『英文解釈教室』にまつわる誤解 | 真面目に脱線話@リンガランド英語塾

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1977年に出版された伊藤和夫著『英文解釈教室』は、伊藤和夫という「受験英語指導の巨人」について、いくつかも誤解を与えてきたのではないかと考えている。本ブログでもだいぶ前からそのことは何度も触れている。



「何度も触れているのに、また触れるのはなぜか」と思われた方もいるかもしれない。それは、かなり前に出て絶版になった『英文法どっちがどっち』が復刊されると知ったからである。伊藤先生の本としてはあまり評判にならなかったものだが、個人的には思い入れがある。



前回の「本当は怖いbe動詞」で「英文法にこだわっているから、英語ができなくなる」という文法不要論者の意見を紹介した。『英文解釈教室』への誤解も基本的にはその延長上にある。





1977年に出版された『英文解釈教室』、あるいは1997年に出版されたその『改訂版』を読んで方ならわかってもらえるだろうが、高校生がこの本を読むのは相当に骨が折れる。私はぎりぎり「詰め込み教育世代」に属すのだが、それでも1回読み終わるのに半年かかっている。



いずれにせよ、今の高校生や大学受験生が読むのはかなりハードルが高いのは間違いない。



『英文解釈教室』は個人的にも「恩人」と言ってもいいほど思い入れがある参考書である。ただし、私も何度も挫折しかけている。「あとがない」という気持ちだけでなんとか踏みとどまった。



そもそも私は中学校のとき英語は「授業のみ」でほとんど勉強せず、「落ちこぼれ」というほどではなかったものの、親しくしていた友人たちに成績は遠く及ばないほど差をつけられていた。



私の通っていた中学校では、当時、ほとんどの生徒が進学塾に通っており、英語については毎週例文暗記や単語暗記をさせていた。だから、授業だけで満足していると、どんどん置いていかれた。



私は塾に通わないだけでなく、綴りと発音が一致せず、習ったこともいくら当てはめても理屈どおりにいかない英語の「理不尽さ」に嫌気がさして、ほとんど勉強しなかった。



その塾の指導が良かったのか、私の代は「英検3級合格率日本一」などというものをもらったりしていた。



その挙げ句、最初の高校入学直後の模擬試験で、英語は300人以上いる学年全体でビリから2番というとんでもない成績をとってしまった。偏差値でいうと30台半ばではなかったかと記憶している。とてもじゃないが親には見せられなかった。



いつまでも英語から逃げ回っていてもしょうがないと思い、2年生に上がって書店に行った。「この本なら心中してもいい」という本を見つけて、信じてかじりつこうとした。私の場合、それが『英文解釈教室』だ。



はじめた当初は、とんでもない本を選んでしまったと後悔したが、読み進むごとに「この本はほかの本と全く違う」という感触を得て、何度か挫折しながらもなんとか最後まで読み進んだ。「読むのに半年かかった」と書いたが、「もう読みたくない」と中断し、それが癒えてまた開始するといった繰り返しがかなりあったせいである。実際に読んだ「のべ時間」はさほど膨大ではなかったようにと思う。



読み終わったあとに驚いたのは、これまで記号にしか見えなかった英語の意味がどんどんとれるようになったことである。模擬試験も偏差値70を楽に超え、受けるたびに上がっていった。『英文解釈教室』のおかげだとわかってはいるが、でも何が起こったのか実感がなく、少なからず不思議な感覚だった。



何が起こったかがわかったのは、大学に入ってこの本をざっと読み直したあとである。「それ」がひらめいたときのことはいまだに鮮明に覚えている。



伊藤先生は英語の受験勉強はやっておらず、自分で原書を読んで身につけている。だから、『英文解釈教室』という参考書は、それまでのどんな本にも似ていない。では、どうやって書かれたかというと、「自分がどうやって英語を読んでいるか」を分析して、無意識におこなっている精神的作業を意識化して解説しているのである。



そのことに気づいたとき、「衝撃」に近い感覚に襲われた。





『英文解釈教室』に関する誤解とはまさにこの点である。「なぜこんなに理屈ばかり言っているんだ。理屈で英語は読めないよ!」と誤解するのである。



ある方のご厚意で伊藤先生の「幻の処女作」と言われる本のコピーをいただいた。あまりに大著で全く読む気がいまだに起こらないのだが、ただ、目次を見れば何をやっているかわかる。ちょっと触れるだけで深く肌をえぐりそうな切れる刃物のような参考書である。とにかく英語について知っている知識を考えたことを、英語の構造分析にためにぶち込んでシステム化したといったイメージである。



それに比べると、『英文解釈教室』は「英語を読む」という1点でよけいな装飾を省き、抑制的に解説している洗練がある。英語が読めるための要素のみに絞っている。膨大な情報があるように見えるが、すべては「英語を読む」というごく単純な作業を貫徹するための道具立てに過ぎない。英語を読めるようにためには、私たちの無意識はそれくらいの情報を必要とするのである。



『英文解釈教室』を読むことは、たとえるなら頭の中をフォーマットして「英語を読むシステム」をインストールするようなものである。ただ、パソコンならじーじー音をたてながら待っていれば終わるが、人間の頭でそれをやるとかなりの負荷がある。高校生で読んだとき中断期間ができたのは、ほとんど「英語知識ゼロ」の頭では負荷が大きくて、インプットしたものが脳に定着するまで時間を要したからなのだろう。



そういったわけで、『英文解釈教室』を見て「何を理屈ばっかり言っているんだ!」と思ったら、それは誤解である。「なんでこんな当たり前のことばかり言っているんだ! 言われなくてもやってるよ!」と腹が立ったとしたら、英語が読める人が持つべき「正しい」怒りだろう。



続きます。




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