**1. K中間子の性質と基本分類**
K中間子は、第一世代のクォーク(uまたはd)と第二世代のストレンジクォーク(s)から構成され、その種類はK⁻、K⁺、K⁰、および反K⁰の4種類となっています。これにより、K中間子は通常の軽いメソンとは異なり、ストレンジ性を持ち、特異な相互作用に寄与する要素として扱われます。
**2. “K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)の特徴**
研究では、K⁻中間子が2個の陽子(pp)と結合して形成されると予想される束縛状態、すなわち「XK-pp」が検討されています。従来の原子核モデルでは、2個の陽子同士の結合(ジプロトン、あるいは仮想的なヘリウム2)は、強い相互作用が僅かに2%大きくなれば存在可能な計算結果と対照的に、実際には存在しません。ところが、K⁻pp状態においては、K⁻中間子が介在することで、通常の核融合エネルギーの約10倍、50MeVという非常に大きい束縛エネルギーが得られるという特徴が示唆されています。これは、K⁻の質量の約10%にも相当するため、非常に濃密な状態が形成される可能性を意味します。また、同位体として単純に扱うのではなく、超弦原子核構造の枠組みを採用することで、各核子が立体的な支柱構造で結びついており、K⁻を介した一時的なpp接触状態として解釈する考えも提示されています。
**3. 生成反応と実験的検出**
直接的な反応「K⁻+pp→XK-pp」はエネルギー保存則の観点から成立しにくいため、J-PARCのハドロン実験ホールでは「K⁻+³He→XK-pp+n」という反応が採用されました。ここで、³He(2個の陽子と1個の中性子)を標的として、初段階でK⁻中間子が中性子を前方に蹴り出し、その反動でエネルギーを損失したK⁻が残る陽子2個と直ちに結合し、XK-ppが生成されると考えられます。生成したXK-ppは非常に短命で、Λ粒子と陽子(Λ+p)に崩壊するため、その崩壊生成物を用いて不変質量スペクトルが再構成され、束縛エネルギー分だけマススケールが下がったピーク構造が観測されました。これにより、XK-ppが存在すること、そしてその束縛エネルギーが従来の原子核の数メガ電子ボルトと比べて約10倍の約50MeVであることが明らかになりました。
**4. 物理的意義と今後の展望**
この実験結果は、K中間子が原子核内部でメソンとしての特性を保持しつつ、通常の核子間相互作用をはるかに超える深い束縛状態を作り出す可能性を示しています。
- **超高密度核物質の可能性:** 50MeVという高い束縛エネルギーは、非常に濃密な核状態が自発的に形成されることを示唆します。これは、原子核の空間サイズが極めて小さい状態として現れ、物質密度とハドロンの質量との関係を再考する契機となる可能性があります。
- **量子色力学(QCD)への応用:** 核子内部のクォークの「色」がどの程度まで互いに見えるか、また高密度系での色相互作用の振る舞いは、QCDの根本的な疑問にもつながります。同様の観点は、実際に太陽質量の2倍近い中性子星の内部構造についての理解を深めるためにも重要です。
- **実験技術のさらなる発展:** 3Heを用いた反応の成功により、より大きな原子核や複数のK中間子束縛状態を探る実験への展開が期待され、次世代の実験設備や検出技術の進歩が求められます。
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このテーマは、従来の原子核物理学の枠組みを超えた新たな核構造の可能性を示唆しており、多くの理論的・実験的挑戦が残されています。例えば、なぜ同位体の観点からは「K⁻pn」状態が見られないのか、また超弦原子核構造という新たな視点がどのようにして従来の核モデルと統合されるのか、他にも高密度核物質がどのように中性子星の構造に影響を与えるのかなど、今後の研究で解明が進むべき課題が山積しています。
原論文情報
S. Ajimura, H. Asano, G. Beer, C. Berucci, H. Bhang, M. Bragadireanu, P. Buehler, L. Busso, M. Cargnelli, S. Choi, C. Curceanu, S. Enomoto, H. Fujioka, Y. Fujiwara, T. Fukuda, C. Guaraldo, T. Hashimoto, R. S. Hayano, T. Hiraiwa, M. Iio, M. Iliescu, K. Inoue, Y. Ishiguro, T. Ishikawa, S. Ishimoto, K. Itahashi, M. Iwasaki, K. Kanno, K. Kato, Y. Kato, S. Kawasaki, P. Kienle, H. Kou, Y. Ma, J. Marton, Y. Matsuda, Y. Mizoi, O. Morra, T. Nagae, H. Noumi, H. Ohnishi, S. Okada, H. Outa, K. Piscicchia, Y. Sada, A. Sakaguchi, F. Sakuma, M. Sato, A. Scordo, M. Sekimoto, H. Shi, K. Shirotori, D. Sirghi, F. Sirghi, K. Suzuki, S. Suzuki, T. Suzuki, K. Tanida, H. Tatsuno, M. Tokuda,D. Tomono, A. Toyoda, K. Tsukada, O. Vazquez Doce, E. Widmann, T. Yamaga, T. Yamazaki, Q. Zhang, and J. Zmeskal(75 authors), "“K−pp”, a K ̅-Meson Nuclear Bound State, Observed in3He(K−, Λp)n Reactions", Physics Letters B, 10.1016/j.physletb.2018.12.058
発表者
理化学研究所
考察
K中間子は第一世代のクォークと第二世代のストレンジクォークからなる。種別はK−、K+、K0、反K0、の4種類がある。
“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)
K⁻中間子 ⇒ XK
pp ヘリウム2(ジプロトン)は、ヘリウムの仮想的な同位体で、計算上は強い相互作用がもう2%大きかったら存在することができる。
2H STABLE1+0.000115(70) pn
2Hは水素のもう1つの安定同位体であり、重水素(デューテリウム、deuterium)という名前で知られている。重水素の原子核は1つの陽子と1つの中性子からなる。地球上での重水素の存在比は0.0026 – 0.0184%(モル分率または原子分率)である。
“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)は以下のように生成される。ここでは、超弦原子核構造から “K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)の意味合いを考えて見る。
2Hは安定した同位体であるから、同位体の優位性があれば、“K⁻pn”中間子束縛原子核状態(XK-pn)が存在している筈である。この状態が許されない意味としては、ホログラフィックエリアの優位性が、同位体の優位性よりも勝っていることが原因であると思われる。
“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)の結合エネルギーは、通常の核融合エネルギーの10倍(👇で確認)ある。このように強い結合状態で深い基底状態の“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)は、通常であれば安定する筈であるが、直ちに崩壊している。
“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)が意味している事は、超弦原子核構造で説明できると思う。
通常の原子核モデルでは、“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)は、二つの陽子をXKで結び付けた構造をしている。この場合、“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)と ヘリウム2(ジプロトン)とは区別できない。これは、また、計算上は、強い相互作用がもう2%大きかったら 、ヘリウム2が存在することができるとする理論計算からも逸脱している。何故ならば、“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)の結合エネルギーは、通常の核融合エネルギーの10倍(👇で確認)ある。
超弦原子核構造では、其々の核子は、立体的な支柱構造で結ばれており、その結合力は ①-1⃣ が最大値になっている。従って、“K⁻pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)は、同位体ではなく、一時的なpp接触状態となっていることが考えられる。これは、XKホログラフィックエリアに、二つの陽子が入り込んだ状態であるから、ヘリウム2が形成された訳ではない。
研究手法と成果
“K-pp”中間子束縛原子核状態(XK-pp)を作るためには、K-+“pp”→XK-ppという反応が最も単純です。ところが、XK-ppの質量エネルギーがK-中間子と陽子2個の質量エネルギーの和よりも、束縛エネルギーの分だけ小さくなるため、反応の前と後でのエネルギー保存則を満たすことができません。
そこで、国際共同研究グループは、大強度陽子加速器施設 J-PARC(茨城県東海村)にあるハドロン実験ホールにて、K-中間子ビームを陽子2個と中性子(n)1個からなるヘリウム3(3He)原子核の標的に照射する実験を行いました(図1)。
この実験では、K-+3He→XK-pp+nという反応により、前方に中性子が蹴り出されます。図2に示すように、この反応は不確定性原理が許す時間内に起こる二段階反応として理解できます。まず、K-中間子が3He中の中性子を弾性的に前方に蹴り出す一方で、K-中間子は中性子よりも軽いため後方に反跳(q)を受け、エネルギーを大きく失います。この反跳を受けたK-中間子は、反応に関与しなかった残りの陽子2個と直ちに結合します。不確定性原理により、反跳を受けたK-中間子のエネルギーがXK-ppの束縛エネルギーと等しい分だけ小さくなったときにXK-ppが生成されます。また、余分なエネルギーは、第一段階で前方に蹴り出されつつある中性子が受けて持ち出すので、反応全体でエネルギーおよび運動量保存則が満たされます。
ただし、生成したXK-ppはすぐに崩壊してしまうため、実験ではXK-ppがΛ粒子と陽子に崩壊する事象(XK-pp→Λ+p)を観測し、観測していない残りの粒子が中性子だったことを、エネルギーおよび運動量保存則で確認しました。XK-ppからの崩壊Λpを計測して、元のXK-ppの質量を再構成した不変質量スペクトルを図3に示します。スペクトルは、ばらばらの状態のK-中間子とニつの陽子の質量の和(質量閾値)よりも明らかに低い質量値に、ピーク構造を持っています。このような構造は、束縛エネルギーの分だけ質量閾値よりも質量エネルギーが小さい状態、すなわちXK-ppが存在することを示しています。
さらに、中間子原子核束縛状態XK-ppは、通常の原子核の束縛エネルギー(数メガ電子ボルト[MeV、Mは100万])よりも約10倍大きい50MeVという束縛エネルギーを持つことが分かりました。これは、構成要素であるK-中間子の質量の10%にあたる巨大な束縛エネルギーです。これらの結果から、極めて特異的な高密度核物質が自発的に形成されたと考えられるだけでなく、実際に空間的に極めて小さいことを示唆する実験データが得られました。
今後の期待
K中間子と原子核が束縛状態を作ること自体はさまざまな理論研究から予想されていましたが、予想される束縛エネルギーは理論の枠組みの違いによってさまざまでした。今回、K-中間子が原子核内でも中間子の実粒子としての特性を失わずに存在し、陽子二つと非常に深い束縛状態を作ることや、その束縛エネルギーが非常に大きいことが分かりました。さらに、その束縛エネルギーのせいで空間サイズが小さいことも示唆されたことから、量子色力学における物質密度とハドロンの質量の関係についても理論的研究の発展が期待されます。
原子核内の核子は、量子色力学でいう「色」を持ったクォークが三つ組み合わさって閉じ込められることで「無色」になった状態ですが、どこまで核子を近づけると互いの色が見えてくるのか分かっていません。また、最近の観測で太陽質量の2倍もある中性子星が見つかっていますが、その巨大な質量にもかかわらず、なぜ中心部が崩壊せずに外殻物質を支えられるのかについてもよく分かっていません。このような、宇宙における自然法則の謎に迫るためにも、中間子束縛原子核の研究の進展は不可欠です。そのために、国際共同研究グループはJ-PARCでのハドロン実験を通して、より大きな原子核との束縛状態や、複数のK中間子の束縛状態の探査検証実験を通して、その謎に挑んでいきたいと考えています。