マタイ24章の終末に関するイエスの預言の中に、「荒らす憎むべき者」が登場します。

 

預言者ダニエルによって言われた、荒らす憎むべき者が、聖なる場所に立つのを見たならば(読者よ、悟れ)、そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げよ。(マタイ24:15)

 

新世界訳では「荒廃をもたらす嫌悪すべき者」となっています。ダニエル書には「エルサレムの荒廃」という表現があり、この「荒廃」とはエルサレムの荒廃のことを述べていると理解できます。聖なる都エルサレムは、古代にはバビロンによって、また二世紀にはローマ帝国によって荒廃させられました。いずれも当時の世界強国によって滅ぼされましたので、「荒らす者」また「荒廃をもたらす者」とは政治強国のことであると言えるでしょう。

「荒らす者」と「憎むべき者」とが、もともとは別の存在であることが、ダニエル書の記述から分かります。

 

彼は一週の間多くの者と、堅く契約を結ぶでしょう。そして彼はその週の半ばに、犠牲と供え物とを廃するでしょう。また荒す者が憎むべき者の翼に乗って来るでしょう。こうしてついにその定まった終りが、その荒す者の上に注がれるのです」。(ダニエル9:27)

 

神やイエスの側から見て「憎むべき者」「嫌悪すべき者」とは「偽りの神」であると考えられます。それはモーセの十戒の1番目の指示に反する、最も憎むべき者だからです。

従って、「荒す者が憎むべき者の翼に乗って来る」と述べている通り、「荒らす憎むべき者」とは、政治勢力と偽りの宗教とが合体したものであり、神ならぬ神を信奉する世界強国のことであると言えます。

 

真のクリスチャンを迫害し、エルサレムを荒廃させたローマ帝国は、4世紀にはキリスト教を国教とすると共に、イエスを神とする「三位一体」を確立しました。

 

ビザンチン帝国の興隆とともに全盛を極めたローマ帝国ですが、その後オスマン帝国の台頭により衰退し始めます。西暦800年にフランク王国のカール大帝に、自らの教皇権を授与し、こうして三位一体を信奉する西欧諸国の基盤が整いました。イスラム勢力によって瀕死の重傷を負ったローマ帝国は、息を吹き返し、十字軍の遠征などを経てオスマントルコを解体し、現在のイスラム諸国が誕生しました。

黙示録13書に述べられているのはこれらの出来事です。

 

その頭の一つが、死ぬほどの傷を受けたが、その致命的な傷もなおってしまった。そこで、全地の人々は驚きおそれて、その獣に従い、 また、龍がその権威を獣に与えたので、人々は龍を拝み、さらに、その獣を拝んで言った、「だれが、この獣に匹敵し得ようか。だれが、これと戦うことができようか」。(黙示13:3,4)

 

終末に関する冒頭のイエスの預言を解釈する上で、こうした「荒らす憎むべき者」の実態を知ることは極めて大切です。