Sn 核における Mo クラスター混合モデルと半減期の関係  
100Sn 付近のスズ同位体は、魔法数核でありながら特異な崩壊特性を示すことで知られている。これらの半減期を理解するうえで、Mo(モリブデン)コアを基盤としたクラスター混合モデルが重要な役割を果たす。

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## ■ 1. 核構造とクラスター混合の考え方
原子核は一般にシェルモデルで記述されるが、特定の領域では「コア+クラスター」の重ね合わせ状態として扱う方が自然な場合がある。  
Sn(Z=50)核はその典型例で、特に質量数 100 付近では以下のようなクラスター構造が有効となる。

- Sn ≈ Mo コア + 16O クラスター  
- Sn ≈ Mo コア + (2p + 2n)

このようなクラスター成分は、シェルモデルだけでは説明しにくい崩壊特性や遷移強度を補完する。

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## ■ 2. Mo クラスター混合モデルの定式化
Sn 核の波動関数は、主に 2 つの構成の重ね合わせとして表される。

\[
|\Psi\rangle
= a\,|\mathrm{Mo\ core} + \mathrm{cluster}\rangle
+ b\,|\mathrm{other\ configurations}\rangle
\]

- \(a^2\):Mo+クラスター成分の確率  
- \(b^2\):その他の構成の確率  

クラスター崩壊(α崩壊、2p 放出など)は、クラスター成分が存在しなければ起こりにくいため、崩壊確率は \(a^2\) に比例する。

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## ■ 3. 半減期との関係
クラスター崩壊の半減期は、崩壊定数 \(\lambda\) とクラスター成分の確率 \(a^2\) によって次のように表される。

\[
T_{1/2} \propto \frac{\ln 2}{\lambda\, a^2}
\]

- \(a^2\) が大きい → クラスターが形成されやすい → 崩壊確率が増加 → 半減期が短くなる  
- \(a^2\) が小さい → 崩壊しにくい → 半減期が長くなる

この単純な関係が、Sn 核の半減期の系統性をよく説明する。

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## ■ 4. Sn–Mo 系の具体例
以下は、Mo コアとの関連を考慮したときの代表的な核種の比較である。

| 核種 | 状態 | 半減期 | 解釈 |
|------|------|--------|------|
| 100Sn | 0⁺ | 1.1 s | Mo+16O クラスター成分が比較的大きい |
| 101Sn | 5/2⁺ | 3 s | クラスター性は残るが 100Sn より弱い |
| 86Mo | 0⁺ | 19.6 s | Mo 単独コア、クラスター性は小さい |
| 85Mo | 1/2⁻ | 3.2 s | 単一粒子配置で Sn ほどの混合はない |

100Sn や 101Sn の短い半減期は、Mo+クラスター混合を導入することで自然に理解できる。

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## ■ 5. 混合係数の数値的評価
実測半減期 \(T_{1/2}^{\mathrm{exp}}\) と理論的な崩壊定数 \(\lambda\) を用いると、クラスター成分の確率 \(a^2\) を逆算できる。

\[
a^2 = \frac{\ln 2}{\lambda\, T_{1/2}^{\mathrm{exp}}}
\]

これにより、

- Sn 核に含まれる Mo+クラスター成分の割合  
- シェルモデル成分との干渉  
- 角運動量依存性や変形効果  

などを定量的に評価できる。

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## ■ 6. モデルが有効な理由
Sn 付近の核は以下の特徴を持つ。

- N=Z に近く、αクラスター形成が促進される  
- Mo コア構造が Sn の励起状態にしばしば現れる  
- シェルギャップが大きく、混合が波動関数に強く影響する  

これらの要因が、クラスター混合モデルを半減期解析において特に有効なものにしている。

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## ■ 7. 今後の展開
Mo クラスター混合モデルは、Sn だけでなく近傍の In や Sb 核にも適用可能である。  
さらに、

- 角運動量依存の混合係数  
- コア変形の導入  
- 電磁遷移強度との比較  

などを組み合わせることで、より精密な核構造理解へとつながる。