこの女はこんなことを言うのだ。
理不尽な怒りがこみ上げてくる。
・・・ふざけるな。
すでに2時間以上、かみ合わない話し合いを続けていた。
もう限界だ。このままじゃ、僕は壊れる。
僕は、車を左に寄せてハンドブレーキをかけると
思いっきりハンドルを殴りつけた。続けざまに3回だ。
助手席の彼女がビクっと身を縮める。
「・・・なに?どうしたのよ」
そのコトバに、さらにイラつく。
「 どうしたかって? 少しは自分で考えてみろよ!
君の周りにはいつも男がいっぱいいるのに、君は
全然、男というものが分かってないんだね 」
「・・・イヤよ」
ダメだ・・・何をどうしたところで、理解なんてできない。
コイツは本当に同じ人間なのか?
青だか緑だかの血が流れているんじゃなかろうか・・・
限界まで高ぶった気持ちを抱えて彼女の横顔を眺めていると
なにか、沸々と湧き上がってくるものがあった。
この感情は・・・そう。
僕は自棄になって、思ったことをそのまま口に出した
「ねえ、君を抱きたいな。今すぐ、ここで。」
彼女は、信じられないというふうに目をむき
震える声で怒鳴った。
「どうして、そんなこと言うのよ!!」
その瞬間、ダムが決壊した。
たまっていた何かが、恐ろしい勢いで流れ出した
「壊したいんだよ!何もかも!」
そう壊したいんだ。取り返しがつかないくらいに、
彼女も、自分も、めちゃめちゃにしてしまいたいのだ。
塞がりかけた手術の跡を掻きむしるようにして。
ふいに笑いがこみ上げてきた。
ヤッテシマエ、コワシテシマエ
僕は、ウインカーも出さずに車を急発進させた。
そして、飛び出した次の瞬間、
後ろから来た10tトラックと衝突した。
車は衝撃で弾き飛ばされ、道路脇のガードレールに激突し、
跳ね返ったところで、さらにべつの乗用車と衝突して止まった。
さっき殴打したハンドルに、今度は僕の頭が殴打された。
顔面を生暖かいものがユルユルとつたい、
口の中には鉄の味が広がった。不思議と痛みは感じない。
助手席の彼女を見ようとしたが、まわそうとした首は
ぴくりとも動かなかった。
もうろうとする意識の中で、僕は何度も何度も念じ続けた
“ 壊れろ! 壊れろ! 壊れろ! ”
やがて、遠くの方からサイレンの音が近づき
僕の叫びをかき消した。
by tak